僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第2章

2-35毒吐く人と毒突く人

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「そっか、凛紗さんのこと見覚えが無いと思っていたんだけど、そういう事情があったんだ」

「姉が目立つのと双子で似ているので、余計に、だと思います」

「草壁が影武者って言ってた。冴羅さんの方だと思っていたのが凛紗さんだったかもしれないって意味で」

「本当に全くその通りです!」

「いや影武者とは言ってなかった」

「そうなんですか?」

「落ち武者とか失礼な間違いしてた」

「……本当に失礼ですね。あ、いや、確かに似てますけど!」
 苦笑いしてからため息を吐いて俯く凛紗さん。

「僕は良いと思いますよ。たまにそんな感じで毒吐くの」

 また僕の方を向いてくれた。
「え……? あ……ありがとうございます」
 よく見るとどこかに期待しているような目つきだった。

「そ、その、色々教えてほしいと言いましたけど……」

「うん」

「エ、エッチなことは教えなくていいですから……」

「全くそんなつもり無かったから大丈夫だよ!?」

「ごめんなさいっ!」



 景色を眺める凛紗さんを見ながら思う。

 なぜ昨日冴羅さんは凛紗さんの話をしなかったのだろうか。
 こうして出掛けられるようになった今だからこそ懸念は父親のみということなのか、それでもこれまでのように病気で出掛けられないものとして凛紗さんを含めていないということなのか。

 この双子の本当の望みはどんなことなのだろうか。



 ショッピングモールが目前に迫った。

「ちょっと緊張してきました」

「映画?」

「それもありますけど、人が多いのも……。と、取り敢えず変じゃないですよね!?」
 そう言って両腕を広げる。

 シャツの上から薄手の上着と、ハーフパンツ。細いながらもやや丸みがある脚の白い肌を見せていた。顔や手と同じく透き通るようだけど、いつもはソックスで覆われているからか余計に惹き付けられる。

「とても似合っているよ」

「ありがとうございます! ……脚、出しすぎたかもしれないと思っていたんです。こんな時だから良いかな、とも思ったんですけど、浮かれすぎのような気もして。でも姉にそんな様子が伝わるようにする必要はありますし……。だから、変じゃなくて良かったです」

「……伝わっていると良いね」

「はい!」

 心にも無いことを。自分自身をそう毒突いた。

 ショッピングモールの敷地内に入った。今は日曜の昼前。駐車場を見ると、車は駐車可能な空きを探してさまよっていた。

 昨日と同じ時間に観ることにしていたため、もうあまり時間は無かった。席の配置を思い出しつつ、手早くチケットを二人分発券した。

「すごい! 慣れているんですね! よく来るんですか?」

「ああ、まあ、うん……」

 僕を見るその目の輝きが痛かった。
 手にあるチケットは、何をしているのだろうという思考に追い討ちをかけた。ホラーだし。一度観たし。
 ただ、選べる中で一番良い席を選べたとは思う。……昨日とは比較にならないほど。観たかった映画をほとんど来たことの無い映画館でそこそこの位置から凛紗さんに観てもらえると思うと、素直に嬉しかった。
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