3 / 30
2/9開催!〈文学フリマ広島7〉試し読み
第2作品「パン屋対決!!」
しおりを挟む❁あらすじ
並木通り商店街に構える二つのパン屋があった。そこの長男坊は赤ちゃんの頃から一緒でさらには製菓専門学校まで一緒のとても仲が良い幼馴染みがいた。
とある事件までは……そのとある事件というのは広島民が愛してやまないカープの応援でパンの販売数を対決したことが始まりだった。
❁登場人物
・玖村暖(くむらだん)
・番匠谷太一(ばんしょうやたいち)
・甲本(こうもと)
・母父
・買い物客
❁パン屋名
・いつでも玖村さん(玖村)
・Copán(番匠谷)
・いらっしゃいなぁ~(甲本)
❁商店街
・並木通り商店街
❁試し読み 10ページ
誰もが知っている街で今日も一際賑やかな声が聞こえてきた。
「おはよー」と大きな声で挨拶し
「おはよ」と静かに挨拶をする。
向かいあったパン屋の朝は早い。
看板を出す時間は六時五十分頃、七時開店になる。
そんな朝の商店街で玖村暖と番匠谷太一は挨拶から始まる。
生まれも育ちも変わらない二人にとってこの商店街は想い出が溢れる場所だ。
「あらー暖ちゃん、朝から元気ね、おはよう」常連の佐久間さんがきた。
「おはようございます、今日もほかほかのパンできあがってるのでぜひうちにお入りください!」
「あらまぁ暖ちゃんに誘われたら今日は玖村さんとこで選ぼうかしら」
仕事に向かう人で商店街は溢れかえっていた。やはりなんと言ってもこの良い香り「すーっ」と吸い込めばパンの匂いがたまらん。
「おい、暖レジ係だろ」
「ほーい」
「暖、後で」そう声をかけてきたのは向かいの【Copán(コパン)】俺と同じ長男の太一だ。それにしてもなんともしゃれた店名だ。うちの店とは大違いだ。
レジに急ぎ七時までのパートのおばちゃんと交代した。
「はい、いつもありがとうございます!!」
八時からは朝食メニューとしてカフェもオープンする。
母はそちらの準備をしていた。
父はパン職人。
母はケーキ職人で俺はどちらも対応できるように専門学校で二つマスターした。
隣の番匠谷家も似たような感じでお客さんとしては向かい合わせのパン屋どちらに入ろうかよく迷っている。
最近米粉を使ったパンやヘルシーさを求めライ麦などを使ったパンも取り揃えているからうちの店のほうが賑わっていた。
「暖、これ焼きたて、レジの合間に頼んだ~」
「ほーい」
父の背中を見て育った俺は父が作る焼きたてのパンが大好きだ。
小さい頃は味見と言いつつつまみ食いをしたら怒られてしまった。
これはきっと誰もが通る道だ。仕方ねぇ。
焼きたての塩パン……うまそう~~。
「あら、暖くんそれ焼きたて?」
「はい、お一ついかがですか?」
「ぜひ頂くわ」と焼きたてはすぐに完売してしまう。
焼きたてコーナーを作ってみたはいいが出したら朝は一瞬で無くなるから逆にレジ近くに置いておいたほうが俺も楽だなぁ~なんて考えてしまう。
それに会話も弾むし。
と四十五分だ。
朝は早く時計が進む気がした。
「暖~、今日はお待ちのお客さん多いから少し早く開けるわね」
「あー了解」
母からのカフェ開店の声がかかりレジを少し変えた。
今は八%と十%で変更しないといけなくなってしまった時代。
少しレジがめんどくさい。
特に古いのを使っているから。
新しくする話もあったのにまさかの父が機械音痴で昔からのを使えるならそれでいいとの一点張りで今も手打ちだ。
だからパンの種類が増えると俺もたまに忘れてしまうことがある。
「カフェ開店します~」の声で一斉に雪崩れ込んできた。
仕事行く前のパン屋で朝食いいよね、分かるわ~なんて呑気なことを考えてしまう。
特にうちの店では朝食メニューを取り揃えていて焼きたてパンを一つとコーヒーサラダセットというのを用意した。これでなんと四百円。
安いよな。
焼きたてパンを運びつつレジしつつなんとか九時まで頑張った。
少しお客さんも落ち着いてきたのでレジ係をパートさんに任せ俺は表通りの掃除へと出た。十時になったら父と交代して窯の面倒を見る。
それと偵察~。
今日のCopánはどうだろうか?
