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第2章
2-2女子部長の悩みと戸惑う僕 ☆
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西沖幸恵さんは悩んでいるようだ。
珍しい。幸恵さんが悩むほどのことは僕ではどうにも
「奏向くん!」
コンピューター室に入った僕に気付くなり、食い気味に声をかけてきた。
「どっ……どうしました?」
「そばとそうめんどっちが良い?」
どうにも選びがたい悩みだった。
「……夕飯の話?」
「あ、ごめん、いきなり訊いて。そう。今日はお母さんもお父さんも遅いから作らなきゃいけなくて」
「そうなんだ。七人前だよね、大変だ」
「う~ん、私は毎日作るわけじゃないから。それで、どっちが良いと思う?」
「……もう僕の好みだけど」
「大丈夫」
「そばで」
「そば? よし! 良かった~、決まって。ありがと~」
そんな始まり方の、一学期中はあと三回の部活。今日は後輩に文化祭関連の活動について説明することになっている。
体育祭名場面集の最後に結成発表動画を流していた文化祭実行委員会、明日決定する生徒会役員と共に、映像部は夏休み明けから宣伝用動画を作成していく。
それまでの夏休みで活動は無い。この暑い中部活をする人たちには気の毒だが、ありがたい限りだ。
「幸恵さんは夏休みどうするの?」
半ば浮かれてそんなことを訊いていた。
「福成くんと一緒にしっかり勉強するつもりだよ」
おお……こっちも順調そうでなによりだ。どこか楽しげなのも一緒に勉強するからなのかもしれない。
「ただただ勉強を教えるとかじゃなくて良かったよ」
思わず声に出ていた。そんなに嫌だったか、僕……。
「え? 私は夏休みとか何人かに教えてたよ。結構好きだったけど」
「そうなの……? 物覚え悪い人とかいなかった?」
「もちろんいたよ。根気よく、分かりやすくって気を付けてたな」
「そもそもどこが分からないのかが分からなかったりは?」
「そういうのは結局基本的なことを納得してなかったりするよね」
「ほら、まずやる気が」
「みんなで楽しい感じでやれば大丈夫! 赤信号みんな渡れば怖くない!」
スゴイナー。コレガ幸恵サンダー。
他の人が今言っていたようなことをしても同様の効果が得られない可能性もあるだろう。本来が優秀なのか。あるいは……幸恵さんからなんか出ているとか。
「あ、そうだ奏向くん」
「はい?」
「うち来る?」
「はい。……えっ?」
◇
部活が終わり、幸恵さんはいそいそと帰っていった。そばを湯がくために。
幸恵さんから出た本日二度目の唐突な発言は、夏休み中のどこかで食事しないかという幸恵さんの父親からのお誘いで、油井も呼ぶつもりという話だった。
断れば良かったかな……。参加する前提で話していたし、油井も来るってことで飲み込んでしまった。どうもこういうのに弱い。
幸恵さん父は何を思って僕たちを呼ぶのだろう。何か一言言いたいって感じではなかったけど、それはあの幸恵さんの話しぶりから読み取れることだし……。
そんなことを思い起こしながら歩いていたのだけど――。
何か妙な……視線? ここまでつけられていた?
意を決して振り返ることにした。
歩きながらも、気を張り、静かに呼吸を整え、
一気に振り返った。
…………。
誰もいない。誰かがいそうな感じでもない。
いなくなったのか……いや、気のせいか。
珍しい。幸恵さんが悩むほどのことは僕ではどうにも
「奏向くん!」
コンピューター室に入った僕に気付くなり、食い気味に声をかけてきた。
「どっ……どうしました?」
「そばとそうめんどっちが良い?」
どうにも選びがたい悩みだった。
「……夕飯の話?」
「あ、ごめん、いきなり訊いて。そう。今日はお母さんもお父さんも遅いから作らなきゃいけなくて」
「そうなんだ。七人前だよね、大変だ」
「う~ん、私は毎日作るわけじゃないから。それで、どっちが良いと思う?」
「……もう僕の好みだけど」
「大丈夫」
「そばで」
「そば? よし! 良かった~、決まって。ありがと~」
そんな始まり方の、一学期中はあと三回の部活。今日は後輩に文化祭関連の活動について説明することになっている。
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それまでの夏休みで活動は無い。この暑い中部活をする人たちには気の毒だが、ありがたい限りだ。
「幸恵さんは夏休みどうするの?」
半ば浮かれてそんなことを訊いていた。
「福成くんと一緒にしっかり勉強するつもりだよ」
おお……こっちも順調そうでなによりだ。どこか楽しげなのも一緒に勉強するからなのかもしれない。
「ただただ勉強を教えるとかじゃなくて良かったよ」
思わず声に出ていた。そんなに嫌だったか、僕……。
「え? 私は夏休みとか何人かに教えてたよ。結構好きだったけど」
「そうなの……? 物覚え悪い人とかいなかった?」
「もちろんいたよ。根気よく、分かりやすくって気を付けてたな」
「そもそもどこが分からないのかが分からなかったりは?」
「そういうのは結局基本的なことを納得してなかったりするよね」
「ほら、まずやる気が」
「みんなで楽しい感じでやれば大丈夫! 赤信号みんな渡れば怖くない!」
スゴイナー。コレガ幸恵サンダー。
他の人が今言っていたようなことをしても同様の効果が得られない可能性もあるだろう。本来が優秀なのか。あるいは……幸恵さんからなんか出ているとか。
「あ、そうだ奏向くん」
「はい?」
「うち来る?」
「はい。……えっ?」
◇
部活が終わり、幸恵さんはいそいそと帰っていった。そばを湯がくために。
幸恵さんから出た本日二度目の唐突な発言は、夏休み中のどこかで食事しないかという幸恵さんの父親からのお誘いで、油井も呼ぶつもりという話だった。
断れば良かったかな……。参加する前提で話していたし、油井も来るってことで飲み込んでしまった。どうもこういうのに弱い。
幸恵さん父は何を思って僕たちを呼ぶのだろう。何か一言言いたいって感じではなかったけど、それはあの幸恵さんの話しぶりから読み取れることだし……。
そんなことを思い起こしながら歩いていたのだけど――。
何か妙な……視線? ここまでつけられていた?
意を決して振り返ることにした。
歩きながらも、気を張り、静かに呼吸を整え、
一気に振り返った。
…………。
誰もいない。誰かがいそうな感じでもない。
いなくなったのか……いや、気のせいか。
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