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ベクトル王国編

12 魔法

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「すみません……か、皮むき…終わりまーー」


「ーーこんノロマッ!!遅いんだよ!今何時だと思ってんだい!!!!」


厨房へ入った途端に分厚い掌に殴られる。
その衝撃で壁へ背中をぶつけ、頬と背中をはじめとした節々の痛みに眉を顰めた。

厨房長であるふくよかな中年女性が、ユラにバケツからこんもり溢れる大量の芋の皮剥きを命じたのは朝7時だ。
遅くなってしまわないように、一生懸命皮剥きに集中し、1時間程度で終わらせて急いで戻ってきたし、ユラ的には早く終わらせられた気がしたのだが……どうやら目の前の厨房長には、遅かったらしい。


「も、申し訳ございません」


頭を下げるユラを鋭い目付きで睨む使用人達。
オメガであるユラに手を挙げる人物は限られているものの、睨みつける者や罵倒する者、居ないものと扱う者など、使用人によって態度はそれぞれであった。

だがそれでもひとつ確かなものは、ユラはこの城で……このベクトル王国では忌み嫌われ、不要な人物だという事だ。


「おい!!早く罪人の飯持っていきな!!!汚いお前見てると気分悪くなるんだよ!!!!ほらさっさと消えな!!!」


しっしと手を動かし、額に皺を寄せユラを睨みつける厨房長に急かされて、ユラは痛む身体を我慢しながらヨルファスの食事を手に厨房を後にしたのだった。






✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼




「……ユラ、包帯はどうした」


「ぁ……」


罪人であるヨルファスの牢屋へやへと行くと直ぐにヨルファスに抱き上げられ、ユラは当たり前のようにヨルファスの膝へと抱きかかえられる。

ヨルファスの黒の瞳がユラの足へと移動した時、綺麗な唇が動かされ、ビクリと肩を動かしたユラは、身体を小さく縮ませた。


「あ、そ…その……ごめんなさい……。
折角綺麗に巻いてくれたのに……僕のせいで…と、とられて……」

眉を下げ、ギュッとズボンを握りしめると、そこへ大きな手が重ねられた。


「悪くない」

「……え」

「ユラは何も悪くない」


見上げると、ヨルファスは無表情だった顔を少しだけ苦しそうに歪めながらユラを見つめていた。
何故そんなにも悲しそうな……苦しそうな顔をするのだろうか。
ヨルファスの事が何一つ分からない。

なぜ1人だけここに閉じ込められているのか、本当に罪人なのか、何故こんなにも優しいのか……ユラには何も分からなかった。


「ここ、赤くなってる」

「ひゃ……」


するりと頬を撫でられる。
赤くなっているのは先程厨房長に叩かれたせいだ。


「少し…腫れてる」

「だ、大丈夫です……それよりも朝食を……」


誤魔化し半分、早くしなければ朝食が冷めてしまうと思い、ヨルファスの膝から降りようと身体を動かす。しかしそれは、ヨルファスの腕によって軽々と阻止されてしまい、ユラは強い力で抱きしめられた。


「ぇ!?……る、ルーファ」

「ほら…見せろ」


ヨルファスはユラの腫れた頬に手を添える。
骨張った大きな手はとても綺麗で、そして男性の手だった。
ユラも男なのに、ヨルファスの手とは似ても似つかないほど白くて、小さくて、汚れていた。


「じっとしてろ」


ヨルファスの無機質な声とともに、頬に添えられた手が淡く白い光を放った。
それと同時に頬にヒンヤリと冷たさが伝わる。
思いもよらない感覚にピクリと反応するユラを、ヨルファスはくすりと静かに笑った。


「……これで少しは痛みが引いたか?」


「あ、は、はい!……ぁの…い、今のって……」


「あぁ、魔法か?」


「ま、まほう?」


首を傾げるユラに、ヨルファスは少しだけ教えてくれた。

魔法は、精霊達の力を借りて使うことの出来る能力だと。
魔法が使える人は少なく、その中でもアルファに適正がある事が多いこと。
今回ヨルファスが使ったのは氷魔法で、水魔法と風魔法の応用でつくられる上級魔法だと言うこと。

無知なユラにもヨルファスは優しく丁寧に教えてくれた。
それがユラは嬉しかったのだ。
新しい事を教えてもらえるのは、狭い世界で暮らしてきたユラにとって、新しい世界を見ることが出来る唯一のものだから。



(まほう……魔法か……。そういえば、フウやスイたちの使ってた力もルーファが使った魔法と似てたなぁ……)


「へへ、やっぱりすごいなぁ……」


「ん?なんだ?」


「あ!いえ、なんでもないです」


ユラは口元を押さえ、意図せず出てしまった言葉に反応したヨルファスに首を振った。








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