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第2章

2-15隠せそれぞれの都合

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 今日は特に何も予定が無かったので、なんとなくリュヌに足が向いていた。

「あ~……いらっしゃ~い……」

 まるでトランプタワーでも崩さないようにしているかのような声だった。
 店内を見てその不安定構造物の正体を理解した。
 草壁と凛紗さんがいた。
 僕を含めた三人がここに……!?

「あれ? 店長どうしたんです? 君島、ここ空いてるよ」

 しかもよりにもよって凛紗さんの隣!?

「あ……うん。ありがとう。ちょっと話すことがあって」

「(どうしよう! 今帰るとそれはそれで不自然だし!)」

 卯月さんの小声ながらも慌てふためく様子になぜか親に隠しごとをしている子どもを連想してしまった。対する僕はその様子を見たからか冷静でいられた。

「(卯月さん、落ち着いてください。僕たちは何事も無いかのようにいつも通りでいましょう。話をされるならその手の話に流れないようにしてください。僕はコーヒー飲んだら帰りますから)」

 卯月さんはぎこちなく頷いた。
 やはりというかなんというか、もうこの状況はやり過ごすしかない。

「あの……ほ、本当にここで会いましたね」
 凛紗さんは優しく話しかけてくれた。

 こう言われて改めて痛感したのが、この状況は起こるべくして起こっているということ。この店に来ることがあるって言っていたからな~。

「……そうだね。……よくここに通っているからね」

 どうよ、この当たり障り無いながらも会話を途切れさせない台詞選択!
 ……言い出しっぺだけど僕と凛紗さんとの関係があの話以外無い。
 いや、ある。この店に関したことが!

「凛紗さんはいつからここに通っているんですか?」

「通うってほどでも無いですけど……。高校入学して少ししてからです。最初は連れられて来ました。えっと、君島さんは小さい頃からだそうですね」

「卯月さんと僕の親が仲良かったから、僕もよく連れられて来たんだよね」

「そう、なんですね」
 凛紗さんは柔らかくはにかんだ。

「うちと違って?」
 割り込むようにコーヒーを置いた草壁が言った。

「ありがとう……」

「あ……草壁さんはどのようにこのお店に来たんですか?」

 優しいなあ凛紗さんは!

「訊いちゃう? へへ、幼なじみの男子と二人で来たんだよね~」

 今は惚気るのも自慢気に言うのも止めてほしい!

「男の子と……」

 視線を向けられている! これはまずい! も~どうしましょ。

「ア、ミラちゃん。洗い物お願いデキル?」

 ありがとう卯月さん! 少しカタコトだけど!

「え? ごめんなさい、さっき洗い終わったと思ったんですけど」

「あ~……。また出てきてるから!」

 自然な理由だと思ったら先回りされていた! そういえばこういう芝居みたいなの下手だったな……。

「分かりました。あ、そういえば君島に恋人出来てほしいって言うようになったのいつからなんですか?」

 なんてこと訊くの!? なんで今なの!?
 お隣を窺うと……ああ、驚いた様子だ。

「君たち二人が来てからだよ! 洗い物お願いね!」

 あ、ちゃんと答えるんだ。

「え~そうなんだ~照れちゃうな~。行ってきま~す」
 満足そうな様子で去っていった。
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