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第1章
1-31会話と眺望 ☆
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少し離れて振り返ると、二人が乗っているところを確認できた。
「我ながらありがちな感じでいまいちだったな」
櫓は物陰から出てきた。さっきまでいなかったと思うんだけど……?
「勘弁してくださいよ。一瞬櫓さんともあろう人がなんでって思ったんですから」
油井の手が挙がるのが見えた。僕も挙げ返す。
その瞬間耳に何かが入る。
「うわっ!?」
「良かった。近くにいたんだ」
幸恵さんの声だ。
「調子でも悪かったか」
油井が話した。
耳に手を近づけるとイヤホンらしき物に触れた。
「櫓さん? これは?」
「イ・ヤ・ホ・ン」
「いやそうじゃなくて。いつの間に盗聴器でも仕掛けてたの?」
「二人の会話に耳を傾けた方がいいんじゃないか?」
企業秘密ってやつですか。
イヤホンからは幸恵さんの初めて観覧車に乗るような反応が聞こえていたが、やがて油井も話し始めた。
「正直言うと今になって遊園地はどうかとも思ったが、割と楽しめたし、こういうのが近くにあるというところもまた良い。こうして回されるのも悪くない」
「でも近いからこそ忘れちゃいがちだったから。今日来られて良かった。私一生来ないままだったかも」
その声からにこやかな二人が目に浮かぶ。
「よく誘ってくれたよ、君島は。しかしなんでこのメンバーだったんだろうな」
「私たちを会わせるため」
その通り。
「とかだったりして」
バレたわけじゃなかった……焦った。
櫓さんなんでほくそ笑んでいるんです? やめてくださいよ不安になるじゃないですか。
「そろそろ頂点か」
「おー……。街だね」
「街だな。それか山だな」
イヤホンからの音が止まる。
そして二人は笑いだした。
「でも夜だったら綺麗かも」
「確か街コンが夜にあったりしたな」
「え? 年齢決まってるでしょ?」
幸恵さんの声は少しうろたえている様子だった。
「ああ、二十歳とかか」
「やっぱりそうだよね」
二人を乗せたゴンドラは静かに頂点を過ぎた。
「でも、また来ることがあるなら家族とも来たいかな。喜んで大変かもしれないけど」
「きょうだいがいるのかな?」
「いるよ。下に四人なんだけど、中学生になっちゃうとさすがに嫌かな?」
考え始めたのだろうか、幸恵さんの声が聞こえなくなる。
少しして、油井の声が聞こえた。
「また来られると良いな。今度は家族で」
「うん。ありがとう」
僕は自分でイヤホンを外して櫓に渡した。
「あの二人、どうかな?」
「これからだな。あと面白味が無いな」
「男女関係みんながみんな面白いものじゃ無いと思いますよ……」
「お前が言うか」
二人が降りて来たのち、櫓は二人に乗らなかった理由を家訓と説明した。やはり裏切れなかった、と。……今後二人から事ある毎に心配されるようになるだろう。
◇
帰りは行きと同様バスを使った。
「そうだ、私のこと幸恵って呼んでもらえる?」
「ん? お~。あ~」
なんでこっち見た油井。櫓さんも怪しい笑み湛えながら僕を見ないで?
「幸恵さん、でいいかな」
「うん。私も福成《ふくなり》くんでいい?」
「ああ。よろしく、幸恵さん」
◇
こうして、それぞれに解散していった。
最後に、僕と櫓だけになった。
「これで終わりだな」
「ありがとうございました。櫓がいなかったらここまで望み通りにいかなかったよ」
「そう思うなら私の役に立ってもらおうか。明後日から金曜までパンでも買ってこい」
「純粋過ぎて困るほどに恐喝の台詞だよ! いじめなの? それとも舎弟なの?」
「そんなわけ無いだろ。そんなことして何の意味があるんだ?」
真っ直ぐに僕を見て言った。
「ごめん。さすがの櫓でもそこまで酷くないよね」
「私はそこまで君自体に興味が無い」
櫓は前に向き直って言った。
「もっと酷いような……」
「あるとすればこの先君と君の周囲がどう動くかだけだ」
「我ながらありがちな感じでいまいちだったな」
櫓は物陰から出てきた。さっきまでいなかったと思うんだけど……?
