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第1章

1-59グッド

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 その声をかけられた草壁は、僕たちの下にドリンクを脇から置いてくれている手がどことなく震えていた。

「え~? このさんば……三人の反応でお察しなんですけど」

「あなたも言いかけたわね」

 つっこむ大原を睨み付ける草壁。

「あ? あん時作れつったから作ったんだろうが」
 大原に触れることなく草壁に食って掛かる木庭。

 あ~……いややっぱりなんで僕たち呼んじゃったの?

「は!? あれは私に、だけ、って……」

 最初は勢い付いていたが急減速して最後はほとんど聞こえなかった。

「ん? 何?」唯一話の流れが分からない大原が草壁に訊く。

 木庭はおもむろにカウンターにあったタバスコを手に取り、開ける。
 その瓶は平然と大原のバウムクーヘンの上で倒立させられた。

「ええ!? なんで!?」

「なんだ。今一じゃなかったのか?」

「加えるにしても加える物考えてくださいよ~」

「到底人が食うもんじゃないな」
 新城の声が大原の向こう側から聞こえた。

「なんでそう言いながら食ってんだよ!? いろいろひっくるめてお前が人じゃないわ!」

「キモいんですけど」

「だよねぇ、本当こいつら」

「大原」

「ほ~ら救いが無い」

「ならポイでも買ってあげよう」

 ドアベルの音とともに、いつもの穏やかな声で気の抜けたことを言うのは油井だ。後ろには幸恵さんもいた。

「金魚扱い? ……もういっそ金魚なら良かった」
 そう静かに呟き、コーヒーを飲んだ。

「油井は良いとして、幸恵さんにも毒……試食を?」

「ああ、いや。呼んだのは俺だよ。学校でも良かったんだけどな」

「文化祭の話でね」
 新城の返答に油井が補う。

「もしかして、演劇?」

「そうそう。丁度ここに二組三人と幸恵さんを良く知る二人がいるから。やるべきかどうかからどう進めるかまで意見を聴ければと思って」

「ん? 幸恵さんは良いの?」

 さっきまで新城がいた席に座った幸恵さんを、その更に隣に座った油井が覗き込むように訊いた。自然と大原の隣に着いたね、新城。

「良いと思うよ。私に演技とかできるか分からないけどね」

「そう。じゃあ演技無しで」
 新城と木庭の方に目配せして意見した。

「すげぇ難しいこと言うじゃん。プロの役者でも難しいんじゃないのそれ」

「いや、なんとなく分かってた。だから、君島、油井、木庭、こっち」
 油井の懸念をいなしたかと思うと、招き寄せ、近寄らせ、小さい声で続きを話した。

「この四人、ひいてはクラス全員も加えて雰囲気を作れないかと思っててな」

「無茶苦茶言うじゃん」聞こえていた大原。
「演技無しでって言っちゃったしな」渋々の油井。
「今決めた演劇やめといた方が良いわ」呆れる木庭。
「保険張るなよ~。君島は?」すがる新城。
 鳴る僕のスマートフォン。
「あ、ちょっと出ます」
 輪から外れて、僕は店の窓際の端へと向かった。

 たどり着いて振り返ると、新城が周りの顔色を伺っていた。
 そして一言。
「やめとく?」
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