上 下
70 / 204
第2章

2-10聴いてください! ☆

しおりを挟む
「……じゃあ訊かせてもらうね。なんで尾行していたの?」

 すると凛紗さんは、より強張った声で答えた。
「話しかけたかったんです」

「声を掛ける機会を窺ってたってこと?」

「そうです! 本当にごめんなさい! 始めて会う人に話しかけるようなことをそんなにしたことなくて!」

「ああ、異性ならなおさらね。僕で良かったよ。いつもぞんざいに扱われたり突拍子もないこと言われたりするからこのくらい気にしないよ。でもさっきの行動は罪に問われかねないからね」

「申し訳ありません……」

「それで、何を僕に?」

 僕の質問に凛紗さんは初めてこちらを向いた。
 その顔は、横から見るよりも染め上がっていた。
 こんなの何度だって緊張する。でもこれ、もしかして……?

「あのっ!」

 ここまでで一番大きい凛紗さんの声で、僕の思考は真っ白になってしまった。

「聴いてください!」

「はいっ!?」

「付き合ってほしいんです!!」

 ああ……当たってた? い、いや、冷静になるんだ。今度こそどこかに着いていってほしいんだろう!

「どこでも――」

「夏休み中!」

 やっぱり?

「ご、ごめんなさい。やっぱり無理ですよね。今名前も知ったばかりの尾行してきた女なんて」

「引き下がるの早いよ。話ぐらいなら聴くから」

「本当ですか? ありがとうございます。その……姉の好きな人と、私が、仲良さそうだと姉に勘違いされてしまって。だから他の相手がいるって見せれば、姉は私に気を遣わずにいてくれるかと思いまして」

 双子ってここまで考えること一緒なの!? え、別人と思ったけど騙されているのかな? 本当のところは言動も見た目も変えた同一人物だったりする?

「……話して今更自分でおぞましく感じてきました……。うう、でも……」

「――そうだ、なんで僕にしたの?」

「あ、それは卯月さんに相談したら君島さんを教えてくださって。同級生の人が卯月さんと昔から親しくしていたなんて知らなかったです」

 今度は卯月さんか。
 最近は草壁を中心とした僕、木庭、新城の関係を静観していると思ったんだけどな。

「ご、ごめんなさい。私から提案しておいて勝手ですけど、一旦考えさせてください。本当にごめんなさい!」

 そう言って頭を下げた。
 僕はまた困惑した。
 提案を引き揚げたことじゃない。この話をどうするかだ。
 もう良く分からない。複雑すぎて思考が追い付かない。どうするのがいいんだろう?
 たださっき持ち帰って正しかったことは分かる。

「うん、僕も考えておく」

「ごめんなさい! ありがとうございます!」
 彼女は立ち上がって、何度も頭を下げた。
「お気をつけて! う……尾行した身でこんなこと言う筋合い無いですよね。本当に申し訳ありませんでした!」

「もう気にしなくて大丈夫だから! また学校かリュヌで」
「あ……はい! ありがとうございます! 失礼します!」

 過剰な感じだけど、悪い人じゃないな。
 喋りの勢いそのままにそそくさと帰る凛紗さんを僕は見送った。今の|一時(いっとき)が嵐のようだとすれば、その姿は吹き飛ばされる雛鳥を思わせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...