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第2章
2-32なかなかできないこと ☆
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上映が終了し、照明が点灯される中思い返す。
この角度でもちゃんと怖かったじゃん……。ただ首は痛くなって結局観上げない視界で見られる限りになったし、そのせいか話はよく分からなかったし。
それに、冴羅さんの反応は大きかった。驚かしにくるところ全てに驚く良いお客になっていた。
そんなところを上映中に直視するのは憚られたから、今初めて目を向けたのだけど……。
一筋の涙を流し、震えながら息を吐いていた。
綺麗……なんだけど、こうなった理由が理由だからな……。
「行けますか?」
「ええ……」
「こっちです」
「ごめんなさい……」
「休んでいてください。水買って来ますから」
「いえ……私が買って来るわ」
それからの会話はそんな感じ。冴羅さんは放心状態になっていた。
「ごめんなさい! 心配かけたわね」
冴羅さんが水を持って戻ってきた。大丈夫そうかな?
「食事にしようかしら? う……」
また青ざめてしまった。駄目そうかな!
「一旦座って!」
「ありがとう……」
落ち着いたところで質問した。
「一番最初に誘われた時から疑問なんだけど、ここまで苦手なのにどうして観ようとしたの?」
「それは……妹がホラー好きだからよ。知りたかったの。実際妹が好きなものはどんなものなのか。実際ちゃんと見て私はどう思うのか」
「そうだったんだ。なかなかできないことだと思う。自分が嫌いなのに誰かが好きだから、それを知ろうとすること」
すると冴羅さんは嫌そうに短く息を吐き出した。
「どうかしらね。どこかで妹を見下していたのかもしれないわ。妹に出来て私に出来ないことは無いと思い上がって。だからこうして痛い目を見たの」
意外だった。深町さんたちは仲の良い姉妹なのかと思っていた。今は話しづらい状態というだけだと。普通の姉妹ならこんなものなのだろうか。
冴羅さんの今までの接し方を凛紗さんがどう思っているか、わずかでも知ることは出来ないだろうか……。
「……でしたら、今の映画を見たと伝えてみてください。少しでも喜んでいる様子が見られれば、冴羅さんは見下していなかったのだと思います」
「本当? 言い方が悪くて申し訳ないけれど、そこまで単純なものかしら?」
「自分の好きなことでもそれを見下す人とは話す気にはならないと、僕は思いますよ」
「……そうね。分かった。話してみるわ。怖いけれど」
「そう言う割りに、楽しそうですけどね」
言われて、今は恥ずかしそうな面持ちでより色付いていった。
「さ、さて、食事にしましょうか!」
「はい」
僕は笑い交じりに返事をして立ち上がった。
「ありがとう」
冴羅さんの声だった。
でもそれは、今までに彼女から聴いたことが無いくらい温かかった。
驚いて振り向くと、満面の笑みの冴羅さんが僕を見上げていた。
僕は心を揺さぶられ、その場に立ち尽くした。
「行かないの?」
「う、うん」
冴羅さんは見かねてか、僕の腕を引いていってくれた。
この角度でもちゃんと怖かったじゃん……。ただ首は痛くなって結局観上げない視界で見られる限りになったし、そのせいか話はよく分からなかったし。
それに、冴羅さんの反応は大きかった。驚かしにくるところ全てに驚く良いお客になっていた。
そんなところを上映中に直視するのは憚られたから、今初めて目を向けたのだけど……。
一筋の涙を流し、震えながら息を吐いていた。
綺麗……なんだけど、こうなった理由が理由だからな……。
「行けますか?」
「ええ……」
「こっちです」
「ごめんなさい……」
「休んでいてください。水買って来ますから」
「いえ……私が買って来るわ」
それからの会話はそんな感じ。冴羅さんは放心状態になっていた。
「ごめんなさい! 心配かけたわね」
冴羅さんが水を持って戻ってきた。大丈夫そうかな?
「食事にしようかしら? う……」
また青ざめてしまった。駄目そうかな!
「一旦座って!」
「ありがとう……」
落ち着いたところで質問した。
「一番最初に誘われた時から疑問なんだけど、ここまで苦手なのにどうして観ようとしたの?」
「それは……妹がホラー好きだからよ。知りたかったの。実際妹が好きなものはどんなものなのか。実際ちゃんと見て私はどう思うのか」
「そうだったんだ。なかなかできないことだと思う。自分が嫌いなのに誰かが好きだから、それを知ろうとすること」
すると冴羅さんは嫌そうに短く息を吐き出した。
「どうかしらね。どこかで妹を見下していたのかもしれないわ。妹に出来て私に出来ないことは無いと思い上がって。だからこうして痛い目を見たの」
意外だった。深町さんたちは仲の良い姉妹なのかと思っていた。今は話しづらい状態というだけだと。普通の姉妹ならこんなものなのだろうか。
冴羅さんの今までの接し方を凛紗さんがどう思っているか、わずかでも知ることは出来ないだろうか……。
「……でしたら、今の映画を見たと伝えてみてください。少しでも喜んでいる様子が見られれば、冴羅さんは見下していなかったのだと思います」
「本当? 言い方が悪くて申し訳ないけれど、そこまで単純なものかしら?」
「自分の好きなことでもそれを見下す人とは話す気にはならないと、僕は思いますよ」
「……そうね。分かった。話してみるわ。怖いけれど」
「そう言う割りに、楽しそうですけどね」
言われて、今は恥ずかしそうな面持ちでより色付いていった。
「さ、さて、食事にしましょうか!」
「はい」
僕は笑い交じりに返事をして立ち上がった。
「ありがとう」
冴羅さんの声だった。
でもそれは、今までに彼女から聴いたことが無いくらい温かかった。
驚いて振り向くと、満面の笑みの冴羅さんが僕を見上げていた。
僕は心を揺さぶられ、その場に立ち尽くした。
「行かないの?」
「う、うん」
冴羅さんは見かねてか、僕の腕を引いていってくれた。
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