上 下
62 / 216
第2章

2-2女子部長の悩みと戸惑う僕 ☆

しおりを挟む
 西沖にしおき幸恵ゆきえさんは悩んでいるようだ。
 珍しい。幸恵さんが悩むほどのことは僕ではどうにも

「奏向くん!」

 コンピューター室に入った僕に気付くなり、食い気味に声をかけてきた。

「どっ……どうしました?」

「そばとそうめんどっちが良い?」

 どうにも選びがたい悩みだった。

「……夕飯の話?」

「あ、ごめん、いきなり訊いて。そう。今日はお母さんもお父さんも遅いから作らなきゃいけなくて」

「そうなんだ。七人前だよね、大変だ」

「う~ん、私は毎日作るわけじゃないから。それで、どっちが良いと思う?」

「……もう僕の好みだけど」

「大丈夫」

「そばで」

「そば? よし! 良かった~、決まって。ありがと~」

 そんな始まり方の、一学期中はあと三回の部活。今日は後輩に文化祭関連の活動について説明することになっている。
 体育祭名場面集の最後に結成発表動画を流していた文化祭実行委員会、明日決定する生徒会役員と共に、映像部は夏休み明けから宣伝用動画を作成していく。
 それまでの夏休みで活動は無い。この暑い中部活をする人たちには気の毒だが、ありがたい限りだ。

「幸恵さんは夏休みどうするの?」
 半ば浮かれてそんなことを訊いていた。

福成ふくなりくんと一緒にしっかり勉強するつもりだよ」

 おお……こっちも順調そうでなによりだ。どこか楽しげなのも一緒に勉強するからなのかもしれない。

「ただただ勉強を教えるとかじゃなくて良かったよ」
 思わず声に出ていた。そんなに嫌だったか、僕……。

「え? 私は夏休みとか何人かに教えてたよ。結構好きだったけど」

「そうなの……? 物覚え悪い人とかいなかった?」

「もちろんいたよ。根気よく、分かりやすくって気を付けてたな」

「そもそもどこが分からないのかが分からなかったりは?」

「そういうのは結局基本的なことを納得してなかったりするよね」

「ほら、まずやる気が」

「みんなで楽しい感じでやれば大丈夫! 赤信号みんな渡れば怖くない!」

 スゴイナー。コレガ幸恵サンダー。
 他の人が今言っていたようなことをしても同様の効果が得られない可能性もあるだろう。本来が優秀なのか。あるいは……幸恵さんからなんか出ているとか。

「あ、そうだ奏向くん」

「はい?」

「うち来る?」

「はい。……えっ?」



 部活が終わり、幸恵さんはいそいそと帰っていった。そばを湯がくために。

 幸恵さんから出た本日二度目の唐突な発言は、夏休み中のどこかで食事しないかという幸恵さんの父親からのお誘いで、油井も呼ぶつもりという話だった。
 断れば良かったかな……。参加する前提で話していたし、油井も来るってことで飲み込んでしまった。どうもこういうのに弱い。
 幸恵さん父は何を思って僕たちを呼ぶのだろう。何か一言言いたいって感じではなかったけど、それはあの幸恵さんの話しぶりから読み取れることだし……。
 そんなことを思い起こしながら歩いていたのだけど――。

 何か妙な……視線? ここまでつけられていた?
 意を決して振り返ることにした。
 歩きながらも、気を張り、静かに呼吸を整え、
 一気に振り返った。
 …………。
 誰もいない。誰かがいそうな感じでもない。
 いなくなったのか……いや、気のせいか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...