95 / 204
第2章
2-35毒吐く人と毒突く人
しおりを挟む
「そっか、凛紗さんのこと見覚えが無いと思っていたんだけど、そういう事情があったんだ」
「姉が目立つのと双子で似ているので、余計に、だと思います」
「草壁が影武者って言ってた。冴羅さんの方だと思っていたのが凛紗さんだったかもしれないって意味で」
「本当に全くその通りです!」
「いや影武者とは言ってなかった」
「そうなんですか?」
「落ち武者とか失礼な間違いしてた」
「……本当に失礼ですね。あ、いや、確かに似てますけど!」
苦笑いしてからため息を吐いて俯く凛紗さん。
「僕は良いと思いますよ。たまにそんな感じで毒吐くの」
また僕の方を向いてくれた。
「え……? あ……ありがとうございます」
よく見るとどこかに期待しているような目つきだった。
「そ、その、色々教えてほしいと言いましたけど……」
「うん」
「エ、エッチなことは教えなくていいですから……」
「全くそんなつもり無かったから大丈夫だよ!?」
「ごめんなさいっ!」
◇
景色を眺める凛紗さんを見ながら思う。
なぜ昨日冴羅さんは凛紗さんの話をしなかったのだろうか。
こうして出掛けられるようになった今だからこそ懸念は父親のみということなのか、それでもこれまでのように病気で出掛けられないものとして凛紗さんを含めていないということなのか。
この双子の本当の望みはどんなことなのだろうか。
◇
ショッピングモールが目前に迫った。
「ちょっと緊張してきました」
「映画?」
「それもありますけど、人が多いのも……。と、取り敢えず変じゃないですよね!?」
そう言って両腕を広げる。
シャツの上から薄手の上着と、ハーフパンツ。細いながらもやや丸みがある脚の白い肌を見せていた。顔や手と同じく透き通るようだけど、いつもはソックスで覆われているからか余計に惹き付けられる。
「とても似合っているよ」
「ありがとうございます! ……脚、出しすぎたかもしれないと思っていたんです。こんな時だから良いかな、とも思ったんですけど、浮かれすぎのような気もして。でも姉にそんな様子が伝わるようにする必要はありますし……。だから、変じゃなくて良かったです」
「……伝わっていると良いね」
「はい!」
心にも無いことを。自分自身をそう毒突いた。
ショッピングモールの敷地内に入った。今は日曜の昼前。駐車場を見ると、車は駐車可能な空きを探してさまよっていた。
昨日と同じ時間に観ることにしていたため、もうあまり時間は無かった。席の配置を思い出しつつ、手早くチケットを二人分発券した。
「すごい! 慣れているんですね! よく来るんですか?」
「ああ、まあ、うん……」
僕を見るその目の輝きが痛かった。
手にあるチケットは、何をしているのだろうという思考に追い討ちをかけた。ホラーだし。一度観たし。
ただ、選べる中で一番良い席を選べたとは思う。……昨日とは比較にならないほど。観たかった映画をほとんど来たことの無い映画館でそこそこの位置から凛紗さんに観てもらえると思うと、素直に嬉しかった。
「姉が目立つのと双子で似ているので、余計に、だと思います」
「草壁が影武者って言ってた。冴羅さんの方だと思っていたのが凛紗さんだったかもしれないって意味で」
「本当に全くその通りです!」
「いや影武者とは言ってなかった」
「そうなんですか?」
「落ち武者とか失礼な間違いしてた」
「……本当に失礼ですね。あ、いや、確かに似てますけど!」
苦笑いしてからため息を吐いて俯く凛紗さん。
「僕は良いと思いますよ。たまにそんな感じで毒吐くの」
また僕の方を向いてくれた。
「え……? あ……ありがとうございます」
よく見るとどこかに期待しているような目つきだった。
「そ、その、色々教えてほしいと言いましたけど……」
「うん」
「エ、エッチなことは教えなくていいですから……」
「全くそんなつもり無かったから大丈夫だよ!?」
「ごめんなさいっ!」
◇
景色を眺める凛紗さんを見ながら思う。
なぜ昨日冴羅さんは凛紗さんの話をしなかったのだろうか。
こうして出掛けられるようになった今だからこそ懸念は父親のみということなのか、それでもこれまでのように病気で出掛けられないものとして凛紗さんを含めていないということなのか。
この双子の本当の望みはどんなことなのだろうか。
◇
ショッピングモールが目前に迫った。
「ちょっと緊張してきました」
「映画?」
「それもありますけど、人が多いのも……。と、取り敢えず変じゃないですよね!?」
そう言って両腕を広げる。
シャツの上から薄手の上着と、ハーフパンツ。細いながらもやや丸みがある脚の白い肌を見せていた。顔や手と同じく透き通るようだけど、いつもはソックスで覆われているからか余計に惹き付けられる。
「とても似合っているよ」
「ありがとうございます! ……脚、出しすぎたかもしれないと思っていたんです。こんな時だから良いかな、とも思ったんですけど、浮かれすぎのような気もして。でも姉にそんな様子が伝わるようにする必要はありますし……。だから、変じゃなくて良かったです」
「……伝わっていると良いね」
「はい!」
心にも無いことを。自分自身をそう毒突いた。
ショッピングモールの敷地内に入った。今は日曜の昼前。駐車場を見ると、車は駐車可能な空きを探してさまよっていた。
昨日と同じ時間に観ることにしていたため、もうあまり時間は無かった。席の配置を思い出しつつ、手早くチケットを二人分発券した。
「すごい! 慣れているんですね! よく来るんですか?」
「ああ、まあ、うん……」
僕を見るその目の輝きが痛かった。
手にあるチケットは、何をしているのだろうという思考に追い討ちをかけた。ホラーだし。一度観たし。
ただ、選べる中で一番良い席を選べたとは思う。……昨日とは比較にならないほど。観たかった映画をほとんど来たことの無い映画館でそこそこの位置から凛紗さんに観てもらえると思うと、素直に嬉しかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる