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第1章
1-6僕の望み ☆
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映像部の活動が無い放課後。僕と櫓は校庭を挟んで校舎の反対、部室棟に向かっていた。
「ここまで来たのは初めてだよ」
櫓から話を聴くときは専ら喫茶店だ。今回は誰にも聞かれないようにと配慮してくれたみたいだ。
「さて、どうかな。先客がいないといいが」
「先客? これからどこに行くつもりなんです?」
「映像部の部室だ」
「映像部に部室? コンピューター室じゃなくて?」
「そんなふうに部員も行ったことが無いようなところだ」
「全く知らなかった」
「男女二人でするにももってこいでね」
砂利を踏む音が良く聞こえた。
「……見たことあるんですね」
「私の隠しカメラもあるからな」
もしかすると櫓が一番映像部やっているかもしれない。
校庭には運動部の溌剌とした声が響く。左はコートでテニス部が、右には少し離れたフィールドでサッカー部、さらにその向こうで野球部が活動していた。
「そんなところなら今こうして二人で向かっているのも、その……厄介ごとになるんじゃ」
「嫌か?」
櫓は笑みを浮かべる。
「いやっ! そんなこと無いっていうかなんていうか! じゃなくて櫓が!」
「言ってみただけだ」
「え?……なんだやめてくださいよ」
こういうからかいはしょっちゅうなので良い加減慣れたいとは思う。けど、その眠たげな目が何もかもを見透かしていそうでいつも取り繕えなくなる。
「まあ、確かに君の今の状況が台無しになるのは避けたいからね。あまり人の目に付かないようにと、わざわざ放課後になって少し経ったこの時間を指定したし、ジャージに着替えてもらうことも要求した」
部活動中なら基本的には部室棟にいる人はおらず、ジャージであれば遠目なら不審に思われないということか。
二階建てで横に長く連なる構造をした部室棟。櫓はその二階の一番奥のドアノブに針金を入れた。
本当だったんだ、こんなふうに鍵開ける方法。というかここを使う人全員この開け方で入るんですか。
「あ、この針金やろうか」
ああ、櫓が手引きしていたのか。
……いやなんで欲しいと思ったの!? 確かにちょっと男心くすぐられたかもしれないけど! 別に欲しいとまでは思ってないです!
「一本五〇〇円だ」
「は、針金一本が?」
本当にいらないという意思が確かになった瞬間であり、櫓は相変わらずだと思った瞬間でもあった。
「映像データの守秘代込みだからな」
納得できるようなできないような……。
部屋には誰もいなかった。それ以上でも以下でもない。そもそも映像部以外は使えず、その映像部すら使っていないはずなのだから。臭いとかも気にしちゃ駄目。うん。
室内は中央で合わせられた長机二つとパイプ椅子が四つ。壁にあった棚には大分前に主流だったテープなどの機材もあったが、何より目立つのは大量に並んでいる空き缶だ。こういった風に飾るのが流行った時代もあったと聞いたことがある。その時代から使われなくなったのだろう。
櫓は隠しカメラのSDカードの中身を確認していた。
「お。なるほど」
「何が……?」
「この組み合わせか。金になりそうだな」
「何か分からないけど惚れ惚れするほど逞しいね」
櫓は椅子に座り、僕も向き合うように腰掛けた。
「それで、どんなことかな?」
「この間櫓から聴いた話なんだけど……」
櫓は何も言わない。言わないが進展を期待しているのではないか。
けど、僕がこれから話すのは真逆のことだ。
「二人の好意を簡単に受け止められないと思ってる」
真逆のことだから驚かれ、酷ければ失望されると思った。
でも実際の櫓は、何の感情も表には出さなかった。ただ頷き、続きを促した。
「だから、僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ。それで、それぞれがそれぞれに幸せになってほしい」
「ここまで来たのは初めてだよ」
櫓から話を聴くときは専ら喫茶店だ。今回は誰にも聞かれないようにと配慮してくれたみたいだ。
「さて、どうかな。先客がいないといいが」
「先客? これからどこに行くつもりなんです?」
「映像部の部室だ」
「映像部に部室? コンピューター室じゃなくて?」
「そんなふうに部員も行ったことが無いようなところだ」
「全く知らなかった」
「男女二人でするにももってこいでね」
砂利を踏む音が良く聞こえた。
「……見たことあるんですね」
「私の隠しカメラもあるからな」
もしかすると櫓が一番映像部やっているかもしれない。
校庭には運動部の溌剌とした声が響く。左はコートでテニス部が、右には少し離れたフィールドでサッカー部、さらにその向こうで野球部が活動していた。
「そんなところなら今こうして二人で向かっているのも、その……厄介ごとになるんじゃ」
「嫌か?」
櫓は笑みを浮かべる。
「いやっ! そんなこと無いっていうかなんていうか! じゃなくて櫓が!」
「言ってみただけだ」
「え?……なんだやめてくださいよ」
こういうからかいはしょっちゅうなので良い加減慣れたいとは思う。けど、その眠たげな目が何もかもを見透かしていそうでいつも取り繕えなくなる。
「まあ、確かに君の今の状況が台無しになるのは避けたいからね。あまり人の目に付かないようにと、わざわざ放課後になって少し経ったこの時間を指定したし、ジャージに着替えてもらうことも要求した」
部活動中なら基本的には部室棟にいる人はおらず、ジャージであれば遠目なら不審に思われないということか。
二階建てで横に長く連なる構造をした部室棟。櫓はその二階の一番奥のドアノブに針金を入れた。
本当だったんだ、こんなふうに鍵開ける方法。というかここを使う人全員この開け方で入るんですか。
「あ、この針金やろうか」
ああ、櫓が手引きしていたのか。
……いやなんで欲しいと思ったの!? 確かにちょっと男心くすぐられたかもしれないけど! 別に欲しいとまでは思ってないです!
「一本五〇〇円だ」
「は、針金一本が?」
本当にいらないという意思が確かになった瞬間であり、櫓は相変わらずだと思った瞬間でもあった。
「映像データの守秘代込みだからな」
納得できるようなできないような……。
部屋には誰もいなかった。それ以上でも以下でもない。そもそも映像部以外は使えず、その映像部すら使っていないはずなのだから。臭いとかも気にしちゃ駄目。うん。
室内は中央で合わせられた長机二つとパイプ椅子が四つ。壁にあった棚には大分前に主流だったテープなどの機材もあったが、何より目立つのは大量に並んでいる空き缶だ。こういった風に飾るのが流行った時代もあったと聞いたことがある。その時代から使われなくなったのだろう。
櫓は隠しカメラのSDカードの中身を確認していた。
「お。なるほど」
「何が……?」
「この組み合わせか。金になりそうだな」
「何か分からないけど惚れ惚れするほど逞しいね」
櫓は椅子に座り、僕も向き合うように腰掛けた。
「それで、どんなことかな?」
「この間櫓から聴いた話なんだけど……」
櫓は何も言わない。言わないが進展を期待しているのではないか。
けど、僕がこれから話すのは真逆のことだ。
「二人の好意を簡単に受け止められないと思ってる」
真逆のことだから驚かれ、酷ければ失望されると思った。
でも実際の櫓は、何の感情も表には出さなかった。ただ頷き、続きを促した。
「だから、僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ。それで、それぞれがそれぞれに幸せになってほしい」
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