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第1章
1-37行動の影響
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「は~お前ら本当に!」
大原はまた数学の授業前に恨み言を放つ。
「新城またか? 何度目だ!? あと油井もか! なんで俺にはぁ……」
「あー……。どうしたの? いつも通りと言えばいつも通りだけど」
「あ。草壁ちゃんのこと? いやまだ大原が思っているような感じじゃないけど」
「そんなことは知らん!」
「ああ、またそういう話か。多分幸恵さんだと思うけど、こっちも別に親しくしてもらってるだけだよ」
「ア……シタ、シク?」
口を開けたまま固まる大原。
「大原? なんでカタコト? 別に友人がいて、それが女子ってこともあるんじゃない?」
僕の一言で、大原は静かに、口を閉じた。
「そうだよな~。親しいだけなんだよな~。最近みたいに一方的じゃないのは良いところもあるけどな」
「自然でいいんじゃない? 気付いた時に付き合って気付いた時に別れるみたいのはおかしいでしょ」
「耳が痛え」
自然に。無理なく。草壁は、いや彼ら彼女らはそう思えているのだろうか。距離を近付けようとして、心や体を壊すことになっては……。
彼女たちに訊いたのは理想で、ともすればそれは高すぎたり的外れだったりして、本当は相応しくない可能性があった。
草壁がこうなる前なら、それでも敢えてその理想を叶えたいと考えただろう。妥協を無くしてこそ、どうするのが本当に自分に合っているかを見つけ出せると思っていたから。
敢えて。拵えて。そうしなければ果たせない僕の理想の方が、高すぎて的外れか。
草壁にはまた別の人を会わせるべきなんだろうか? それはまた同じ事を繰り返すことになるんだろうか?
――その本当に合っている人っていうのが君だったらどうするつもりだ?――
櫓に突きつけられた通りなら、僕が始めたことはただみんなを不幸にしたことになる。
「本当にありがとうな、君島」
「私も、気の合う人と会わせてくれて感謝してるよ」
…………。
不意に聞こえた二人の言葉に、僕は頷くしかなかった。
この二人にとって今は良い状況であることに、安心するしかなかった。
◇
数日後の部活終わり、僕はコンピューター室の鍵を閉めた。
「あ、そうだ。キャベツいらない?」
後ろにいた幸恵さんからの唐突な提案だった。唐突過ぎて跳ねるように振り返った。
「なんで? どうしたの?」
「親戚からいっぱい送られて来ちゃったから。それと、遊園地のお礼もしたかったし」
「気を使わなくても良いよ。まあでも、いっぱいあるなら。親に確認してみるよ」
「お願いします」
幸恵さんは楽しそうに笑う。
今の僕は、その時のことに関して屈託無く話す姿に気が咎めた。
「あの時は関わり薄い人ばかりでごめん。僕の都合で集めたから」
「なんで? チケットは奏向くんのものだから奏向くんの都合で使うのは当然じゃない? それで私も楽しかったし」
「そうかもしれないけど……油井とかに気を使わせちゃったかなって思ってたから」
「そんなこと無いよ。奏向くんとちょっと似てて安心した」
「そうかな。僕より頭が回る人だと思うよ?」
「奏向くんは気が回るよ?」
幸恵さんはいつでも気後れしない。
「当然違うところもあるよ。でもどっちも、良い人だよ」
幸恵さんはいつも、その穏やかな笑顔で僕の言葉を出させなくする。
幸恵さんにおいても油井が僕より優れていると思っていた。でも実際は、同列に見ている。
失敗だ。
僕から幸恵さんを遠ざけることには。
でも、その姿に幾らか心が晴れた。
「鍵返しに行こ?」
そう言って、前と変わらない距離で僕らは職員室へ向かった。失敗したことはこれからなんとかしよう。
「キャベツ、料理してもそのまま食べてもなかなか減らないんだよね」
「嵩があるまま食べたりするからなかなか減らないんじゃないかな……」
「やっぱりそのままはだめかぁ」
よく考えちゃったんだけど、キャベツをくれるのは気を使っているからだよね? 大家族なのに本当に減らないわけじゃないよね?
