僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第2章

2-23二人の意見 ☆

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 まずは草壁に昼休みを使って話した。

 途中何度か口を挟みたそうにしながらも、堪えたまま聴いてくれた上での第一声は、
「何やってんの、もう!」
 だった。

「すみません……」

「いや君島もだけど! 凛紗も副会長もその相手も部長も店長もあたしも!」

 そう一気にまくし立て、大きなため息とともに椅子へ寄りかかった。

「それでなんだけど、僕は二人が幸せに……それが難しくても納得できるようにしたい。いや、二人だけじゃなくて、関わった人全員かな」

 草壁の横顔が呆れ笑いに変わった。

「うん、じゃあもう、二人と付き合っちゃえ」
 それはまるで独り言のようだった。

「え?」

「いいよ。もうなんだかよく分かんないんだもん。二人が望んだままにしとけばいいじゃん。あ、君島が無理しないぐらいでね?」

「僕が出来る範囲……それでバレてもいいのかな」

「バレずに済むかもだけどさ。どっちにしろそういうもんだったってことじゃない?」

「そっか……そうだね。ありがとう。今すごく感心してる」

「ほんと? やった。相談して良かったでしょ~?」
 こちらを向いて、驚いて、喜んで、自慢気に訊いてきた。

「あ~……それはそうなんだけど、この後その部長、幸恵さんにも相談するつもりで」

 残念そうな顔に変わった。

「いやもちろん今の考えも大いに参考にして僕の意志で決めるから!」

 次は満足した様子を見せてくれた。
「うん。それが一番! あ、出来ることがあったら言って! 夏休みも変わらずバイトしてるから! あと、それから……ありがと。君島が思っていること、うちに聴かせてくれて」
 今度は仄かに頬を染め、僅かながら口角が上がっていた。

 楽しげな表情も良いけど、それは思わず心を捕まれるほどだった。

「ちょっ……見すぎ」

「ああごめん」



 次は幸恵さんへ放課後の空き教室で伝えた。時折頷き、穏やかな表情で聴き入れてくれた。
 僕が話し終えた後、その表情のまま目を瞑り、深く息を吐いてから口を開いた。

「うん。そっか。ありがとう、話してくれて」
 そう言って見せた笑みが、心の底から嬉しそうで、和やかだった。僕は胸を打たれてしばらく何も言えなかった。

 その間に幸恵さんは目を伏せた。
「ごめんね。短絡的に奏向くんと冴羅ちゃんとの間に何かあるのかと思ってた。奏向くんはそんなに大変なことになってたんだね」

 僕は首を横に振ってから遅れて言葉が出てきた。
「い、いや、謝ることなんて無いよ。それを僕たちの様子だけで推察して、しかも相談を聴いてくれようとして。僕が感謝しなきゃだよ」

「良かった。結果として助けになれたんだ。備えあれば患いなしだね!」

 思わず笑ってしまった。あまりにもいつも通りで安心した。
「うん、本当に。それで、僕は今回の件に関係した人達が幸せになるように、そうでなくても納得できるようにしたいと思っていて。どうするのが良いか考えを聴きたいんだ」

「お~。奏向くんらしいね。そうだね……奏向くんが大変になっちゃうけど、二人と同時に付き合うのが良い、かな……」

 草壁と同じ結論に目を見張った。
「そうなんだ。多分バレるよ?」

「うん。むしろそれで良いと思う」

「え!? 怒らせたり悲しませたりしない?」

「かもね。実際にどうなるか分からないけど。でもそこまでのことが無いと改めてちゃんと話し合うことも出来ないように思う」

「荒療治ですね幸恵さん……」

「う~ん……だから思った通りになるかどうかは……。本当はお互いに好きだと思い込んでいる相手とも話し合えればいいんだけど、誰か分からないからどうすれば良いかも考えられないもんね」

「……うっかりしていました。そうだね! これまでなんで相手のこと訊いてこなかったんだろう」

「これがまた訊いても恥ずかしがらせそうだからな~。もし分かったら教えて。また一緒に考えよう」

「分かった。ありがとう。でも驚いた。草壁にも相談したら二人と付き合えば良いって言われて」

「へ~。理由とか言ってた?」

「理由と言えるほどではないけど、二人が望む通りにさせれば良いと。僕が出来る範囲で良い、とも」

「――良いこと言うね」

「じゃあ、よろしくお願いします」

「うん。頑張ろう!」
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