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第1章
1-55白い半袖の体育着
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そんな体育祭の最後の試合も間もなく終わろうという頃、校庭にいくつかの黒い点ができるのが三階から見えた。
幸恵さんが作ってくれた資料の一文、「機材が雨に濡れないようにね。ちょっとなら大丈夫だと思うけど、中に入ったら終わりだから……」が頭に浮かんだ。それは、その通りです。
ほどなくして外にいた幸恵さんは部員と撮影に協力する委員のグループへメッセージを発令し、僕は外に向けていたカメラを取り込んだ。雨足はあっという間に強くなったけど、機材は無事で済んだ。
最後に校庭を見ると、まだ幸恵さんが外にいた。
玄関に近付いてはいたが、すでに他は誰もいない状態だった。
跳ねるように教室を出た。
空いていると思った道を選んでも、無意味だったのかもしれない。大勢の人の流れに逆行することは避けられなかった。圧倒されつつ、焦りつつ、謝りつつ、一階まで駆け下りた。そこで遂に人が捌け、いつものように静かになった。
玄関に人影が見えた。他と違って手に何か持つ影。
「幸恵さん! 大丈夫?」
「あ、来てくれたの? これ持って~」
差し出された、大きいポリ袋を被った機材を受け取った。
「雨の中これ運ぶの結構危ないね。この辺のことも考えなきゃ」
「それよりふ……」
僕は言い淀んだ。拭いた方がいいと言おうとしたその体に、白い半袖の体育着が濡れて張り付いているのをまともに見たからだ。
胸は大きいことも形もスポーツブラで包まれていることも分かってしまうし、腰回りもくびれた形が露わになっていた。
「どうかした?」
「ああ、ううん……」
否定も空しく幸恵さんは下に目を遣り、それから僕を見た。
後悔しかなかった。嫌われても良いとは思ってきたけど、こういう形は避けたかった……。
「ごめん! 嫌な思いさせて!」
「いいよ、見て」
「え?」
幸恵さんは一歩引き、両腕を軽く広げて言った。
「奏向くんが、見たいなら、見てほしいから」
逆光が体操服を透かして、上半身の輪郭を浮かび上がらせた。
綺麗で、艶めかしくて、見惚れたのは確かで。
そのとき、一層強く風が吹いた。
「うぅ、寒~」
それを聴いてはっとした。
「保健室! 着替え借りて! 風邪引いちゃうよ!」
「ん、そうだね。ありがと~。じゃ、カメラよろしくね」
何事もなかったかのように、玄関脇の保健室に入る幸恵さんを僕は見送った。
その後は校庭用のカメラがすべて回収された事を確認し、グループへメッセージを送信した。
それを終えても、それからしばらく考えても、幸恵さんがどうしたかったのか、どうして欲しかったのか、何も思い浮かばなかった。
幸恵さんが作ってくれた資料の一文、「機材が雨に濡れないようにね。ちょっとなら大丈夫だと思うけど、中に入ったら終わりだから……」が頭に浮かんだ。それは、その通りです。
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最後に校庭を見ると、まだ幸恵さんが外にいた。
玄関に近付いてはいたが、すでに他は誰もいない状態だった。
跳ねるように教室を出た。
空いていると思った道を選んでも、無意味だったのかもしれない。大勢の人の流れに逆行することは避けられなかった。圧倒されつつ、焦りつつ、謝りつつ、一階まで駆け下りた。そこで遂に人が捌け、いつものように静かになった。
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「どうかした?」
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「ごめん! 嫌な思いさせて!」
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「え?」
幸恵さんは一歩引き、両腕を軽く広げて言った。
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何事もなかったかのように、玄関脇の保健室に入る幸恵さんを僕は見送った。
その後は校庭用のカメラがすべて回収された事を確認し、グループへメッセージを送信した。
それを終えても、それからしばらく考えても、幸恵さんがどうしたかったのか、どうして欲しかったのか、何も思い浮かばなかった。
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