僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第2章

2-33この関係なのに、言いたくなった ☆

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 食後、冴羅さんは顔色が悪いわけではなかったが、疲れてしまったとのことで帰ることにした。

「勝手な女よね。疲れたから帰りたいって。……最初から勝手だったわね。本当に付き合うならこんなわがままな人は嫌よね」

 冴羅さんは疲労を訴えてからずっと申し訳なさそうだった。

「確かに嫌だね、その発言に限れば。どんな関係だったとしても」

「そうよね……ごめんなさい」

「でも今は疲れた理由が分かっているから。むしろ言ってくれてありがたかったというか、嬉しかったというか」

「どういうこと?」

「……僕は自分のせいで誰かに不快な思いをしてほしくないから」

「今は私にしか原因が無いはずよ?」

「でももし冴羅さんが言ってくれなければ僕は体調の悪いままにしていたと思う。言わずにいる気遣いもありがたいけど、もう少し自分本位でも良いよ」

「朝の質問もその内?」

「うん。どうしたいか分からないから。冴羅さんがあの話をしてくれたから良かったけど、場合によっては訊かない方が良かったかもしれないとか何も言わず払わないと意味が無かったようにも思えて。理想のせいで野暮だったりお節介だったりしちゃうんだよね」

 僕が話し終えると、冴羅さんは一度躊躇う様子を見せてから口を開いた。

「……そう言うのなら言わせてもらうわね。相手ありきで思考するのは素敵だけれど、あなたが損する可能性もあるのなら歪ではないかしら」

「――そうかもしれないね」
 既に、僕たちのように、歪かもしれない。

 冴羅さんの顔色がついに悪くなっていた。

「大丈夫!?」

「また言いすぎたわ……」

「いやいや! 僕が言ってほしいみたいな話をしたんだから冴羅さんが気に病む必要無いよ!」

「けれど怖かったでしょう?」
 そう言ってしゅんとしていた。

 僕は黙ってしまった。
 口にしようとした言葉に意識してしまって、鼓動が早くなっていた。

 この関係なら、言っても良い。
 この関係だから、言ってはいけない。

 出かかった言葉は、そんな考えに挟まれていた。

 言えば、冴羅さんが変わる気がしたから。

 ……いや。
 変えても良いとか変えてはいけないとかじゃなくて。
 冴羅さんが変わろうとしているのだから。

 この関係なのに、僕は言いたくなった。

「怖くなかったよ。行きの電車の後からずっと。冴羅さんが気を付けていたからかもしれないけど、感謝の言葉も、これまで問い詰めるように言っていた言葉すら、すごく優しくて、温かかったよ」

 顔を背けられて、そのまま訊かれた。
「本当?」

「はい」

「……君島くん以外には、まだ難しいかもしれないわ」

 いつも大人びた冴羅さんが、この時はどこか子どものように甘えているように感じた。
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