上 下
2 / 21
1/19開催!〈文学フリマ京都9〉試し読み

第2作品「最後の旦那さん」

しおりを挟む





❁あらすじ
 最愛の人を亡くした私にとってこの世界はとても広く悲しいものだった。綾瀬大学で非常勤講師につき心の温かい生徒と先生方。私の周りには心の温かい人達が大勢いる。
 そして「終活」をしに旅に出たそこで出会った一人の青年に私は想いを伝える。

❁登場人物
西島 虎徹にしじまこてつ
・○○先生(最愛の人)
鍬形 温くわがたあつし

綾瀬大学
花咲はなさき理事長
・岩崎先生

青春十八きっぷ
伊香保温泉、水上温泉、土合駅、湯沢温泉、ヒスイ海岸



❁試し読み 10ページ
 世界は広い、どこまでも……どこまでも続いている。
 ガタンゴトンと電車が橋を渡り夕日が落ちていく。

 それはまるで空を赤く染め刻々と夜の世界へと移り変わるように。
 そして私の命ももう尽きてしまう。

「先生、帰りますよ」
 そう言う彼は私の教え子兼恋人だ。

 年は二十と離れていてこんな老いぼれのことなど放っておけばよいのに、彼は私の所に居座る。

「もう少し、夕日が沈むまで」
 川辺にいたもんだから心配して来てくれたのかもしれない。
 彼こと西島虎徹にしじまこてつは二十を迎えた時にはそれはもう別嬪で私は手を出してしまった。
 それでも彼は私のところに通ってくれた、そして告白も虎徹からだった。
 懐かしい思い出だ。

「まったく春とは言えまだ寒いんですから、風邪を引かないようにしないと」
「うむむ、そうだね」

 夕焼けに桜、そして海へと続く川はとてもゆっくりと流れていた。
 そして虎徹の姿を私はどこまでも見ているよ。


 数年後、先生は亡くなった。

 悲しみはある。
 もう少し傍にいてあげたかった。

 先生に出会ったのは大学生の頃、ゼミ室の先生で柔らかい言葉使いが好きだった。

 当時の私は消えてなくなりたいと思っていたからだ。

 先生から投げかけられる言葉は全てメモしている。

 これはもちろん秘密だ。


 入院してから最後の一年は先生からもらった言葉を声に出していた。
 それでも最愛な人はもう届かない場所へと向かってしまった。
 今日もガタゴトと揺れる電車に乗り、会社へと向かう。

 私は五十になった。
 そう思うと先生は早くお亡くなりになった。
「先生……」

 電車内で一人呟いてしまう。
 窓ガラスに思わず手をついた。
 そして窓から一瞬見えた言葉があった。
【終活】そう書かれていた。
 終活かぁ、考えることは早いかもしれない、それでもスマホを開き検索した。
 終活……。
 ・エンディングノートを作る
 ・資産を見直す
 ・遺言書を作る
 ・不用品を片付ける
 ・断捨離をする
 ・葬儀の準備・予約をする
 ・お墓の準備・希望をまとめる
 ・人間関係を整理する
 と検索結果には出てきた。
 まだ早いような……気もするが。
 調べてノートにしておくだけで何か違うのだろう。
 それに先生の葬儀は参加をお断りされてしまった。
 男同士の恋人は受け入れられない。それは分かっていた。
 しかしあからさまに嫌がられるとこちらとしても胸が痛い。

 病室には通えたが正式な家族ではない私は先生の呼吸が静まるまで見守っていたその後は出て行けと言われた。
 先生の身の回りのことは全てした。
 それでも本当の家族ではない私はいらないと言われているようで切なくなってしまった。

 それでも先生のお墓参りには週一で通っている。
 先生の弟さんが秘密ねといい教えてくれた。

 きっと他の方に見つかれば怒られてしまうかもしれない。
「先生!! 聞いてますか?」
「ああ、すまない、質問はなんだったかな」

 綾瀬大学 経済学部に在籍している。
 この学校は全てにおいて理解がある理事長が取り仕切っているのでとても先生として働きやすい。こういう目的で社会科見学をしたいと手を挙げたら、すぐに返答を頂き。

「とても良いと思います、最後にレポート発表があるとさらに良いですね」と言ってくれる。

 私よりも遥かに年が若いのに考えていることは前向きで他の先生や生徒からも好かれているそんな理事長は今までに見たことがなかった。

 それに彼は他高校の理事長も務めていて、ごくまれに手をテーピングしている時があった。私はそれを見る度にあたふたとしてしまう。
「ちゃんとお休みください」と声をかけ「お気遣いありがとうございます」と返事が返ってくる。