大原はまた数学の授業前に恨み言を放つ。
「新城またか? 何度目だ!? あと油井もか! なんで俺にはぁ……」
「あー……。どうしたの? いつも通りと言えばいつも通りだけど」
「あ。草壁ちゃんのこと? いやまだ大原が思っているような感じじゃないけど」
「そんなことは知らん!」
「ああ、またそういう話か。多分幸恵さんだと思うけど、こっちも別に親しくしてもらってるだけだよ」
「ア……シタ、シク?」
口を開けたまま固まる大原。
「大原? なんでカタコト? 別に友人がいて、それが女子ってこともあるんじゃない?」
僕の一言で、大原は静かに、口を閉じた。
「そうだよな~。親しいだけなんだよな~。最近みたいに一方的じゃないのは良いところもあるけどな」
「自然でいいんじゃない? 気付いた時に付き合って気付いた時に別れるみたいのはおかしいでしょ」
「耳が痛え」
自然に。無理なく。草壁は、いや彼ら彼女らはそう思えているのだろうか。距離を近付けようとして、心や体を壊すことになっては……。
彼女たちに訊いたのは理想で、ともすればそれは高すぎたり的外れだったりして、本当は相応しくない可能性があった。
草壁がこうなる前なら、それでも敢えてその理想を叶えたいと考えただろう。妥協を無くしてこそ、どうするのが本当に自分に合っているかを見つけ出せると思っていたから。
敢えて。拵えて。そうしなければ果たせない僕の理想の方が、高すぎて的外れか。
草壁にはまた別の人を会わせるべきなんだろうか? それはまた同じ事を繰り返すことになるんだろうか?
――その本当に合っている人っていうのが君だったらどうするつもりだ?――
櫓に突きつけられた通りなら、僕が始めたことはただみんなを不幸にしたことになる。
「本当にありがとうな、君島」
「私も、気の合う人と会わせてくれて感謝してるよ」
…………。
不意に聞こえた二人の言葉に、僕は頷くしかなかった。
この二人にとって今は良い状況であることに、安心するしかなかった。
◇
数日後の部活終わり、僕はコンピューター室の鍵を閉めた。
「あ、そうだ。キャベツいらない?」
後ろにいた幸恵さんからの唐突な提案だった。唐突過ぎて跳ねるように振り返った。
「なんで? どうしたの?」
「親戚からいっぱい送られて来ちゃったから。それと、遊園地のお礼もしたかったし」
「気を使わなくても良いよ。まあでも、いっぱいあるなら。親に確認してみるよ」
「お願いします」
幸恵さんは楽しそうに笑う。
今の僕は、その時のことに関して屈託無く話す姿に気が咎めた。
「あの時は関わり薄い人ばかりでごめん。僕の都合で集めたから」
「なんで? チケットは奏向くんのものだから奏向くんの都合で使うのは当然じゃない? それで私も楽しかったし」
「そうかもしれないけど……油井とかに気を使わせちゃったかなって思ってたから」
「そんなこと無いよ。奏向くんとちょっと似てて安心した」
「そうかな。僕より頭が回る人だと思うよ?」
「奏向くんは気が回るよ?」
幸恵さんはいつでも気後れしない。
「当然違うところもあるよ。でもどっちも、良い人だよ」
幸恵さんはいつも、その穏やかな笑顔で僕の言葉を出させなくする。
幸恵さんにおいても油井が僕より優れていると思っていた。でも実際は、同列に見ている。
失敗だ。
僕から幸恵さんを遠ざけることには。
でも、その姿に幾らか心が晴れた。
「鍵返しに行こ?」
そう言って、前と変わらない距離で僕らは職員室へ向かった。失敗したことはこれからなんとかしよう。
「キャベツ、料理してもそのまま食べてもなかなか減らないんだよね」
「嵩があるまま食べたりするからなかなか減らないんじゃないかな……」
「やっぱりそのままはだめかぁ」
よく考えちゃったんだけど、キャベツをくれるのは気を使っているからだよね? 大家族なのに本当に減らないわけじゃないよね?
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