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第1章

1-43ついり曇

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 再び来た土曜。雲が詰まった空は暗く、梅雨時らしい空模様であることへの情緒と、それにしてはまだ降り出さないことへの関心を覚えていた。
 先週よりさらに早い時間に僕はリュヌの前に来ていた。玄関口には貸し切りの札。来る前に電話で話をつけていたので卯月さんは外にいる僕に気付き、ドアを開けてくれた。
 開けてくれたドアノブを持つ手が震えていた……。

「……大丈夫ですか」

「な、ないじょうぶ」

「どんな感情なんです?」

「う~。自分の子どもが告白するってときでもこんなに緊張しないかも」

「まあ、一年ちょっとの付き合いの人ですからね」

「店長!? 違いますからね!? そこまでするつもりじゃないですから!」

 すごい剣幕の草壁がカウンターから怒鳴った。
 悪くなかったら今日告白までして欲しいな~。

 店長である卯月さんは当然ながら、いつもなら土曜出勤しない草壁、そして僕がこのの喫茶店に集まったのは、店内を木庭と草壁だけにしてこれまでのこと話し合ってもらうためだ。
 その中での僕の役割は通過が想定される道の脇に潜み、卯月さんに報告することだ。報告を受けた卯月さんは出入り口の札を裏返し、木庭が入ったらまた戻す算段になっている。その後僕と卯月さんは店内に隠したカメラで撮影した映像を更衣室で見守る。

 ここまでするつもりは最初無かった。しかし草壁は木庭に着信拒否されていたのか連絡できず、僕が話しても聞く耳を持たなかった。……草壁の名前を出すという僕の初動を反省します。
 その上で卯月さんに相談したのだけど、その答えが「じゃあここで待ち伏せるしかないよね!」だった。卯月さんは思い切りが良い。さすが店長兼オーナー。
 あれよあれよと言う間に過ぎ去っていった今週を思い返す僕の顔を見るなり、草壁はため息を吐く。

「やっぱ呼ぶんじゃなかった……」

「え? ああ。別にカメラは後で回収すればいいって」「それは無し! ちゃんと細かいところまで新城くんに伝えてもらうからね!」

 僕は思わず微笑してしまった。
「はい。分かりました」

 新城にも話をしたところ、部活でさすがに長時間は抜け出せないとのことだった。そのため録画を残し後日見てもらうことになっていた。
 ここまでの行動を見るに草壁の中では整理がついたらしい。本心を伝えて何か責任を負うとしても、必要以上に負わなくても良い、むしろ相手にも負わせてやるぐらいに考えているようだった。
 言葉の上では新城のための連絡係として扱われても、実際は僕を巻き込んだつもりがあることも、だからこそちゃんと伝えたいと思っていることも分かっていた。相変わらず不器用だけど。
 ちなみに櫓からのレンタルカメラは三千円/泊でした。格安だけど僕の財布は風前の灯火です。

優哉ゆうや、来てくれるよね」
 草壁は落ち着いた面持ちで幼なじみの名前を口に出した。

「うん」
 僕が強く頷いて、気持ちが切り替わったようだった。

「店長、ありがとうございます。ちゃんと、伝えたいこと伝えます」
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