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第1章
1-48向かう先
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帰路についた。
大量のキャベツとともに。
幸恵さんから借りたクーラーボックスに提げて。
重い。
卯月さんに連絡を取ったところほとんどを引き受けてくれることになった。
いつもの五割り増しの時間をかけてリュヌにたどり着いた。
「いらっしゃ……あ、ソナくん! お疲れ~」
指定された場所でいかにも重そうな音を立てボックスは置かれた。
「うわ~結構入ってるね。お~、普通だったら駄目かもねこれ。ちゃんと食べられるものなんだけどね」
「お店で出すんですか?」
「ちゃんと説明して合意を得られた常連さん向けかな。タダでね」
「すみません。無理させてしまって」
「ううん。そういうのたまに出すことあるから。それにここの冷蔵庫なら開けられるし。いつまでも学校の借りるわけにもいかないもんね」
そういって小柄な体格に見合わず軽々とボックスを持ち上げて厨房へ入った。本当何から何まで凄い。
カウンター席に座ると草壁が注文を取りに来てくれた。
「いつものでいいよね?」
「お願いします」
僕の息も絶え絶えな返答に笑い出す草壁。
「いや疲れすぎでしょ。君島には飲食業も運送業も向いてないね」
「ということは草壁ならあの重さを高校からここまで余裕なんだ」
「えっ? そ、そうだけど? しかも君島より速く持ってこられるからね?」
「……無理なさらないでください」
「無理じゃないし! 絶対にお店持つんだから!」
「そっちを持てないとは言ってないよ!?」
「じゃあ明日来てよね!」
「その話ここまでの話と脈絡あります? 明日? 部活があるから多分遅くなるけど」
「来てよね! ちゃんと! 遅くても!」
「来ます! 来ますから!」
口調は変わった感じがないけど、表情は焦っている様子を経てどことなく嬉しそうな雰囲気へと変わっていった。
なんだろう? 何かの相談? ここの意味が無いか。
そんなことを考えながら、もしかするとまだ少し高いものに変えられているかもしれないコーヒーを飲んだ。
◇
次の日油井を見かけ、幸恵さんから相談があったことを話した。
「凄いな彼女は。そこまで分かるとは」
一言目に単純な驚きを表した。
「そう。そういう幸恵さんだからこそ相談してみたいことがあってね」
その捉え方に共感して少し笑ってしまった。
「確かに。さも簡単なことのように解決したり選択したりするからね」
「やっぱりそうか」
反して油井は困っている様子に変わった。
「どうかした?」
「彼女は重いこと話してもそのままなのか、それとも本当のことが言いにくかったりして困るのかが問題なんだよね」
「そういうこと……何の話するつもりなの?」
「進路の話」
僕が考えるに、重いかどうかを幸恵さんはあまり気にしないだろう。それよりも相談者――油井と今の関係を持ちながら、大きい影響を与えかねない相談を受けたとき、どう返すのかが想像できなかった。
やっぱり気にせず答える? 油井の言う通り困る? 助言するだけかもしれない。
いや、回答の内容そのものよりも……。
――大きい目標とかがある人とか、前向きな人、とかかな?
相談内容、あるいは相談したこと自体が影響して今の関係が落ち目になる可能性もある。
「僕も少し考えていいかな。幸恵さん掴みどころないから」
大量のキャベツとともに。
幸恵さんから借りたクーラーボックスに提げて。
重い。
卯月さんに連絡を取ったところほとんどを引き受けてくれることになった。
いつもの五割り増しの時間をかけてリュヌにたどり着いた。
「いらっしゃ……あ、ソナくん! お疲れ~」
指定された場所でいかにも重そうな音を立てボックスは置かれた。
「うわ~結構入ってるね。お~、普通だったら駄目かもねこれ。ちゃんと食べられるものなんだけどね」
「お店で出すんですか?」
「ちゃんと説明して合意を得られた常連さん向けかな。タダでね」
「すみません。無理させてしまって」
「ううん。そういうのたまに出すことあるから。それにここの冷蔵庫なら開けられるし。いつまでも学校の借りるわけにもいかないもんね」
そういって小柄な体格に見合わず軽々とボックスを持ち上げて厨房へ入った。本当何から何まで凄い。
カウンター席に座ると草壁が注文を取りに来てくれた。
「いつものでいいよね?」
「お願いします」
僕の息も絶え絶えな返答に笑い出す草壁。
「いや疲れすぎでしょ。君島には飲食業も運送業も向いてないね」
「ということは草壁ならあの重さを高校からここまで余裕なんだ」
「えっ? そ、そうだけど? しかも君島より速く持ってこられるからね?」
「……無理なさらないでください」
「無理じゃないし! 絶対にお店持つんだから!」
「そっちを持てないとは言ってないよ!?」
「じゃあ明日来てよね!」
「その話ここまでの話と脈絡あります? 明日? 部活があるから多分遅くなるけど」
「来てよね! ちゃんと! 遅くても!」
「来ます! 来ますから!」
口調は変わった感じがないけど、表情は焦っている様子を経てどことなく嬉しそうな雰囲気へと変わっていった。
なんだろう? 何かの相談? ここの意味が無いか。
そんなことを考えながら、もしかするとまだ少し高いものに変えられているかもしれないコーヒーを飲んだ。
◇
次の日油井を見かけ、幸恵さんから相談があったことを話した。
「凄いな彼女は。そこまで分かるとは」
一言目に単純な驚きを表した。
「そう。そういう幸恵さんだからこそ相談してみたいことがあってね」
その捉え方に共感して少し笑ってしまった。
「確かに。さも簡単なことのように解決したり選択したりするからね」
「やっぱりそうか」
反して油井は困っている様子に変わった。
「どうかした?」
「彼女は重いこと話してもそのままなのか、それとも本当のことが言いにくかったりして困るのかが問題なんだよね」
「そういうこと……何の話するつもりなの?」
「進路の話」
僕が考えるに、重いかどうかを幸恵さんはあまり気にしないだろう。それよりも相談者――油井と今の関係を持ちながら、大きい影響を与えかねない相談を受けたとき、どう返すのかが想像できなかった。
やっぱり気にせず答える? 油井の言う通り困る? 助言するだけかもしれない。
いや、回答の内容そのものよりも……。
――大きい目標とかがある人とか、前向きな人、とかかな?
相談内容、あるいは相談したこと自体が影響して今の関係が落ち目になる可能性もある。
「僕も少し考えていいかな。幸恵さん掴みどころないから」
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