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第1章

1-56進路相談 ☆

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 早いもので、六月末の試験期間も終わり、七月第一週も動画の編集をして過ぎていった。
 今日放映の体育祭名場面集は概ね好評だったようだ。例えば二年サッカーのところとか。
 その放課後は放送室や機材、ファイルの片づけと今後の予定確認を済ませ、映像部はいつもより早めに解散した。

 そうして、コンピューター室に二人残った。
 縦六列の席すべてにコンピューターが設置されたこの部屋で、出入り口側から二番目の列、前から二番目に僕、その右隣に幸恵さん。いつもの所にまだ座っていた。

「どんな感じなのかな? 福成くんの進路って」

 僕に向けられた目があまりにもわくわくした感じだった。

「詳しくは分からないけど、楽しみにするものではないような……」

 あっけらかんと伝えられたんだろうから悩みを打ち明けられる感じが無かったのかな。

「あ……うん。ちゃんと聴いて私が思うことを伝えるよ。でも、その前に悩むほど進路に向き合ってるのが素敵だし、それを私たちに相談してくれるのが嬉しくて」

 申し訳なさそうな笑いから幸せそうな微笑みへと移ろいながら話してくれた。
 でもその言葉は、僕の心に痛かった。こうして油井が打ち明けることに繋がった草壁の言葉こそが疼かせていた。
 草壁と幸恵さん、それぞれの好意を簡単に受け止められないと、素直に言ったとしたら、二人はどうしていただろうか。
 そんな考えを、聞こえたノックを機に止めた。
 幸恵さんが応答して、入ってきた油井に僕は目の前の席へ座るように促した。

「そういえば美術部はいいの?」

「ああ。こっちの方が大事なのでね」

「じゃあ、早速、聴いても良いかな」

「勿体付けることでもないからね。迷っている進路っていうのは、考古学と天文学なんだ」

「へ~、良いね! 一方は古代の文明とか生物とかで、もう一方は地球外の物質とか電磁波とかかあ。……確かに難しい。どっちも目指してほしいけど、両方は……」

「それぞれ説明が必要かと思っていたが、不要らしい」

「違いすぎない? 特に考古学って文系寄りじゃないの?」

「だからどうすればいいのか決めかねてね。文理の変更期限も迫ることだし」

「訊いておくけど、文系と理系で得意科目はどっち?」

「どちらかというと理系。でもまあやってやれないことはないな」

「なんでだろう。本当だと思えるのは」

 幸恵さんはしばらく黙り込んでいた。相談すればちゃんと考えを巡らせてくれるし、周りの声は聞こえなくなる。心配になるけどそれだけ真剣に考えてくれているのが伝わる。
 宇宙の話も出て、幸恵さんがこの状態になって、否が応にもあの問い掛けをした時を思い出す。そして、今ここにいる油井を見て思う。
 油井は、幸恵さんにとって理想的で、幸せにしてくれる人足り得ただろうかと。

「幸恵さんにも難しい質問で申し訳ない」

 考え続ける幸恵さんを見かねてか、油井が声をかけた。

「う~ん。私は、今のところどっちも向いてるとしか思えないよ」

 油井は、目を丸くして、それから静かに笑った。

「それだけ聴ければ十分だ。ありがとう、無理言ったのに真剣に考えてくれて」

「あ、ううん。私こそごめんね、あんまり役に立てなくて」

「これからも何か訊いたりして良いかな。また困らせるかもしれないが」

「大丈夫。よろしくね!」

「では、戻るよ。君島もありがとう」

「うん」
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