僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第2章

2-40そば料理の団欒

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「挨拶が遅れました」
 更に別の男性の声が聴こえた。

 彼が、幸恵さん、そしてこの大家族の父親なのか。

「ちょっと待っててもらえるかな?」

 気さくな雰囲気だ。幸恵さんやきょうだいみんなの性格は父親譲りなんだろう。

「ところで、お母さんは?」

「いや? 見なかったけど」
 幸恵さんが答えた。

 それで漸く分かった。僕たちが見なかったのは、見られていたからだ。
 僕は左半身だけこちらに見せていた女性に気付いた。
 ……というかその場の全員が気付いた。
 その人は全員沈黙する中で出てきた。
 それから会釈した。

「はじめまして、幸恵たちの母です。いつも娘と親しくしてくれてありがとう。今後もよろしくね」

 これまでのことが無かったかのようにあまりにも朗らかと話したので、まぁいいかって思った。

「あ……ごめんなさい。お母さん、私が男の子と二人も仲良くしていることに衝撃を受けちゃってて」

「そうなの?」

「だから、ちゃんと奏向くんと福成くんに会ってほしくて。普段はあんな感じじゃないから!」

「そうなんだ……」

 幸恵さんたちの性格は母親譲りのところもあると思った。

「そっか。我々ができることはあるかな?」

 対する油井の落ち着きもさすがだ……。
 幸恵さんは首を横に振って言う。
 
「そんなそんな! 今日は楽にしてもらえれば充分だよ。もう弟、妹と仲良くなったみたいだし」

「じゃあ、お言葉に甘えて」



 そうして、そば料理を振る舞われた。
 “そば料理”は麺としてのそばのみならず。そばの揚げ焼き、焼きそばに代えてソースで焼いたそばを使った広島風お好み焼きとそばめし……。
 キャベツの次はそば?
 まさかとは思うけど……。
 僕は天音ちゃんを挟んで隣に座っていた幸恵さんに訊いた。

「この料理……僕に合わせたわけじゃないよね」

「うん。福成くんも来るのにそんなことしないよ」

 安心した。……どこか辛辣な気がする。

「じゃあ僕と油井の好み?」

「それも違うよ。そういえば福成くんに好み訊いたことなかったな」

「だったら、この間僕がそばって言った時に買いすぎた?」

「違う違う。元からこれだけあったんだよ。まだまだあると思うよ」

「……キャベツと同じで、また親戚から?」

「そうそう。大家族の私たちを心配してくれているんだよね。ありがたいよ」

「そなたもしんぱい?」

 頭越しの会話を聞いていたであろう天音ちゃんが僕に訊いた。

「うん……なんというか、どうなっているのかな~なんて」

「いつもこう。だけどありがとう」

「どういたしまして」

「偏っていると言うのであれば、私に原因があります……。申し訳ない」
 長こたつの角を挟んで隣の西沖父が申告した。

「い、いえ! 美味しいですから! 僕の言葉なんて気にしないでください!」

「それに、ここまで違う料理が作れることに単純に驚いています」
 幸恵さんの隣の油井が言ってくれた。

「ありがとう、二人とも」

「良かった良かった、喜んでもらえて。僕は別の食材使う方が良いと思ったけど」

「富益なんで蒸し返す?」

「え~? 和朗にぃ、いつもは良いけど今日お客さん呼んでのこれだよ?」

「確かに……」
「そうだね……」
 お父さんと和朗くんが納得してしまった。

「いいんじゃない? 二人は良いって言ってるし、あるかどうか分からないけど次気をつければ」

「そうだな」

 幸恵さんの意見でまとまったらしい。幸恵さん本当にお姉さんだな~。
 お母さんといえばずっと食べていました。
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