僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第2章

2-28買いたい買わなければならない

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 新城はサムズアップ。

「お前のためじゃない」
 切り捨てる木庭。

「じゃあ誰のため?」
 突っ込む草壁。

「……お前もうちょっと考えてからもの言えよ。誰がどんな面して君島の話をしたのか覚えてないのかよ」

「うっ……。じゃっ、じゃああたしの水着選んでよね!」

 僕は目を点にしてしまった。

「いやなんでそうなるんだよ」

 木庭は草壁を怪訝そうに見ていた。そこまでしてほしいという草壁の言いたいことも分からないではないけど、飛躍していることも確かだよね。

「まあ、あんまりだったときに置いていかれても良ければな」

「ひどっ! じゃあいいし! 新城くん、一緒に水着買いに行ってくれない?」

 顔を寄せて問いかけられた新城は堪え忍ぶ表情になり、
「駄目です……部活です……」
 絞り出すようなしゃがれ声を出した。

「一人で行けよ」

「嫌だ。意見聴きたいもん。君島は?」

「僕への頼み方雑じゃない? 一緒に行っちゃ駄目かな。偶然深町さん姉妹のどっちかに見られたら意味無くなっちゃうからね」
 なんとか涼しい顔をして理由を付けられた。

「……じゃあ行くの止めようかな」

「お前いい加減にしろ。なんで置いていかれる前提なんだよ」

「え、いや、ううん……」

 草壁は顔を徐々に赤くして、僕たちから顔を背けた。
 僕と新城は木庭の呼び掛けを無視しつつ、卯月さんに支払って帰った。



 その日の晩、櫓からメッセージが届いた。
 内容はプールのチケットのことだった。それによると、そもそもあれは草壁と新城か木庭と、幸恵さんと油井と関係を深める助けにするために準備したものだったそうだ。そこまでしてくれたことはありがたい。
 前述の五人+僕+卯月さん+櫓で八人分。だけど、今日あった通り十人分に増えたから……。

 二人分のお金が欲しいそうだ。

 安くなるからと色々なプランを加入させて、うっかり解約しなかったがために利用料を取るやり口を思い出した。

>いや、櫓が勝手にやったことだから払う気は無いよ。

>勝手? 可笑しいな。なんとかしろと言ったのは君の方だろう。

 いや確かに言ったけど! あのやり取りの後で何かしてくれるとは思わないよ!

>それに全員分請求しないだけ良心的と思ってもらおうか。

>そうだとしても宮国の分は求めてないような?

 これに対する返事は無かった。

>一人分になりませんか?

>仕方が無い。良いだろう。

 珍しい! こんなにあっさり通るなんて!……あっさり過ぎて嫌な予感がする。

 こうして、蝉が忙しなく鳴く中、一学期より忙しなさそうなたった一ヶ月の夏休みが始まった。
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