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第1章
1-38喫茶店の店長さん
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草壁が倒れてから五日が経った金曜、再度卯月さんのもとを訪ねた。結局その次の日からバイトに来ていたようで、様子を知るために卯月さんに連絡し、シフトの無い日を教えてもらっていた。
……こんなに簡単に聞けるなら櫓もシフト表握ってるはずだよね。親が友人同士とかは関係無いと思う。
卯月さんは僕をカウンター席の一番奥へと導いた。
「早速ですけど、草壁はどうですか?」
「うーん……。あれから意識するようにしてたけど、特に変わらないと思うんだよね。新城くんも来なかったし」
「今週も終業後に教えてたんですか」
「うん。ミラちゃんって負けず嫌いって感じだから、私が教えないって言ったら怒らせちゃいそうで。時間を少し短くするぐらいしかできないよ」
「いえ、ありがとうございます。大分楽になっていると思います」
「そっか。だよね! なんせ伊達にここ経営してないからね!」
申し訳なさそうな話しぶりから一転、胸を張りながら言う。
「根本の解決に至らないのが惜しいところです」
「だよね……」
僕の言葉を聴いてすぐに肩を落とした。草壁と似て忙しい……。
「あ、そうそう。ミラちゃんに直接関係ないんだけど、ソナくんと同じようなこと訊いてきた子がちょっと前にいたことを思い出したんだよね。『草壁が来ない曜日を教えてもらえませんか』って」
「へえ。何か問題を起こしたとかでもないですよね?」
「うん。なんでそんなこと訊いたのか思い当たらないんだよね」
「曜日を訊いたんですよね……。その後定期的に来たんですか?」
「うん、最近も来てるよ。多分明日も来るんじゃないかな」
「どんな人ですか?」
「ソナくんと同じ高校だと思うよ。歳も同じかな?」
ここで働く人は卯月さんも含めて共通のエプロンを着けている。そのエプロンに名札などが付いていたりするわけではないので、卯月さんに訊く前から草壁のことを知る人物と思われる。そしてその上で避けているわけだ。
草壁が無理をしてまで達成しようとしている目標。それが単に料理を学びたい一心からなのか、新城のためなのか、それとも別に何かあるのか。
現状は手詰まりだ。
「卯月さん。その人に会ってみてもいいですか?」
◇
次の日、卯月さんに教えてもらった時間の少し前、昨日と同じ席で待った。昼過ぎなので人は少ない。ただシフトの無い日を教えただけなのにいつもこの時間に来るのだから、待ち人は気を使う人らしい。
よく考えると草壁には会わないようにしていながらこの店に来たがっているのだ。普通嫌な店員がいると分かった店には来ようとしないと思う。そこまで惹きつけているものとは何なのだろう。まあ喫茶店だからコーヒーとか料理というのが順当な考えだけど……。
実は卯月さん目当ての人も多い。
母と高校時代に撮った写真を見せてもらったときは衝撃を受けた。全く以て変わっていない。母は少し背が伸びたとは言っていたがそういう問題では無い。そのころも今も高校生どころか中学生でも通る可能性がある見た目をしているのだから。でも、卯月さんは結婚して大学生になる子どももいる。結婚が知れ渡った時に客入りが減ったと自分で言い、言わない方が良かったかもねと冗談交じりに話していた。
そんな今でもファンはいるのだと櫓は言う。本人は知らないようだが、小さい体で健気に、店長としても母としても頑張る姿に心打たれる人がいるそうだ。
さて、これから来る常連は一体どちらなのだろうか。……あんまり能動的に暴きたくないかな。察したいと思います。
……こんなに簡単に聞けるなら櫓もシフト表握ってるはずだよね。親が友人同士とかは関係無いと思う。
卯月さんは僕をカウンター席の一番奥へと導いた。
「早速ですけど、草壁はどうですか?」
「うーん……。あれから意識するようにしてたけど、特に変わらないと思うんだよね。新城くんも来なかったし」
「今週も終業後に教えてたんですか」
「うん。ミラちゃんって負けず嫌いって感じだから、私が教えないって言ったら怒らせちゃいそうで。時間を少し短くするぐらいしかできないよ」
「いえ、ありがとうございます。大分楽になっていると思います」
「そっか。だよね! なんせ伊達にここ経営してないからね!」
申し訳なさそうな話しぶりから一転、胸を張りながら言う。
「根本の解決に至らないのが惜しいところです」
「だよね……」
僕の言葉を聴いてすぐに肩を落とした。草壁と似て忙しい……。
「あ、そうそう。ミラちゃんに直接関係ないんだけど、ソナくんと同じようなこと訊いてきた子がちょっと前にいたことを思い出したんだよね。『草壁が来ない曜日を教えてもらえませんか』って」
「へえ。何か問題を起こしたとかでもないですよね?」
「うん。なんでそんなこと訊いたのか思い当たらないんだよね」
「曜日を訊いたんですよね……。その後定期的に来たんですか?」
「うん、最近も来てるよ。多分明日も来るんじゃないかな」
「どんな人ですか?」
「ソナくんと同じ高校だと思うよ。歳も同じかな?」
ここで働く人は卯月さんも含めて共通のエプロンを着けている。そのエプロンに名札などが付いていたりするわけではないので、卯月さんに訊く前から草壁のことを知る人物と思われる。そしてその上で避けているわけだ。
草壁が無理をしてまで達成しようとしている目標。それが単に料理を学びたい一心からなのか、新城のためなのか、それとも別に何かあるのか。
現状は手詰まりだ。
「卯月さん。その人に会ってみてもいいですか?」
◇
次の日、卯月さんに教えてもらった時間の少し前、昨日と同じ席で待った。昼過ぎなので人は少ない。ただシフトの無い日を教えただけなのにいつもこの時間に来るのだから、待ち人は気を使う人らしい。
よく考えると草壁には会わないようにしていながらこの店に来たがっているのだ。普通嫌な店員がいると分かった店には来ようとしないと思う。そこまで惹きつけているものとは何なのだろう。まあ喫茶店だからコーヒーとか料理というのが順当な考えだけど……。
実は卯月さん目当ての人も多い。
母と高校時代に撮った写真を見せてもらったときは衝撃を受けた。全く以て変わっていない。母は少し背が伸びたとは言っていたがそういう問題では無い。そのころも今も高校生どころか中学生でも通る可能性がある見た目をしているのだから。でも、卯月さんは結婚して大学生になる子どももいる。結婚が知れ渡った時に客入りが減ったと自分で言い、言わない方が良かったかもねと冗談交じりに話していた。
そんな今でもファンはいるのだと櫓は言う。本人は知らないようだが、小さい体で健気に、店長としても母としても頑張る姿に心打たれる人がいるそうだ。
さて、これから来る常連は一体どちらなのだろうか。……あんまり能動的に暴きたくないかな。察したいと思います。
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