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第1章

1-39嫌う人物

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 前触れがあるはずもなく、ドアに提げられたベルが鳴る。
 反射で僕は視線を向ける。
 入ってきたのは、木庭だった。
 木庭はどんなときも寡黙で冷静だ。でも無愛想では無いことを、特にバスケ部での活動を覗いたときに実感した。
 そんな木庭でも草壁には近づきたくない、ということらしい。何があったんだろう……。

「ぃ、いらっしゃいませええ~」

 卯月さん? 緊張してる?
 木庭も怪訝な顔になったが、特に触れずに注文した。

「ティラミス一つ」

 最初にそれなんだ。まさかそれ頼むとは思わなかった。
 程なくして木庭の下に注文品が届いた。卯月さんはとんぼ返りして僕の前に来た。

「はあ、緊張しちゃった……」
 胸に手を当てる卯月さんの顔がまだ少し赤い。

「いやなんでですか。いつも通りで大丈夫ですよ」

「もう! いつも通りとか普通とかなんでもいいよとかが一番難しいんだからね!」

「なんか関係ないことも言われている気がしますけどすみません」



 木庭が会計を済ませて店を出るところまで待った。

「じゃあ卯月さん、追ってきます」

「いってらっしゃい。会計忘れないでねー」

 軽く返事をして店の前で左右に首を巡らせる。木庭が駅の方へ歩いているのを見て駆け寄った。

「木庭、今時間ある?」

「君島か。あるが、何の用だ?」

「うん。草壁のこと、訊きたくて」

 深く息を吐いてから返答してくれた。
「……長くなるかもしれないが」

「公園でもいいかな」

 それから、公園のベンチに着くまで僕たちは会話を交わさなかった。

 まず声を発したのは僕だった。
「何か飲む?」

「いや、大丈夫」

「じゃあ、まずは、草壁とはどんな関係で?」

 木庭は少し驚いたような反応を見せた。
「なんだ? 知らなかったのか? 大原がいつも言っていただろ」

「え? ……デュエ◯スタンバイ!」
 ちゃんとフリも付けました。

「なんでだ!? あいつそんなことよく言うのかよ! そうじゃなくて俺と草壁の関係の話をしてたんだろ!?」

「そっか……もしかして、幼なじみ」

「そうだよ。近所同士だったから小さい時からよく遊んだんだよ」

「今は違うの?」

「こっちが引っ越したんだ。小学校卒業と同時に」

「あ……それで、草壁にもう一度会うためにこの高校に?」

「……ああ。気持ち悪いよな」

「そんな。羨ましいよ。そういうの」

「お前が言うなよ」
 呆れたような、自嘲が籠もったような言い方だった。

「本当に同じ高校に受かってるだなんて思わなかった。クラスは違っても良いと思ってた。ただあいつにとっては違う意味で良かったみたいだけどな」
 最後はこちらを向いて言い放った。

「僕……のこと?」

「でもそれで良いと思った。望んでそうしたならって。だから距離も置いた。けど、そんなお前も結局弄ばれたんだな」

 新城とのことだ。

「いや、それは――」
 ――僕を同類にしないでほしい。木庭がそんなに思っているんだったら、僕と同じにしちゃ駄目だ。――

 そう言えるはずもない。言ったところで気休めにもならないだろう。

「あいつは変わったんだな」

「……そばにいる人がよく変わることを指して変わったって言ってるなら、それは違うと思う。草壁は遊びで付き合うのを嫌っているから」

 鼻で笑う木庭。
「どうだろうな。いつも口だけだからな」
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