太一真顔で頑張ってるな。
お客さんはうちのほうが多いな!
よっし!
別に対決もしていないが俺は太一に手を振ってみた。
カフェでウェイトレス姿の太一はこちらを向き首で合図された。
「うーん相変わらずの無愛想」
「こんら、お前はちゃんと掃除しろ!」ゲンコツをくらう。
「あいて」父に見つかってしまった。
ピーピーとブザーが鳴る。
「俺は先に休憩入るから、窯よろしくな」
「うぃーっす」
まだ十時にはなっていないが父は休憩に入るようなので厨房へと向かった。
「あら~暖ちゃん焼きたてなーい?」
「焼きたてっすか、ちょっとお待ちください」
窯の蓋を開けるともわぁんとした空気に当てられその後に良い香りが厨房に充満する。
「あー食パンなら焼きたてありますけど、他はあんパンがあと三分後くらいですね」
「それならあんパン二つ」
「かしこまりました~」
焼きたてのあんパンって扱いがむずくて嫌いだ。
でもほかほかのあんこは火傷覚悟で頬張れば、まじ美味しいんだよなぁ~。
って三分の間に食パンの面倒を見なければ机に叩きつけて食パンを型から出し網棚の上にのせる。
型も熱いし俺なんか百六十五センチだから窯の一番上が見えないしもう、大変よ。
その上太一は十センチも背が高くて女子にはモテるし、ファンはいるしで本当にそこだけは悔しい。
悔しいけど太一は大事な友達だ!
「おばちゃん、あんパン二つお待ち~お会計終わってるの?」
「うん、先に支払っておいたわ」
「じゃぁ包んでくるね」
「あ、一個はここで食べてもいい?」
「んじゃぁ母さんには秘密ね、後火傷気を付けてね」
「ありがと」おばあちゃんと別れ母に見つからずに窯に戻った。
クロワッサンを成形してホイロに入れてタイマーセットと
「って洗い物…めっちゃ溜まってるし、てかあいつらは来ないのかよ」
あいつらというのは俺の弟と妹だ。
俺が二十五で弟が二十三、妹が二十。
こう続いていると母も子育てが大変だったと言っていた。
今は二月で大学は休みだ。
だから寝坊していなければ今日は弟が手伝いに来るはずなんだけど……。
こりゃ寝坊か。
洗い物を少し残しつつホイロを見た。
今日の残りは、食パンとカレーパンと明太子フランスと塩パンとレーズンパンだな。
基本的に閉店は十六時だ。
朝が早いって言うのもあるし、うち以外にもパン屋は開いてるからそういう設定なんだって。
ちなみに向かいのCopánも同じ時間だ。
だから俺は仕事が終われば太一と買い物しに出かける。
ほぼ遊びだけどでも太一と長くいる時のほうが多い。
逆に太一が隣にいないとなんかこうざわざわしてくるんだよな。
なんだろうなぁ。
ピーピーとブザーが鳴りコーンパンが焼き上がった。
レジ係にパートさんしかいないので陳列棚に並べていく。
「あら、私が好きなの焼きたてじゃない」
「何個ですか?」
「あーずるい聞き方する、じゃぁ三個で」
「ありがとうございます」トレイに乗せ、他のパンを並べた。
朝から昼過ぎまでは混むのでパートさんを雇っているが十四時以降はカフェを利用する人も増えるので家族だけで運営する。
妹がカフェを継ぐとかなんとか言ってるみたい。弟は普通の仕事をしたいと言っていた。
それも良いと思うぞ!!
十一時頃に父と弟がやっときたので弟に洗い物を任せ俺は母さんと交代しにカフェに向かった。
「お疲れ~」
「お疲れ様、私休憩行っても平気?」
「うん、交代するよ」
「ありがとう注文受けてるのは一枚だけ」
「了解」
母さんはパン屋へと向かっていった。
「さてとサンドイッチとホットコーヒーだな」用意してお客さんの元へと向かうがそこにいたのは
「太一!! お前なんで」他にもお客さんはいるというのに俺はついつい太一の顔を見ると声をあげてしまった。
「ん? 今日はこっちで食べようと思って、後元気にやってるか顔見に来た」
「……そりゃーどうも」
「まぁ元気な声でなにより……いただきます」
「相変わらず太ちゃんと暖ちゃんは仲良しねぇ~」
「あはは、腐れ縁ですよ」
「まぁでも仲良しなんて幸せなことなのよ、大切にしなさい」
「はーい、ありがとうございます」
続きは文学フリマ広島7にて!
❁他
youtube
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説




【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる