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第1章
1-2僕の悩みと女子部長 ☆
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僕は悩んでいる。
「奏向くん!」
目の前の部活動について、ではなく。
部長の声聞くと悩みとかどうでもよくなってくるな~。
「大丈夫? しっかりしてね副部長さん」
気が付くと、首を軽く傾げたその女子に優しく笑いかけられていた。
僕はその言葉と表情に操られるかのように背筋を伸ばした。
この女子、西沖幸恵は同級生で、僕が所属している映像部の部長。
放課後、コンピューター室。部の基本的な活動内容はこの渋山高校の生徒たちの活動を映像に収め、全校生徒に届けること。けど今日は撮影も編集もしていない。
ただ、目の前の下級生が何か言い出そうとして取り下げかけているのが見えた。
「あ……ありがとう幸恵さん。ごめん、分からないところあった?」
今日は最近本格的に活動を開始した新入部員たちへ、動画編集方法について教えていた。当面目指していることは六月にある体育祭の撮影と動画の作成だ。
新入部員は女子三人。仲良しグループといった雰囲気だが、それでもこの人気の無い部活を選ぶのは勇気が必要だっただろう。上級生も幸恵さんと僕のたった二人しかいない。だから二年生でありながら部長と副部長を務めている。
「これでいいですか?」
「うん。大丈夫。確かにここ間違えやすいよね」
「ありがとうございます。……あと、その、私が言うのもなんですが、頑張ってください!」
下級生から激励の言葉を探り探りで言われた。
「あ、ああ、うん」
「頑張る」ということに関してはその通りだったのでそのまま受け入れた。でも多分、何も言っていないが、推し量って、僕が幸恵さんに好意を向けていると思われているのだろう。
「お疲れさまでした」
「お疲れさま」
「またよろしくね」
時間が過ぎ、僕も含めた映像部員たちは口々に挨拶を告げて解散した。
幸恵さんと僕は鍵を返すため職員室に寄り、そのまま途中まで一緒に帰るのが日課だ。日課と言っても今のように暇な時期は週二~三回程度しか部活が無いけど。
隣に並ぶ幸恵さんの胸部が視界に入った。
衣服を内側から突っ張らせ……いやいや。
知り合ってだいぶ経つものの、相変わらずどこを見ていいのか分からない。というか男女問わずいつもどこを見て他人と接しているかも思い出せなくなる。
考えるより話を切り出した方が良さそうだ……。
「今日はどっち行くの?」
「こども園の方。ちょっと待たせちゃうかな」
幸恵さんは時計を確認する。
「急ぐ?」
「大丈夫だよ。最近しっかりしてきたんだよ」
成長を喜ぶ幸恵さん。まるで自分の子のように話すね。兄弟だから当たり前なのか。
「そうなんだ。いつもお疲れさまです」
幸恵さんは下に四人の兄弟がいるそうだ。長女の幸恵さんはこうして兄弟たちの面倒を看ている。
ついでにそのこども園は僕の家の近いから、幸恵さんが偶のお迎えのときはいつもよりは少し長く話していられる。
「今日なにかあった?」
優しい声と少し心配そうな顔で幸恵さんは僕を窺ってきた。
「あー……」
本当の悩みは言えるはずもない。冗談でお茶を濁そうとも思ったけど、それだと余計に心配させそうな気がした。だからもう一つ悩んでいることを話すことにした。
「えっと、他人のための行動が本当にその人のためになっているのかな……と思ってて」
「他人のための行動か……。うーん、どんな状況かはよく分からないけど、やっぱりそれは本人に訊いてみるしかないかもね」
こんな面倒な話をまともに聞き入れて、しかもすぐに答えを出すあたり大家族の長女たる芯の強さを感じる。
「本人かぁ。でも今は良くても今後を考えると悪い結果に繋がるとしたら?」
「それは難しいね……。けど、だからこそ本人と話すしかないんじゃないかな。その上で悪い結果に繋がるって思えたら、その行動を取らない方が良いと思うな」
「そっか。分かった。話そうとしてみるよ」
「あともしもだけど、奏向くんにとってその他人のための行動が嫌なことなら、嫌だっていう理由で止めてもいいと思う。悪い結果は自分のことを含めてもいいんじゃないかな」
そう話す幸恵さんは、心配ともまた少し違う優しい表情で僕を見ていた。
「ありがとう。変な話だったよね。そもそもいつも心配かけてばっかりでごめん」
「ううん」
幸恵さんは首を横に振る。長い黒髪が揺れる。
「気にしないで。それに私の意見だって悪い結果に繋がるかもよ?」
そう話す横顔は、かなり嬉しそうに見えた。
僕はこんなに鋭くないけど、だからそれは勘違いかもしれないけど、言動の端々に感じ取ってしまう。幸恵さんの思いを。
こども園まではまだ距離がある。僕はさっき思いついた冗談を口にした。
「ところで、コーヒーの違いが分からない人ってどう思う?」