 なんていい子なんだ、と思うのはきっと年下だからなのかもしれない。

 そして彼は決して飲み会には参加しない。
 他ちらほらそういう先生を見かける。
 きっと何か他の仕事をしているのだろう。
 そう思うしかなかった。


 私は非常勤講師として働いているから先生みたいなゼミ室はない。
 一階にある総合窓口の隣に各部屋を設けており早い者勝ちにはなるが個室でのんびりとできる。
 そこに質問に来る生徒がいる。
 皆賢く一度伝えれば自分で考え答えを導きだし、さらには未来に向けての解決策も言ってくるのだ。
 本当に綾瀬大学の生徒は素晴らしい。

 ということで私もそれなりに頑張らないといけない。
 生徒に負けないように日々新しい発見とともに先生に習った言葉を添えて講義をしている。

 授業で終活を取り上げてみようかな。
 若い子たちはどのように思うのか。
 そもそも彼らはまず就活こちらのほうが優先的かな。

「えーでは今日は【終活】について話し合ってみましょう」
 ホワイトボードに漢字を書くと思わずツッコミが入った。

「そっちかぁ」笑いが飛び交う。
「みんなからしてみれば就活のほうが大事だよね、三年生だからもう終わったかな?」

「いえ、自分はまだです」

「私は終わりました~」

 など会話が飛び交う講義作りをしているため返事が返ってきた。

「先生、着目点はなんですか?」
「それは私についてかなぁ~」また笑いが起こった。


「先生の終活、みんなで決めましょう! 絶対そのほうが楽しいよ」
 となんともな意見をもらい。

「ありがとう、みんな優しくして先生泣いちゃうよ」
「先生のためなら!」
 調べ物は基本的には持参しているノートパソコンだ。一人で探していたりグループになっていたりと思うままに調べ物をしていた。

「先生が好きなものはなんですか?」
「そうだな、旅かな」
「一人旅ですか?」
「そうだね今は一人かな」
 思わず遠く空を見つめてしまう。 

 それを見ていたのか生徒たちは
「先生! なら先生の一番楽しむべき終活は旅行にしましょう!!」
 と決まった。
 だが旅行……は休み取れるかな、それとお金と……。

「旅行? いいですね、少し気分がてら行ってきてはいかがですか?」
 相談した相手は理事長とよくいる岩崎という男教師だった。

 この人もとても賢く頭の回転が速い。

 多分四十手前くらい。
「それでその……授業を休むと生徒たちにも迷惑がかかると思い夏休み中に計画を立てたいのですが」
「あ! なら代わりの先生にお願いしておきますよ、それと西島先生は有給まだ残っていますよね?」
「え、非常勤講師なのに有給があるのですか?」

 思わず聞き返してしまった。
 いやこれは重要だ。
 知らなかったし、教えて頂いてもない。
「実は今日から作っちゃいました」さらりとそう言ってしまった岩崎先生はさすがに驚きを隠せない。

「あ、問題ないですよ、理事長には私から伝えておきますし、なにより先生のリフレッシュが大切なので! 多分代わりは理事長がやってくれます」

「ええ!! ですが理事長は普段からお忙しいですよね?」
「まぁ、はいお忙しい身ではあるのですがつい先日、生徒の抜き打ちテストでもするかレベルが下がっているしと仰っていたので快く受け入れてくれると思います!」

「レ……レベルが下がっているとは思えませんが……それにそうならば私たち教師の責任です」
「西島先生はお優しいですね、理事長は最高レベルの生徒を世に出すことを目的としてます」
「それはなんとも恐ろしい考えですね」

「ええ」

「もし、悪人になれば情報網は過激的ではないですか?」
「そうですね、でもまぁご安心してください、我々にはバックがついているので」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

変態に飼われた俺は変態の依頼をこなさなければいけない

枝浬菰
BL
2025年1月よりUPします~ オメガバース作品 長編を予定しています! 週1更新 ❁あらすじ 意思を持つΩと意思を持たないΩ どちらも俺、僕だから。 どんな荒仕事だとしても有能な俺様が失敗なんてするわけない! 変態に飼われた俺は変態が依頼する仕事をしなければいけない。これは絶対だ。 そんなある日ターゲットとして警察署長に狙われることに……。 「お前こんなところで何している?」「お前には関係ないことだろ!!」 闇オークションで飼われたΩの美形男子暁は変態の元で対人スキルを身につける。  

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

処理中です...