予約がとれない男娼

枝浬菰文庫

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目覚まし時計が僕の睡眠時間を削った。

「んあぁー」と起き上がろうとしたがズキン!!? と悲鳴をあげた腰。

昨日……いや今日の夜中だけど、分かりづらいから昨日にしておこう。
いつも通りのはずなのに昨日の客はなかなかに激しかった。

「ふぅー」と一息ついていると

「おい朝だぞ」
と声をかけてきた部屋付きの専業主夫。
何部屋も兼任していて世話係と洗濯、食事などの管理をしてくれる。

蒼真そうまさん、おはようございます」
ワイシャツにエプロン姿ってどうなのかって思うけど生活は助かっている。
多分後処理も蒼真さんがやってくれてるんだと思う。

黒服に飼われてるから僕もあまり拒否すると怖いし……。
言うこと聞きたいんだけど今日は特にやばい。

「蒼真さん起き上がれない」
「……痛み止めでも飲んどけ」
……そういうことでもない。


「今日1限からだろ?」
「あ、はいそうでした」
ベッドの上に投げられた服に着替える。

よいしょよいしょっと着替えテーブルに向かいたいのだがやはり足腰が死んでる。
というか着替えるときに見た自分のあそこ……。
まだ赤黒くなってたし、それにパンツと擦れて痛い。

「早くしろ、お前だけじゃないんだぞ」
「そうですよね」

「それとも大学休みにして客と戯れるか??」

「いえいえ、大丈夫です」
ぶんぶんと首を振って杖でなんとか椅子にこしかけられた。

椅子も所謂ドーナツ型をしたあれだ。
親切で優しいのか……それとも怖いのか分からない。

「じゃぁ10分後戻ってくるからゆっくり食べておけよ」
「はーい」


蒼真さんが部屋から出た。
共有スペースに繋がっているドアから僕にはそこを通る資格がない。
特殊なカードキーがないかぎり。

10分後というのは隣の部屋で寝ている僕みたいな子を起こしに行くのだろう。

蒼真さんの仕事なんだろうけど、大変だなぁーなんて思いながらヨーグルトを食べた。
今日はいちごのソースがかかっていた。


正直なところ暮らしは特に不自由もなく過ごせている、しかも本業である大学には通わせてくれている。
大学終わって21時から25時の間、夜中のアルバイトをする。
これが毎日。

21時までは自由時間だからなにをしてても怒られないけど逃げ出したり21時以降に帰ったりすると大目玉くらう。
客を待たせるなと……。

規約違反で100万借金に+されるの本当に最低なシステムだと思う。


たしか隣の部屋の子が逃げ出し5回くらいして組織に連れ戻されて500万くらい+にされたらしい。
噂だけど。

逃げれば、額もだし連れ戻されることを確定で分かっていれば僕はこのまま大学生をしながらあの人の返済できればいいかなと考えている。

もちろん痛いのとかは嫌だけど、普通に働いていて返せる額でもないから。


「おう、食べ終わったか?」
「はい」

戻ってきた蒼真さんはエプロンを脱ぎ捨てていた。
「どうしたんですか?」

「あ? お前には関係ないよ」
ですよねー。

でもたまーに教えてくれるから聞いてみた。
まぁ多分だけど隣の子また逃げ出したんだと思う。
本当に懲りないな。

「今ロック外すから」
「ふぁあい」
欠伸をしながら外に出るドアのロックを解除した。

蒼真さんはなにも言わずに見送り扉を閉めた。

少し竹藪を抜けると神社に出て駅に向かった。


僕が住んでいるのは都内の竹藪に囲まれた古いけど最新な洋館。
僕が今出たドアは専用のカードがないと入れないし、出るときは黒服が鍵を解除しないと出られない。

表口は車道に通じていてそこから客が入ってくる。
闇の4時間は毎日訪れる。金額は均一で決められていて客層はわりかしいい方ではあるが昨日みたいな悪ガキと出会ってしまうこともある。

そしてそれを管理しているのが黒服と呼ばれている連中と洋館のオーナー。
オーナーって呼ばれてるけど多分黒服たちのボスだと思う。

入りたての頃に一度体を重ねたことがあるが目隠しされた上に口枷をつけられなにもできなかった。

だから知ってるのは世話係の蒼真さんと僕をあの雨の日に連れ去った志郎しろうさん
終わることのない返済額とこの暮らしはいつまで続くのか。

それとも迎えにきてくれるのか優一ゆういちは……。
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