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第1章

1-60エンド

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 電話は櫓からだった。角に背中を預け、スマホを耳に当てた。

「もしもし。珍しいね、櫓から電話なんて」

「なかなか面白い状況を見せてくれたからね。労っても良いかと思った次第さ」

「面白い状況?」

「草壁と西沖のいずれとも君と恋人関係にならないまま、その三人が一応平穏に一同に会す、今の状況」

「今の……あ、また隠しカメラ?」

「いや、君の右だ」

 右? 窓しか無いはず……。確かめるようにそちらに目を向け――声も出さず跳び退いた。

「う、なん、なんでここに?」

「この私が気になってしまったからな」

「どうすれば櫓からプライバシーを守れるの?」

「君の場合であればどこかで聞いたラブコメのような展開だったら守れたかもな」

「僕としては別にラブコメやっているつもりすら無いんですけど……」

「まあ、これからも精々頑張りたまえ。幸せにすると言ったのだからな」

 それを最後に切られた。
 本人も去っていた。

「なんだったんだろう……」

 すぐにカウンター側に戻らず、ここから様子を眺めた。

 新城と大原は未だやいのやいのやっている。
「だとしてもそもそもの演劇はまだ捨てないからな」
「知らん。勝手にしてくれ」

 草壁と木庭はお互いの呆れ顔を見合わせている。
「いつもあんな感じ?」
「ああ。結構阿呆なところある」

 幸恵さんと油井はいつの間にか出されていたバームクーヘンを食べ、
「うん。おいしいバームクーヘン」
 ごく普通の感想が同時に述べられた。

「やっぱりそうなんだ」
 草壁ちゃん、追い打ちをかけないであげて。

「…………」
 木庭黙っちゃったよ。

「コーヒー飲みながらだったらこういうのだよね」

「炬燵とみかんの関係と同じか」

「なんか分かりそうで分からないけど、褒めてくれてる! ほら、感謝しときなって!」

「ありがとうございます。……なんかこの促される感じは気に入らん」

 それぞれ思い思いで良いことだ。
 観察は止めて元いた席へ戻る。

 草壁も幸恵さんも、普通で、自然な笑顔だった。

 そんな光景が、やけに印象に残った。
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