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第2章
2-21互いに違えて
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「冴羅さん」
「どうかしたのかしら」
二年四組の教室の前で僕が声をかけると、悠然とした様子応じてくれた。
「もしかして、返事?」
「ごめん。今日は誘いの話じゃなくて、妹さんとの話を訊きたくて」
「良いわよ。場所を変えましょうか」
僕たちは廊下の端まで行き、冴羅さんから話が再開された。
「妹との話と言ってもどんなことを話せば良いのかしら?」
「例えば、関係性とか。冴羅さんは妹さんをどう思っているのか、とか」
「どう……? 大切な家族よ。……そうね、これだけでは分からないわね」
そう言って微笑むと、窓の方を向いた。
「彼女は引っ込み思案なの。相手はそんな子が仲良くする男性で、実際他人を見捨てたりしない優しい人で。だから、その関係を大切にして、一緒にいて、幸せになってほしくて」
どうやら冴羅さんとその男性との付き合いは長いらしい。冴羅さんに幸恵さんのような人柄を見抜くような特技が無ければだけど。
「妹さんに良い関係に見えたと直接伝えた?」
僕の問いかけにこちらへ向き直り、頷きながら答えてくれた。
「話したわ。けれど何故か躍起になって否定して。私と彼の方が仲が良いとも言っていたわね。照れているのかしらね」
「そうですか。ありがとう。夏休みについてはまたもう少し考えても良いかな」
「分かったわ。……それにしてもこんなこと訊いて判断に役立つの?」
その眼が冷たく僕へ向けられた。
「は、はい」
僕は短い返答を絞り出した。
「それに、どうして下の名前で呼ぶのかしら」
「う……それは、あの後その妹さん、凛紗さんのことを知ったものでして、はい」
召し使いとか下っ端とか、そんな気分だ……。
僕の返答を機に冴羅さんの表情が柔らかく変わった。
「そうだったの。気に掛けてくれてありがとう。それに私がとやかく言う立場には無かったわね。ごめんなさい」
会釈して冴羅さんは自分の教室へと戻っていった。
多分、もう少し詰められたら全部言っていたかもな……。
◇
今度は二年五組前で凛紗さんを待つ。
「凛紗さん」
目の前に立って適度な声量だったと思う。
「ぅはいっ!!」
けど驚かせてしまった。
……意識してしまうからなのか、それとも元からのものなのか。
「少し凛紗さんとお姉さんのことを訊きたくて。大丈夫かな」
「え……はい。いいですよ」
「場所変えようか」
再び廊下端。
「それで、具体的には凛紗さんがお姉さんのことをどう思っているかを訊きたいんだ」
「それは……立派で自慢できる家族、でしょうか。いろいろと積極的に参加しますし、今は生徒会の副会長ですし。……改めて言うとなんか照れますね」
凛紗さんは恥ずかしそうに笑って、顔を隠すように下を向いた。
「そんな姉なので、いろんな人と関わることは多いですけど、特にその方とはお話ししていることが多かったんです。その方も私と話してくれるぐらい気さくで。だから、一緒にいられれば幸せだと思うんです」
凛紗さんと話すかどうかが基準なの……? 確かに僕も草壁も凛紗さんの存在を意識していなかったけどそこまで?
「そのこと、お姉さんに話したりしました?」
僕が声を出すと同時に凛紗さんは顔を上げ、答える前から首を縦に何度か振った。
「はい。始めに私との関係が良さそうだと言われて、言い返す形で。当の姉は遠慮してばかりでした。あまりの遠慮で不憫に思えるぐらいだったんですよ?」
「そうでしたか。うん、ありがとう。それで、申し訳ないけど返事はもう少しだけ待ってもらえないかな」
「え……あ! すみません! 私、勝手に舞い上がって君島さんの返答聴いてませんでした! 駄目ですよね、仮にも付き合おうとしているのにただ押し付けるだけじゃ」
「――そうだね」
「っ! ごめんなさい!」
凛紗さんは息を飲むような声とともに勢いよく頭を下げた。いや下げさせてしまった。
「ああいや! こちらこそごめん! 本気で考えてちゃんと答えるから!」
「よろしくお願いします……」
深くお辞儀して凛紗さんは歩き去った。
不用意だったな、本当に……。
「どうかしたのかしら」
二年四組の教室の前で僕が声をかけると、悠然とした様子応じてくれた。
「もしかして、返事?」
「ごめん。今日は誘いの話じゃなくて、妹さんとの話を訊きたくて」
「良いわよ。場所を変えましょうか」
僕たちは廊下の端まで行き、冴羅さんから話が再開された。
「妹との話と言ってもどんなことを話せば良いのかしら?」
「例えば、関係性とか。冴羅さんは妹さんをどう思っているのか、とか」
「どう……? 大切な家族よ。……そうね、これだけでは分からないわね」
そう言って微笑むと、窓の方を向いた。
「彼女は引っ込み思案なの。相手はそんな子が仲良くする男性で、実際他人を見捨てたりしない優しい人で。だから、その関係を大切にして、一緒にいて、幸せになってほしくて」
どうやら冴羅さんとその男性との付き合いは長いらしい。冴羅さんに幸恵さんのような人柄を見抜くような特技が無ければだけど。
「妹さんに良い関係に見えたと直接伝えた?」
僕の問いかけにこちらへ向き直り、頷きながら答えてくれた。
「話したわ。けれど何故か躍起になって否定して。私と彼の方が仲が良いとも言っていたわね。照れているのかしらね」
「そうですか。ありがとう。夏休みについてはまたもう少し考えても良いかな」
「分かったわ。……それにしてもこんなこと訊いて判断に役立つの?」
その眼が冷たく僕へ向けられた。
「は、はい」
僕は短い返答を絞り出した。
「それに、どうして下の名前で呼ぶのかしら」
「う……それは、あの後その妹さん、凛紗さんのことを知ったものでして、はい」
召し使いとか下っ端とか、そんな気分だ……。
僕の返答を機に冴羅さんの表情が柔らかく変わった。
「そうだったの。気に掛けてくれてありがとう。それに私がとやかく言う立場には無かったわね。ごめんなさい」
会釈して冴羅さんは自分の教室へと戻っていった。
多分、もう少し詰められたら全部言っていたかもな……。
◇
今度は二年五組前で凛紗さんを待つ。
「凛紗さん」
目の前に立って適度な声量だったと思う。
「ぅはいっ!!」
けど驚かせてしまった。
……意識してしまうからなのか、それとも元からのものなのか。
「少し凛紗さんとお姉さんのことを訊きたくて。大丈夫かな」
「え……はい。いいですよ」
「場所変えようか」
再び廊下端。
「それで、具体的には凛紗さんがお姉さんのことをどう思っているかを訊きたいんだ」
「それは……立派で自慢できる家族、でしょうか。いろいろと積極的に参加しますし、今は生徒会の副会長ですし。……改めて言うとなんか照れますね」
凛紗さんは恥ずかしそうに笑って、顔を隠すように下を向いた。
「そんな姉なので、いろんな人と関わることは多いですけど、特にその方とはお話ししていることが多かったんです。その方も私と話してくれるぐらい気さくで。だから、一緒にいられれば幸せだと思うんです」
凛紗さんと話すかどうかが基準なの……? 確かに僕も草壁も凛紗さんの存在を意識していなかったけどそこまで?
「そのこと、お姉さんに話したりしました?」
僕が声を出すと同時に凛紗さんは顔を上げ、答える前から首を縦に何度か振った。
「はい。始めに私との関係が良さそうだと言われて、言い返す形で。当の姉は遠慮してばかりでした。あまりの遠慮で不憫に思えるぐらいだったんですよ?」
「そうでしたか。うん、ありがとう。それで、申し訳ないけど返事はもう少しだけ待ってもらえないかな」
「え……あ! すみません! 私、勝手に舞い上がって君島さんの返答聴いてませんでした! 駄目ですよね、仮にも付き合おうとしているのにただ押し付けるだけじゃ」
「――そうだね」
「っ! ごめんなさい!」
凛紗さんは息を飲むような声とともに勢いよく頭を下げた。いや下げさせてしまった。
「ああいや! こちらこそごめん! 本気で考えてちゃんと答えるから!」
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不用意だったな、本当に……。
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