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第1章
1-17償いと悩み
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「目標、か。今までそんなのもってこなかったかもな……」
そんな僕の言葉を聴いて、幸恵さんは顔を俯かせていた。手を前で重ねて、縮こまっていた。
「大丈夫、だよ」
幸恵さんは呟いた。
「奏向くんは」
僕に向けられた顔は、さっきの明るいばかり笑顔とはまた違う、暖かく麗らかなはにかみだった。
僕はこの少しの間に何度反応に困っているのだろう。
でも、今困っているのは僕の都合が大きく関わっていた。
そういえば僕だと思っているんだ、幸恵さんが望みを叶えてくれると思っているのは。
そう思ってくれていることは素直に嬉しい。けど、それと同じぐらい申し訳なく思う。そんな僕は幸恵さんの望みを叶えられないのだから。
僕はいずれの思いも伝えられない。より相応しい人を見つけるしか、僕が償う方法は無かった。
ありがたいことに、僕が何も伝えなくても幸恵さんはそのままくるりと後ろを向いて歩いていった。
だけど、どうやって人の本質を見極めるのだろう?
僕はまた後を追って、階段の手前で追いついた。
「また質問なんだけど、どうやってそういう、前向きとかが分かるの?」
幸恵さんの後ろで見上げながら言った。
「きょうだいとか周りの人とかよく見るからなのかな、見ているだけでもなんとなくどういう人なのか分かるんだよね」
「すごい鑑定眼。上司とかにいてほしいね。幸恵さんが部長で良かったよ」
「えへへ。ありがと」
僕と櫓からしてもありがたい。合わないと分かるのが早ければ早いほど打てる手も多くなるはず。……櫓のおかげで。僕だけだったらただただ時間が無駄になるね。
「そうだ、私からもいいかな」
幸恵さんが階段を上りながら訊く。
「なんでしょう?」
「私が言ったお金のあれ、駄洒落なの?」
やっぱり本気だったか。
「……そうだと思うけど、でも真理を突いてると思うし」
「またやっちゃってたか」
「どうしたの?」
「私ってずれてるよね。ごめんね」
「そんなこと。そこまで気にすることもないと思うけど」
正直気になるときもある。でもそれが幸恵さんの持ち味だと思う。
「ずっと前から自覚してるんだ。道徳の授業とかすごく困ったし。でも、多分直せない」
諦めているかのような響きに驚いた。
直したいのか、受け入れてほしいのか。
僕はどちらでも構わない。
幸恵さんがどうしたいのか分からず、次を待つしかなかった。
でも、幸恵さんは何も言わず、笑顔で僕に振り向いただけだった。
そんな僕の言葉を聴いて、幸恵さんは顔を俯かせていた。手を前で重ねて、縮こまっていた。
「大丈夫、だよ」
幸恵さんは呟いた。
「奏向くんは」
僕に向けられた顔は、さっきの明るいばかり笑顔とはまた違う、暖かく麗らかなはにかみだった。
僕はこの少しの間に何度反応に困っているのだろう。
でも、今困っているのは僕の都合が大きく関わっていた。
そういえば僕だと思っているんだ、幸恵さんが望みを叶えてくれると思っているのは。
そう思ってくれていることは素直に嬉しい。けど、それと同じぐらい申し訳なく思う。そんな僕は幸恵さんの望みを叶えられないのだから。
僕はいずれの思いも伝えられない。より相応しい人を見つけるしか、僕が償う方法は無かった。
ありがたいことに、僕が何も伝えなくても幸恵さんはそのままくるりと後ろを向いて歩いていった。
だけど、どうやって人の本質を見極めるのだろう?
僕はまた後を追って、階段の手前で追いついた。
「また質問なんだけど、どうやってそういう、前向きとかが分かるの?」
幸恵さんの後ろで見上げながら言った。
「きょうだいとか周りの人とかよく見るからなのかな、見ているだけでもなんとなくどういう人なのか分かるんだよね」
「すごい鑑定眼。上司とかにいてほしいね。幸恵さんが部長で良かったよ」
「えへへ。ありがと」
僕と櫓からしてもありがたい。合わないと分かるのが早ければ早いほど打てる手も多くなるはず。……櫓のおかげで。僕だけだったらただただ時間が無駄になるね。
「そうだ、私からもいいかな」
幸恵さんが階段を上りながら訊く。
「なんでしょう?」
「私が言ったお金のあれ、駄洒落なの?」
やっぱり本気だったか。
「……そうだと思うけど、でも真理を突いてると思うし」
「またやっちゃってたか」
「どうしたの?」
「私ってずれてるよね。ごめんね」
「そんなこと。そこまで気にすることもないと思うけど」
正直気になるときもある。でもそれが幸恵さんの持ち味だと思う。
「ずっと前から自覚してるんだ。道徳の授業とかすごく困ったし。でも、多分直せない」
諦めているかのような響きに驚いた。
直したいのか、受け入れてほしいのか。
僕はどちらでも構わない。
幸恵さんがどうしたいのか分からず、次を待つしかなかった。
でも、幸恵さんは何も言わず、笑顔で僕に振り向いただけだった。
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