7 / 281
第1章
1-7反応と疑問
しおりを挟む
櫓の右の口角が上がるのが見えた。何を考えているんだろう……とりあえず謝罪はしておこう。
「櫓の期待していた――」「期待以上じゃないか」
「え? 今なんて」
「私はあのとき面白いことになれと言ったんだ。せいぜい君が二人の間で苦悩し、君なりの決断を下すところが見られると思っていた。まさか君は何もかもが始まる前にどちらも選ばないとは」
櫓はやけに楽しそうだ。喜んでもらえて何よりです。
「それで? どうするんだ?」
積極的になったようで、櫓に顔を近づけられた。目は覚めたかのように少し開いている。どこかいたずらっ子を思い起こさせる。
「櫓の力を借り、いや、買えないかな。僕だけじゃ何も思い付かないし、どうすればいいかも分からない。情報ももちろんだけど櫓の知恵も必要だと思うんだ」
「へぇ。なるほど。丸投げ?」
「結局そうなるかもね……。どうすれば良いか全く分からないから」
「そうだね、都合があう限り私に食事を奢るのはどうかな」
何を言われたか一瞬分からなかったが、もう取引条件の話になったようだ。本当に高揚している様子だ。
「う……毎回一五〇〇円とかはできれば」
「都合があう限りだ。いいかい?」
僕は首を縦に振る。ああ、どうなるんだろう僕の財布……。
今後の大きな心配は見なかったことにして、さっきまであった小さな心配を口に出す。
「良かった、協力してもらえて。面倒だとか言うと思ってたし、そもそも面白がってもらえるなんて思ってなかったから」
「面倒なのは確かだけどな」
「あ……ごめん。やっぱり渦中に入らないようにしつつ、儲かるように誘導するのが理想なんでしょ?」
「概ね合っているな。面白い結果に至って、それが金になるんだったらこれ以上ないと思わないかい?」
「僕に情報屋根性求められましても。でも、それなら今回はなんで?」
「それを訊くか。君は自分だけで行動を起こすつもりは無かったくせに。そうなってもらっちゃつまらないんだよ」
最後の言葉で呆気にとられた。
「期待に沿えるよう頑張ります」
そこまで櫓の興味を引く提案だったんだ。とにかく、草壁と幸恵さんの幸せを願う行動が櫓にとっても得になるなら、奮起あるのみだ。
パイプ椅子特有の軋む音を立てながら、櫓は椅子に深くもたれかかった。
「私からも訊いていいか?」
「どんなことでも」
「本当に二人とも引き離すのでいいのか? 何か理由があるのか?」
やっぱり気になってたか。
確かに、櫓が情報を売り付けるときに言っていた「興味」はある。
他ならぬかけがえのない相手と付き合って、悩みを抱き抱かせるのが醍醐味かもしれない。
けれど――――
「怖いんだ。取り返しがつかなくなっていくことが」
僕は努めて明るく言った。これが異性に対して常に思うことだから。
櫓の右の眉根が上がる。
「もしも君との馬が合わなかったときかい?」
「それだけじゃない。お互い良いと思っていても、もっと良い相手がいるかもしれない。もしかすると一人の方が良いかもしれない。そう考えちゃって」
「そう思った時に別れればいいんじゃないのか」
「そうだよね。でもそれならどうして不倫とかあるんだろうね」
櫓は何も言わずにいた。
「ごめん。いきなり不倫とか距離を取ろうとしている奴が何言ってるんだろうね。とにかく、二人には幸せになってほしいんだ」
「そうか。分かった」
何の感情も表さずに櫓は言った。
「櫓の期待していた――」「期待以上じゃないか」
「え? 今なんて」
「私はあのとき面白いことになれと言ったんだ。せいぜい君が二人の間で苦悩し、君なりの決断を下すところが見られると思っていた。まさか君は何もかもが始まる前にどちらも選ばないとは」
櫓はやけに楽しそうだ。喜んでもらえて何よりです。
「それで? どうするんだ?」
積極的になったようで、櫓に顔を近づけられた。目は覚めたかのように少し開いている。どこかいたずらっ子を思い起こさせる。
「櫓の力を借り、いや、買えないかな。僕だけじゃ何も思い付かないし、どうすればいいかも分からない。情報ももちろんだけど櫓の知恵も必要だと思うんだ」
「へぇ。なるほど。丸投げ?」
「結局そうなるかもね……。どうすれば良いか全く分からないから」
「そうだね、都合があう限り私に食事を奢るのはどうかな」
何を言われたか一瞬分からなかったが、もう取引条件の話になったようだ。本当に高揚している様子だ。
「う……毎回一五〇〇円とかはできれば」
「都合があう限りだ。いいかい?」
僕は首を縦に振る。ああ、どうなるんだろう僕の財布……。
今後の大きな心配は見なかったことにして、さっきまであった小さな心配を口に出す。
「良かった、協力してもらえて。面倒だとか言うと思ってたし、そもそも面白がってもらえるなんて思ってなかったから」
「面倒なのは確かだけどな」
「あ……ごめん。やっぱり渦中に入らないようにしつつ、儲かるように誘導するのが理想なんでしょ?」
「概ね合っているな。面白い結果に至って、それが金になるんだったらこれ以上ないと思わないかい?」
「僕に情報屋根性求められましても。でも、それなら今回はなんで?」
「それを訊くか。君は自分だけで行動を起こすつもりは無かったくせに。そうなってもらっちゃつまらないんだよ」
最後の言葉で呆気にとられた。
「期待に沿えるよう頑張ります」
そこまで櫓の興味を引く提案だったんだ。とにかく、草壁と幸恵さんの幸せを願う行動が櫓にとっても得になるなら、奮起あるのみだ。
パイプ椅子特有の軋む音を立てながら、櫓は椅子に深くもたれかかった。
「私からも訊いていいか?」
「どんなことでも」
「本当に二人とも引き離すのでいいのか? 何か理由があるのか?」
やっぱり気になってたか。
確かに、櫓が情報を売り付けるときに言っていた「興味」はある。
他ならぬかけがえのない相手と付き合って、悩みを抱き抱かせるのが醍醐味かもしれない。
けれど――――
「怖いんだ。取り返しがつかなくなっていくことが」
僕は努めて明るく言った。これが異性に対して常に思うことだから。
櫓の右の眉根が上がる。
「もしも君との馬が合わなかったときかい?」
「それだけじゃない。お互い良いと思っていても、もっと良い相手がいるかもしれない。もしかすると一人の方が良いかもしれない。そう考えちゃって」
「そう思った時に別れればいいんじゃないのか」
「そうだよね。でもそれならどうして不倫とかあるんだろうね」
櫓は何も言わずにいた。
「ごめん。いきなり不倫とか距離を取ろうとしている奴が何言ってるんだろうね。とにかく、二人には幸せになってほしいんだ」
「そうか。分かった」
何の感情も表さずに櫓は言った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる