上 下
38 / 204
第1章

1-38喫茶店の店長さん

しおりを挟む
 草壁が倒れてから五日が経った金曜、再度卯月さんのもとを訪ねた。結局その次の日からバイトに来ていたようで、様子を知るために卯月さんに連絡し、シフトの無い日を教えてもらっていた。
 ……こんなに簡単に聞けるなら櫓もシフト表握ってるはずだよね。親が友人同士とかは関係無いと思う。

 卯月さんは僕をカウンター席の一番奥へと導いた。
「早速ですけど、草壁はどうですか?」

「うーん……。あれから意識するようにしてたけど、特に変わらないと思うんだよね。新城くんも来なかったし」

「今週も終業後に教えてたんですか」

「うん。ミラちゃんって負けず嫌いって感じだから、私が教えないって言ったら怒らせちゃいそうで。時間を少し短くするぐらいしかできないよ」

「いえ、ありがとうございます。大分楽になっていると思います」

「そっか。だよね! なんせ伊達にここ経営してないからね!」
 申し訳なさそうな話しぶりから一転、胸を張りながら言う。

「根本の解決に至らないのが惜しいところです」

「だよね……」
 僕の言葉を聴いてすぐに肩を落とした。草壁と似て忙しい……。

「あ、そうそう。ミラちゃんに直接関係ないんだけど、ソナくんと同じようなこと訊いてきた子がちょっと前にいたことを思い出したんだよね。『草壁が来ない曜日を教えてもらえませんか』って」

「へえ。何か問題を起こしたとかでもないですよね?」

「うん。なんでそんなこと訊いたのか思い当たらないんだよね」

「曜日を訊いたんですよね……。その後定期的に来たんですか?」

「うん、最近も来てるよ。多分明日も来るんじゃないかな」

「どんな人ですか?」

「ソナくんと同じ高校だと思うよ。歳も同じかな?」

 ここで働く人は卯月さんも含めて共通のエプロンを着けている。そのエプロンに名札などが付いていたりするわけではないので、卯月さんに訊く前から草壁のことを知る人物と思われる。そしてその上で避けているわけだ。
 草壁が無理をしてまで達成しようとしている目標。それが単に料理を学びたい一心からなのか、新城のためなのか、それとも別に何かあるのか。
 現状は手詰まりだ。

「卯月さん。その人に会ってみてもいいですか?」



 次の日、卯月さんに教えてもらった時間の少し前、昨日と同じ席で待った。昼過ぎなので人は少ない。ただシフトの無い日を教えただけなのにいつもこの時間に来るのだから、待ち人は気を使う人らしい。

 よく考えると草壁には会わないようにしていながらこの店に来たがっているのだ。普通嫌な店員がいると分かった店には来ようとしないと思う。そこまで惹きつけているものとは何なのだろう。まあ喫茶店だからコーヒーとか料理というのが順当な考えだけど……。

 実は卯月さん目当ての人も多い。
 母と高校時代に撮った写真を見せてもらったときは衝撃を受けた。全く以て変わっていない。母は少し背が伸びたとは言っていたがそういう問題では無い。そのころも今も高校生どころか中学生でも通る可能性がある見た目をしているのだから。でも、卯月さんは結婚して大学生になる子どももいる。結婚が知れ渡った時に客入りが減ったと自分で言い、言わない方が良かったかもねと冗談交じりに話していた。
 そんな今でもファンはいるのだと櫓は言う。本人は知らないようだが、小さい体で健気に、店長としても母としても頑張る姿に心打たれる人がいるそうだ。

 さて、これから来る常連は一体どちらなのだろうか。……あんまり能動的に暴きたくないかな。察したいと思います。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...