「勘弁してくださいよ。一瞬櫓さんともあろう人がなんでって思ったんですから」
油井の手が挙がるのが見えた。僕も挙げ返す。
その瞬間耳に何かが入る。
「うわっ!?」
「良かった。近くにいたんだ」
幸恵さんの声だ。
「調子でも悪かったか」
油井が話した。
耳に手を近づけるとイヤホンらしき物に触れた。
「櫓さん? これは?」
「イ・ヤ・ホ・ン」
「いやそうじゃなくて。いつの間に盗聴器でも仕掛けてたの?」
「二人の会話に耳を傾けた方がいいんじゃないか?」
企業秘密ってやつですか。
イヤホンからは幸恵さんの初めて観覧車に乗るような反応が聞こえていたが、やがて油井も話し始めた。
「正直言うと今になって遊園地はどうかとも思ったが、割と楽しめたし、こういうのが近くにあるというところもまた良い。こうして回されるのも悪くない」
「でも近いからこそ忘れちゃいがちだったから。今日来られて良かった。私一生来ないままだったかも」
その声からにこやかな二人が目に浮かぶ。
「よく誘ってくれたよ、君島は。しかしなんでこのメンバーだったんだろうな」
「私たちを会わせるため」
その通り。
「とかだったりして」
バレたわけじゃなかった……焦った。
櫓さんなんでほくそ笑んでいるんです? やめてくださいよ不安になるじゃないですか。
「そろそろ頂点か」
「おー……。街だね」
「街だな。それか山だな」
イヤホンからの音が止まる。
そして二人は笑いだした。
「でも夜だったら綺麗かも」
「確か街コンが夜にあったりしたな」
「え? 年齢決まってるでしょ?」
幸恵さんの声は少しうろたえている様子だった。
「ああ、二十歳とかか」
「やっぱりそうだよね」
二人を乗せたゴンドラは静かに頂点を過ぎた。
「でも、また来ることがあるなら家族とも来たいかな。喜んで大変かもしれないけど」
「きょうだいがいるのかな?」
「いるよ。下に四人なんだけど、中学生になっちゃうとさすがに嫌かな?」
考え始めたのだろうか、幸恵さんの声が聞こえなくなる。
少しして、油井の声が聞こえた。
「また来られると良いな。今度は家族で」
「うん。ありがとう」
僕は自分でイヤホンを外して櫓に渡した。
「あの二人、どうかな?」
「これからだな。あと面白味が無いな」
「男女関係みんながみんな面白いものじゃ無いと思いますよ……」
「お前が言うか」
二人が降りて来たのち、櫓は二人に乗らなかった理由を家訓と説明した。やはり裏切れなかった、と。……今後二人から事ある毎に心配されるようになるだろう。
◇
帰りは行きと同様バスを使った。
「そうだ、私のこと幸恵って呼んでもらえる?」
「ん? お~。あ~」
なんでこっち見た油井。櫓さんも怪しい笑み湛えながら僕を見ないで?
「幸恵さん、でいいかな」
「うん。私も福成《ふくなり》くんでいい?」
「ああ。よろしく、幸恵さん」
◇
こうして、それぞれに解散していった。
最後に、僕と櫓だけになった。
「これで終わりだな」
「ありがとうございました。櫓がいなかったらここまで望み通りにいかなかったよ」
「そう思うなら私の役に立ってもらおうか。明後日から金曜までパンでも買ってこい」
「純粋過ぎて困るほどに恐喝の台詞だよ! いじめなの? それとも舎弟なの?」
「そんなわけ無いだろ。そんなことして何の意味があるんだ?」
真っ直ぐに僕を見て言った。
「ごめん。さすがの櫓でもそこまで酷くないよね」
「私はそこまで君自体に興味が無い」
櫓は前に向き直って言った。
「もっと酷いような……」
「あるとすればこの先君と君の周囲がどう動くかだけだ」
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