「え? そんな人いるの? 苦みとか酸味とか結構違いがあると思うけど」
…………。
幸恵さんは芯が強い。
「奏向くん!」
目の前の部活動について、ではなく。
部長の声聞くと悩みとかどうでもよくなってくるな~。
「大丈夫? しっかりしてね副部長さん」
気が付くと、首を軽く傾げたその女子に優しく笑いかけられていた。
僕はその言葉と表情に操られるかのように背筋を伸ばした。
この女子、西沖幸恵は同級生で、僕が所属している映像部の部長。
放課後、コンピューター室。部の基本的な活動内容はこの渋山高校の生徒たちの活動を映像に収め、全校生徒に届けること。けど今日は撮影も編集もしていない。
ただ、目の前の下級生が何か言い出そうとして取り下げかけているのが見えた。
「あ……ありがとう幸恵さん。ごめん、分からないところあった?」
今日は最近本格的に活動を開始した新入部員たちへ、動画編集方法について教えていた。当面目指していることは六月にある体育祭の撮影と動画の作成だ。
新入部員は女子三人。仲良しグループといった雰囲気だが、それでもこの人気の無い部活を選ぶのは勇気が必要だっただろう。上級生も幸恵さんと僕のたった二人しかいない。だから二年生でありながら部長と副部長を務めている。
「これでいいですか?」
「うん。大丈夫。確かにここ間違えやすいよね」
「ありがとうございます。……あと、その、私が言うのもなんですが、頑張ってください!」
下級生から激励の言葉を探り探りで言われた。
「あ、ああ、うん」
「頑張る」ということに関してはその通りだったのでそのまま受け入れた。でも多分、何も言っていないが、推し量って、僕が幸恵さんに好意を向けていると思われているのだろう。
「お疲れさまでした」
「お疲れさま」
「またよろしくね」
時間が過ぎ、僕も含めた映像部員たちは口々に挨拶を告げて解散した。
幸恵さんと僕は鍵を返すため職員室に寄り、そのまま途中まで一緒に帰るのが日課だ。日課と言っても今のように暇な時期は週二~三回程度しか部活が無いけど。
隣に並ぶ幸恵さんの胸部が視界に入った。
衣服を内側から突っ張らせ……いやいや。
知り合ってだいぶ経つものの、相変わらずどこを見ていいのか分からない。というか男女問わずいつもどこを見て他人と接しているかも思い出せなくなる。
考えるより話を切り出した方が良さそうだ……。
「今日はどっち行くの?」
「こども園の方。ちょっと待たせちゃうかな」
幸恵さんは時計を確認する。
「急ぐ?」
「大丈夫だよ。最近しっかりしてきたんだよ」
成長を喜ぶ幸恵さん。まるで自分の子のように話すね。兄弟だから当たり前なのか。
「そうなんだ。いつもお疲れさまです」
幸恵さんは下に四人の兄弟がいるそうだ。長女の幸恵さんはこうして兄弟たちの面倒を看ている。
ついでにそのこども園は僕の家の近いから、幸恵さんが偶のお迎えのときはいつもよりは少し長く話していられる。
「今日なにかあった?」
優しい声と少し心配そうな顔で幸恵さんは僕を窺ってきた。
「あー……」
本当の悩みは言えるはずもない。冗談でお茶を濁そうとも思ったけど、それだと余計に心配させそうな気がした。だからもう一つ悩んでいることを話すことにした。
「えっと、他人のための行動が本当にその人のためになっているのかな……と思ってて」
「他人のための行動か……。うーん、どんな状況かはよく分からないけど、やっぱりそれは本人に訊いてみるしかないかもね」
こんな面倒な話をまともに聞き入れて、しかもすぐに答えを出すあたり大家族の長女たる芯の強さを感じる。
「本人かぁ。でも今は良くても今後を考えると悪い結果に繋がるとしたら?」
「それは難しいね……。けど、だからこそ本人と話すしかないんじゃないかな。その上で悪い結果に繋がるって思えたら、その行動を取らない方が良いと思うな」
「そっか。分かった。話そうとしてみるよ」
「あともしもだけど、奏向くんにとってその他人のための行動が嫌なことなら、嫌だっていう理由で止めてもいいと思う。悪い結果は自分のことを含めてもいいんじゃないかな」
そう話す幸恵さんは、心配ともまた少し違う優しい表情で僕を見ていた。
「ありがとう。変な話だったよね。そもそもいつも心配かけてばっかりでごめん」
「ううん」
幸恵さんは首を横に振る。長い黒髪が揺れる。
「気にしないで。それに私の意見だって悪い結果に繋がるかもよ?」
そう話す横顔は、かなり嬉しそうに見えた。
僕はこんなに鋭くないけど、だからそれは勘違いかもしれないけど、言動の端々に感じ取ってしまう。幸恵さんの思いを。
こども園まではまだ距離がある。僕はさっき思いついた冗談を口にした。
「ところで、コーヒーの違いが分からない人ってどう思う?」
「え? そんな人いるの? 苦みとか酸味とか結構違いがあると思うけど」
…………。
幸恵さんは芯が強い。
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