上 下
100 / 204
第2章

2-40そば料理の団欒

しおりを挟む
「挨拶が遅れました」
 更に別の男性の声が聴こえた。

 彼が、幸恵さん、そしてこの大家族の父親なのか。

「ちょっと待っててもらえるかな?」

 気さくな雰囲気だ。幸恵さんやきょうだいみんなの性格は父親譲りなんだろう。

「ところで、お母さんは?」

「いや? 見なかったけど」
 幸恵さんが答えた。

 それで漸く分かった。僕たちが見なかったのは、見られていたからだ。
 僕は左半身だけこちらに見せていた女性に気付いた。
 ……というかその場の全員が気付いた。
 その人は全員沈黙する中で出てきた。
 それから会釈した。

「はじめまして、幸恵たちの母です。いつも娘と親しくしてくれてありがとう。今後もよろしくね」

 これまでのことが無かったかのようにあまりにも朗らかと話したので、まぁいいかって思った。

「あ……ごめんなさい。お母さん、私が男の子と二人も仲良くしていることに衝撃を受けちゃってて」

「そうなの?」

「だから、ちゃんと奏向くんと福成くんに会ってほしくて。普段はあんな感じじゃないから!」

「そうなんだ……」

 幸恵さんたちの性格は母親譲りのところもあると思った。

「そっか。我々ができることはあるかな?」

 対する油井の落ち着きもさすがだ……。
 幸恵さんは首を横に振って言う。
 
「そんなそんな! 今日は楽にしてもらえれば充分だよ。もう弟、妹と仲良くなったみたいだし」

「じゃあ、お言葉に甘えて」



 そうして、そば料理を振る舞われた。
 “そば料理”は麺としてのそばのみならず。そばの揚げ焼き、焼きそばに代えてソースで焼いたそばを使った広島風お好み焼きとそばめし……。
 キャベツの次はそば?
 まさかとは思うけど……。
 僕は天音ちゃんを挟んで隣に座っていた幸恵さんに訊いた。

「この料理……僕に合わせたわけじゃないよね」

「うん。福成くんも来るのにそんなことしないよ」

 安心した。……どこか辛辣な気がする。

「じゃあ僕と油井の好み?」

「それも違うよ。そういえば福成くんに好み訊いたことなかったな」

「だったら、この間僕がそばって言った時に買いすぎた?」

「違う違う。元からこれだけあったんだよ。まだまだあると思うよ」

「……キャベツと同じで、また親戚から?」

「そうそう。大家族の私たちを心配してくれているんだよね。ありがたいよ」

「そなたもしんぱい?」

 頭越しの会話を聞いていたであろう天音ちゃんが僕に訊いた。

「うん……なんというか、どうなっているのかな~なんて」

「いつもこう。だけどありがとう」

「どういたしまして」

「偏っていると言うのであれば、私に原因があります……。申し訳ない」
 長こたつの角を挟んで隣の西沖父が申告した。

「い、いえ! 美味しいですから! 僕の言葉なんて気にしないでください!」

「それに、ここまで違う料理が作れることに単純に驚いています」
 幸恵さんの隣の油井が言ってくれた。

「ありがとう、二人とも」

「良かった良かった、喜んでもらえて。僕は別の食材使う方が良いと思ったけど」

「富益なんで蒸し返す?」

「え~? 和朗にぃ、いつもは良いけど今日お客さん呼んでのこれだよ?」

「確かに……」
「そうだね……」
 お父さんと和朗くんが納得してしまった。

「いいんじゃない? 二人は良いって言ってるし、あるかどうか分からないけど次気をつければ」

「そうだな」

 幸恵さんの意見でまとまったらしい。幸恵さん本当にお姉さんだな~。
 お母さんといえばずっと食べていました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

処理中です...