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第1章

1-29お礼に

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 結果として、二時間も掛からずに全問解き終えることができた。確か九十~百二十分とされていたけど、僕一人だったらもう少しかかっていたと思う。
 油井も手こずることはあったけど、僕よりも答えを出すのが速く、幸恵さんを手助けすることもあった。それでいて幸恵さんの見方や考え方がそのまま答えになっていることもあった。まさか本当にあの式をマルバツサンカクと読む必要が出るとは。

 目論んだ通り頭の回転の差を見てもらえたし、幸恵さんとも趣味もあっていそうだ。僕はあんなに漬け物の話はできない。なんで漬け物なのかも分からない。

「何か食べようか」
 僕は受付のすぐ近くにあったレストランを見て言った。

「そうだね。丁度食べ物の話してたし」

 幸恵さん、漬け物は無いと思うよ。

「君島が奢るのか」

 櫓さん!? まあ良いか……。二人のためと思えば。

「「それは駄目でしょ」」

 幸恵さんは真顔、油井は笑いながらだったが、二人は同時に異を唱え、見事なまでの揃いように驚いて顔を見合わせていた。

「確かに助かるけど、さすがに申し訳ないからね」

 油井の言葉に幸恵さんも頷いていた。
 ありがとう……! 実際先月から出費が激しくて。誰の所為だろう、僕の所為かな? 隣で何食わぬ顔で奢ることを提案してきた人の所為かな? 僕の所為だね。

「なら私が奢ろう」

 僕は謝りながらもお願いした。安いのにしよう。
 櫓も異論は無いようだった。けどなんでちょっと不満そうなの? 僕が金欠に陥っていくのが見たかったりした? そういえば櫓ってそういう人だったよ。
 幸恵さんも……

「いや、私が出したい」
 真っ向から撥ね返した。……なんで?

「今日、お金があるから!」

「……え?」

「少しは使っておかないと!!」

「そんな年末調整の突貫工事みたいな!?」

「それはあくまでも噂だが、使う予算があったなら使った方が良いのも確かだな。……使い道がここじゃなくても良いのも確かだな」

「どっち?」

「今日は、その」
 そこまでで幸恵さんは一旦言葉に詰まって、
「……みんなのために使わせてほしいな。楽しかったから。お礼に」
 頬を少し赤くしながらそう言った。

 もし最初に、油井と言おうとしていたのだったらありがたい。でも僕の名前を言うつもりだったのかもしれない。もしかして両方だった? 特に会話もしてなかったように思ったけど、櫓のことも考えてくれたのかな。

「それは、私もそうだよ」
 油井もにこやかに言った。

「ありがとう。でも大丈夫だよ、僕が参加費負担した訳じゃないから。それぞれで買おうよ」

 このまま二人で四人分を払う流れになりそうだったけど、そんな二人の負担になりたくないと僕の口を衝いて出た。本当のことを伝えていなくて良かったとすら思っていた。

「僕こそ余ってたもの消費するために利用したようなもので、来てくれた時点で感謝してるから」

「確かにそうだな」

 幸恵さんは「なんで全員分払うことになったんだっけ~」とか言いながら、二人はメニューなり食券機なりに視線を移すのだった。それは明らかに隣で何食わぬ顔で奢ることを提案してきた人の所為だね。

「櫓は?」

 今の今まで何も言わずにいた元凶さんへ、僕は目だけを向けた。

「今回は免じてやるか」

「え?」

 仕方なさそうにそれだけ言って、メニューのある方へ向かっていった。
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