僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

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第2章

2-6出かけても良いかな

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 突然のお誘いは嬉しくてその場で引き受けちゃったけど、土曜を丸一日空けて出かけることを家族にどう説明するか、なんて最初は考えていた。許してもらえるとは思っていた。ただ申し訳なくて、特に末っ子は行きたがりそうな気がした。
 それでもやっぱり、ちゃんと説明することにした。

 その日もさっきと同じようにリビングに両親がいて、そこに私が座った。

「今度の土曜なんだけど、出かけても良いかな」

「大丈夫だよ。その日はお母さんも仕事じゃなかったよね」

「うん。あれ、試験じゃなかったっけ?」

「今週金曜までだから」

「そっか、まずはそっち頑張ってね」

「ありがとう」

 ……良いのかな、場所のこと言わなくても。
 お母さんからお父さんへと視線を移すと、私とお母さんとの間で目を動かしている様子だった。
 今度は私たちから目を反らした。
 …………。

「場所訊いちゃ駄目なの?」

「あれ、聞かなかったっけ」

「うん。遊園地です」

「え? どこ? 山の上の方の?」

「うん」

「へ~。送り迎え要る?」

「大丈夫。バスで行くつもり」

「え? バスあるんだ。じゃあ気を付けてね」

「うん……」
 心残りが返事を煮え切らないものにした。

 でもこれで良いのかもしれない。
 行き先を伝え終わったから、心配せず、あとは楽しみにするというだけで。

「連れて行ったことなかったよね。ごめんな、そういうことできなくて」

 思わずお父さんを見た。

「いつか家族で行くか」

 すぐに賛成したかった。でも、そう出来たらと想像しただけで、胸がいっぱいになった。

「幸恵? 連れて行かなかったこと怒ってるか? それとも今になって家族で行くの嫌か?」

 首を横に振って、やっと治まって。

「行こうよ。みんなで」

 お父さんもお母さんも優しく頷いてくれた。

「……ところで土曜は誰と行くのか訊いていい?」
 お父さんがまた質問した。

「それ訊く? いいじゃん誰とでも。ねえ?」

「男女四人で行くよ」

「あ、答えちゃうんだ。え、ダブルデート?」
 お母さんが手のひらを返したように質問した。

「そんなんじゃないよ~!」

「気になってたんじゃん。それにその質問の方がどうかと思うよ」

 その後、弟たち妹たちにも出かけること伝えた。その反応もそれぞれだった。

 長男・和朗なぎたか(十四)「そうなんだ。楽しんで来なよ姉ちゃん。家のことは任せて大丈夫だから」
 本当頼もしくなって来たなあ。

 次女・晴果はるか(十一)「え、お姉ちゃんそういう人いたんだ。いいなーそういうのー」
 まだ何人で行くかも言ってないんだけど。さすが年頃の女の子。お母さんと反応がそっくり。

 次男・富益ふうま(八)「そっかあ。行ってらっしゃい」
 ああ、私奏向くんにこういう感じですぐに受け入れてたのかな。これは色々訊きたくなっちゃうかもね……。

 そして、一番心配だった三女・天音あまね(五)「おねえちゃんいなくなっちゃうの?……さみしい」
 遊園地よりお姉ちゃん……!? 寂しい思いさせてごめんね。すぐ帰ってくるから!



 思い返してみても、楽しみにしていたことも実際に楽しかったことも本当で。でも家族のことが少し心配だったりふと思い出したりすることも確かだった。

「ただいま~」

「おかえり~」

「天音~。あれ、富益は?」

「ねてる」

「宿題も終わったしとか言ってな」

「そっか。そう言う和朗は?」

「あ~、まあね……。今日はさっきまで洗濯物片付けてたから」

「それはありがとう」

「お、帰ってきた。夕飯の準備手伝うからね」

「助かる~。じゃあ晴果、これキッチンにお願いしていい?」

「はーい」

 さてと。おそば湯がきましょうか。
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