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ベクトル王国編
11 友達たちの怒り
しおりを挟む「……っぁ…!!」
ヨルファスが傷の手当と靴の代わりにと巻いてくれた包帯は、今や執事見習いの靴の下でぐちゃぐちゃになっている。
折角自身のためにヨルファスが巻いてくれた包帯を奪い取られ、ユラはこれまで以上の痛みと悲しみを胸に感じた。
「ゴミカスが調子乗んな」
「次またこんなもん巻いてたら、お前もお前に干渉したやつも顔がぶくぶくに腫れるまでぶん殴ってやるからな」
そう吐き捨てて、執事見習いの2人は笑いながらユラに背を向け歩き出す。
ツンと鼻が痛む。
目頭が熱くなるけど、ユラは全力で首を振り悲しい気持ちを振り払った。
辛くなっちゃダメだ、悲しくなっちゃ……泣いちゃダメだ。
何度も何度も胸の中で呟き、裸足の足で立ち上がったその時だった。
『ゆるさない』
『ユラにひどいことした』
『もうがまんできない』
『ゼオたちのユラを』
『ーーいじ、めるな』
友達を見ると、身体からそれぞれの色のモヤを放出していた。
フウはシアン色の、リョクは緑色の、スイは青色の、ゼオは赤色の、アースは茶色のモヤをそれぞれ湯気のように身体から放ち小さな身体を震わせていた。
「ーーっ!み、みんな…落ち着いて」
何度か経験のあるその光景に、ユラは慌てて友達たちに声を掛ける。
だがその行動も、既に怒りを顕にしている友達たちには届かず、次の瞬間歩き去って行った執事見習いの大きな呻き声が聞こえたのだ。
「ぎぃやぁあ!!熱っ!!あついぃ!」
「ああっ!!痛い痛いっ!!!」
執事見習い2人へと視線を向けると、髪の毛の一部が燃え、頬や腕には切り傷が出来ていた。
「ぅわっ!ぶっ……っ!!」
突然、空からは大量の水が降り、2人はバケツの水を頭からかけられたような姿になる。
「あぁ!なんだ、なんだこれぇ!!!」
「幽霊だ……絶対幽霊だぁ!!!!」
うわぁぁと叫びながら逃げる2人の足元に瞬間、平らな地面に棘のある蔓と土ぼこができ、物凄い勢いで躓くと、頭から地面へ突っ伏したのだ。
「ぐぅ……い、痛っ……」
「あ、あぁ……あああぁぁ!!!!」
恐怖に顔面を真っ青にした2人は、痛む身体を押えながら、全力で庭園を出ていった。
「あ……」
ユラはその光景をただ呆然と見ていることしか出来なくて、先程包帯を無理やり取られて沈んでいた気持ちは、友達たちの突然の行動に驚き、何処かへと消え去ってしまったのだった。
『ユラぁ!』
『あたしたちがぁやっつけたぁ!』
『あははっ!うわぁぁだってぇ~』
『ゼオたちがぁ、ユラまもるぅ!』
『(……コクコク)』
4人の友達が満足気にそう声を上げ、口数の少ないモグラのアースはそんな4人の言葉に、同じく満足気にコクコクと頷いていた。
「みんな……」
『ユラぁ~げんきでたぁ?』
フウがユラの周りをふわふわと飛ぶ。
他の友達も同じ様にユラの周りに集まり、ユラを見つめていた。
……いつもそうだ。
この子達は、ユラがオメガだと分かっても変わらず優しさを与えてくれた。
ずっと一緒にいてくれた。
時々思い切った行動に出てユラを驚かせる事はあるものの、それはいつもユラの為だった。
ふっとユラは眉を下げて笑った。
「ありがとう皆。僕を助けてくれたんだね」
『もちろんだぜぇ!』
『ぼくたちがぁユラまもるぅ!』
ゼオとリョクが嬉しそうに身体をユラの頬に擦り付ける。
フウとスイも同じ様にユラの頬に擦り寄り、アースはユラの足元に擦り寄った。
ユラは地面にしゃがみ、アースの頭を撫でると、ぼくもわたしもと他の友達たちが次々と明るい声を上げたのだ。
「皆、助けてくれてありがとう。でもね、その……僕の為に誰かを傷付けるのはやめて欲しいな」
『?どぉして?』
『あいつらユラのことぉいじめてるぅ!』
『ぼくユラかなしいのぉいやぁ!』
『ゼオもゆるさないぃ!』
『(……コクコク)』
友達たちがユラの言葉に不満をもらす。
ユラは不快にさせてしまったと焦るが、これはこれからも大好きな皆と一緒にいるために言わなければいけない事だと思った。
「ぼ、僕は皆が大好きなんだ。こんな僕とずっと一緒にいてくれて……本当に嬉しい。だ、だから…ね、僕は…僕のために、皆が持つ神秘的な能力で人を傷付けるような子になってほしく…ないんだ。僕、もっと強くなるから…お願い、こんなにも綺麗なその力を…誰かを傷付ける事に……悲しみが生まれる事に使わないで……」
これは全て自身のせいだとユラは思った。
ユラがもっと強ければ。
もっと仕事をそつ無くこなせていれば。
オメガじゃなければ。
優しいこの子達に、仕返しという汚い事をさせなくて済んだのに……。
それと同時にユラは不安だった。
折角守ってもらったのに、こんな自分勝手な事を言ってしまって……もしもユラのそばを皆が離れてしまったらと。
だが、友達たちの力が異常に強い事は無知のユラでも分かっていた。
誰にも認識出来ず、ユラにしか姿を見せない友達たちはずっとユラだけを見守ってくれて、話し相手になってくれる唯一の友達だ。
だから、ユラが自身の声で伝えなければきっと、この先大好きな友達たちは、ユラに何かあった度に能力を使ってしまう恐れがあった。
だからこれは、例え嫌われたとしても絶対に伝えなければいけない事だと、ユラは勇気をだして口にしたのだ。
ギュッと目を瞑り、肩が強ばる。
『う~ん、わかったぁ』
『ユラがそういうならぁ』
『はぁ~い!』
『ユラにきらわれたくねぇもん』
『(……コクコクコクコク!)』
「ぁ……み、みんな……ありがとう!」
優しい友達たちを見つめ、ユラは目の縁に涙を浮かべる。
『ユラぁ!な、なんでないてるぅ!?』
『どこかぁいたい?』
涙をこぼすユラを心配して、今度は友達たちが焦った声を出し、ユラの表情を見つめた。
「ううん、嬉しいの。僕は皆が居てくれれば幸せだよ……いつもありがとう」
『ぼくもぉ~!』
『あたしもしあわせぇ~』
『ユラだぁいすき~!!』
『ゼオも!ゼオもぉすき!』
『ぼ、ぼく…もぉ…すき…』
ちゅっと友達達がユラの頬にキスをする。
それがとても嬉しくて、ユラは頬を染め笑った。
そして大好きな友達たちに、ユラもキスを返したのだった。
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