僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ

文字の大きさ
上 下
31 / 281
第1章

1-31会話と眺望 ☆

しおりを挟む
 少し離れて振り返ると、二人が乗っているところを確認できた。

「我ながらありがちな感じでいまいちだったな」

 櫓は物陰から出てきた。さっきまでいなかったと思うんだけど……?

「勘弁してくださいよ。一瞬櫓さんともあろう人がなんでって思ったんですから」

 油井の手が挙がるのが見えた。僕も挙げ返す。
 その瞬間耳に何かが入る。

「うわっ!?」

「良かった。近くにいたんだ」

 幸恵さんの声だ。

「調子でも悪かったか」

 油井が話した。
 耳に手を近づけるとイヤホンらしき物に触れた。

「櫓さん? これは?」

「イ・ヤ・ホ・ン」

「いやそうじゃなくて。いつの間に盗聴器でも仕掛けてたの?」

「二人の会話に耳を傾けた方がいいんじゃないか?」

 企業秘密ってやつですか。
 イヤホンからは幸恵さんの初めて観覧車に乗るような反応が聞こえていたが、やがて油井も話し始めた。

「正直言うと今になって遊園地はどうかとも思ったが、割と楽しめたし、こういうのが近くにあるというところもまた良い。こうして回されるのも悪くない」

「でも近いからこそ忘れちゃいがちだったから。今日来られて良かった。私一生来ないままだったかも」

 その声からにこやかな二人が目に浮かぶ。

「よく誘ってくれたよ、君島は。しかしなんでこのメンバーだったんだろうな」

「私たちを会わせるため」

 その通り。

「とかだったりして」

 バレたわけじゃなかった……焦った。
 櫓さんなんでほくそ笑んでいるんです? やめてくださいよ不安になるじゃないですか。

「そろそろ頂点か」

「おー……。街だね」

「街だな。それか山だな」

 イヤホンからの音が止まる。

 そして二人は笑いだした。

「でも夜だったら綺麗かも」

「確か街コンが夜にあったりしたな」

「え? 年齢決まってるでしょ?」

 幸恵さんの声は少しうろたえている様子だった。

「ああ、二十歳とかか」

「やっぱりそうだよね」

 二人を乗せたゴンドラは静かに頂点を過ぎた。

「でも、また来ることがあるなら家族とも来たいかな。喜んで大変かもしれないけど」

「きょうだいがいるのかな?」

「いるよ。下に四人なんだけど、中学生になっちゃうとさすがに嫌かな?」

 考え始めたのだろうか、幸恵さんの声が聞こえなくなる。
 少しして、油井の声が聞こえた。

「また来られると良いな。今度は家族で」

「うん。ありがとう」

 僕は自分でイヤホンを外して櫓に渡した。

「あの二人、どうかな?」

「これからだな。あと面白味が無いな」

「男女関係みんながみんな面白いものじゃ無いと思いますよ……」

「お前が言うか」

 二人が降りて来たのち、櫓は二人に乗らなかった理由を家訓と説明した。やはり裏切れなかった、と。……今後二人から事ある毎に心配されるようになるだろう。



 帰りは行きと同様バスを使った。

「そうだ、私のこと幸恵って呼んでもらえる?」

「ん? お~。あ~」

 なんでこっち見た油井。櫓さんも怪しい笑み湛えながら僕を見ないで?

「幸恵さん、でいいかな」

「うん。私も福成《ふくなり》くんでいい?」

「ああ。よろしく、幸恵さん」



 こうして、それぞれに解散していった。
 最後に、僕と櫓だけになった。

「これで終わりだな」

「ありがとうございました。櫓がいなかったらここまで望み通りにいかなかったよ」

「そう思うなら私の役に立ってもらおうか。明後日から金曜までパンでも買ってこい」

「純粋過ぎて困るほどに恐喝の台詞だよ! いじめなの? それとも舎弟なの?」

「そんなわけ無いだろ。そんなことして何の意味があるんだ?」
 真っ直ぐに僕を見て言った。

「ごめん。さすがの櫓でもそこまで酷くないよね」

「私はそこまで君自体に興味が無い」
 櫓は前に向き直って言った。

「もっと酷いような……」

「あるとすればこの先君と君の周囲がどう動くかだけだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...