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第2章
2-42玄関外、坂道の途中 ☆
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お互いに連絡先を交換し、あまり長居し過ぎないところでお暇することにした。
「お邪魔しました」
「ご馳走さまでした」
「いやいや、こちらこそ今日は来てくれてありがとう」
僕らの挨拶に父親が返してくれた。
「会えて嬉しかったよ。今後ともよろしくお願いします」
「こちらもです。天音ちゃんとは会ってましたけど、他の家族のことは聴くだけでしたので」
「ええ。これから話を聴くのが楽しみです」
「良かった。じゃあ、本当に、よろしくお願いします」
馴染んだからか母親は緊張している様子はなかたけど、「本当に」の部分には力が籠っていた。
両親から頭を下げられ、こちら二人もお辞儀した。
家を出て、幸恵さんが改めてお礼を言いに来てくれた。
「今日は本当にありがとう。みんな楽しそうだったよ」
「こちらこそ。家でも君は変わらないな」
「電話口では声を高くするみたいなことはしたことないからね」
「多分違うと思うよ幸恵さん」
「家族が相手でも他人のためを思って行動しているところ。友人も見ず知らずの人も本当に分け隔てないとよく分かったよ。無論、私も助けられている人の一人だが」
僕は純粋に褒めていると感じた。
けど、幸恵さんはどうもそう思っていなさそうな、翳りのある笑顔だった。
――私ってずれてるよね。――
不意に思い出した幸恵さんの言葉。
このことじゃないかもしれないのに、僕は結び付けてしまった。
多くの人はそうすることを棄てているだけなのに、幸恵さんはそれをずれと感じていると。
「私もそうありたいものだ」
幸恵さんは少し驚き、
「……そっか」
と呟いた。
その表情には、もう翳りは無かった。
「順調そうで良かった」
「「何が?」」
声を合わせ、二人して僕を見る。
「いやその……勉強の方がね!」
「ああ。そうだ、幸恵さんのおかげで順調だ」
「うん。大学同時に二つ受かれるよ」
「決まりとしては駄目だよ?」
「そこなんだよね~」
冗談じゃなくて本気の反応だった。
◇
いろいろな家族を見て我が身を振り返る。
形はどうあれ、少なからずお互いを好きでいた。
でも僕は、僕の父親が嫌いだ。
家族である前に人間だから、好き嫌いは当たり前にある関係ではないのか。
人間である前に家族だから、好き嫌いの関係ではないのが当たり前なのか。
僕の家族と、深町姉妹や西沖家は――
「違った?」
まるで自分の思考が音声になったかのように感じて驚き、即座に振り返った。
「私と奏向くんの家族」
その言葉は本当に読んだかのようだ。
その人なら本当に読んだかもしれない。
坂道の途中、木陰に入っていた僕は陽光に照らされていた幸恵さんを見た。
「それは……そうだね」
「そっか。今度もし良ければ、私もいつか奏向くんの家に行かせて」
「……考えておくよ。じゃあ、またね」
幸恵さんは首を縦に振った。
その表情は仕方なさそうに見えたけど、見えなかったことにして僕は踵を返した。
「お邪魔しました」
「ご馳走さまでした」
「いやいや、こちらこそ今日は来てくれてありがとう」
僕らの挨拶に父親が返してくれた。
「会えて嬉しかったよ。今後ともよろしくお願いします」
「こちらもです。天音ちゃんとは会ってましたけど、他の家族のことは聴くだけでしたので」
「ええ。これから話を聴くのが楽しみです」
「良かった。じゃあ、本当に、よろしくお願いします」
馴染んだからか母親は緊張している様子はなかたけど、「本当に」の部分には力が籠っていた。
両親から頭を下げられ、こちら二人もお辞儀した。
家を出て、幸恵さんが改めてお礼を言いに来てくれた。
「今日は本当にありがとう。みんな楽しそうだったよ」
「こちらこそ。家でも君は変わらないな」
「電話口では声を高くするみたいなことはしたことないからね」
「多分違うと思うよ幸恵さん」
「家族が相手でも他人のためを思って行動しているところ。友人も見ず知らずの人も本当に分け隔てないとよく分かったよ。無論、私も助けられている人の一人だが」
僕は純粋に褒めていると感じた。
けど、幸恵さんはどうもそう思っていなさそうな、翳りのある笑顔だった。
――私ってずれてるよね。――
不意に思い出した幸恵さんの言葉。
このことじゃないかもしれないのに、僕は結び付けてしまった。
多くの人はそうすることを棄てているだけなのに、幸恵さんはそれをずれと感じていると。
「私もそうありたいものだ」
幸恵さんは少し驚き、
「……そっか」
と呟いた。
その表情には、もう翳りは無かった。
「順調そうで良かった」
「「何が?」」
声を合わせ、二人して僕を見る。
「いやその……勉強の方がね!」
「ああ。そうだ、幸恵さんのおかげで順調だ」
「うん。大学同時に二つ受かれるよ」
「決まりとしては駄目だよ?」
「そこなんだよね~」
冗談じゃなくて本気の反応だった。
◇
いろいろな家族を見て我が身を振り返る。
形はどうあれ、少なからずお互いを好きでいた。
でも僕は、僕の父親が嫌いだ。
家族である前に人間だから、好き嫌いは当たり前にある関係ではないのか。
人間である前に家族だから、好き嫌いの関係ではないのが当たり前なのか。
僕の家族と、深町姉妹や西沖家は――
「違った?」
まるで自分の思考が音声になったかのように感じて驚き、即座に振り返った。
「私と奏向くんの家族」
その言葉は本当に読んだかのようだ。
その人なら本当に読んだかもしれない。
坂道の途中、木陰に入っていた僕は陽光に照らされていた幸恵さんを見た。
「それは……そうだね」
「そっか。今度もし良ければ、私もいつか奏向くんの家に行かせて」
「……考えておくよ。じゃあ、またね」
幸恵さんは首を縦に振った。
その表情は仕方なさそうに見えたけど、見えなかったことにして僕は踵を返した。
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