60 / 98
第一章:神の暇つぶし
51話ー幸福の余韻
しおりを挟む灰から蘇った蒼が五人にツッコミを入れると、にこやかな笑みを浮かべたハス様はコックコートを椅子に掛けてから座った。
蒼、樹、ハス様……その正面に、陽葵、綾華、ニャル様が横並びに座っている。
「はははは!相変わらず面白い人たちっすね!皆が謎解きをしている所とか、ブラックジャックをしている所をこっそりと見てたっすけど……ニャル様が皆を選んだのがよく分かるっすよ!と、長くなったっすね……早速食べましょう!召し上がれ」
「「「「いただきます」」」」
蒼たち幼なじみ四人が手を合わせて感謝を示すと、ナイフとフォークに手を伸ばすが……その手はまるで、時が止まったかの様に静止したのだ。
そんな四人は、キョロキョロとした仕草で神様二人の手元を見た。
神様二人の手にはそれぞれ……右手にナイフが、左手にフォークがある。
自分たちのと比べて神様二人の手元には……一番右にあるスプーンを除いた、両端のナイフとフォークのワンセットがない。
つまり……カルパッチョを食べるのに使うのは、そこにあったナイフとフォークということになる。
その様な答えに至った四人がその位置にある自分のワンセットを取ろうとすると、フォークでタコを切っているニャル様が口を開いた。
「ちなみに、前菜で使うのは一番右にあるスープ用のスプーンを除いた両端のワンセットだよ」
「「「「……………………」」」」
((((何故バレた…………))))
血走った目で「はぁ、はぁ……」と吐息を漏らしながら冷や汗をかく四人はピクリとして黙り込み、そんな四人にハス様がクスリと笑う。
「ははっ!この場は無礼講っすよ?テーブルマナーなんて気にしなくて良いっす!食事は楽しむものっすよ!リフレッシュ、リフレッシュ!」
「「「「ハ、ハス様ぁ…………」」」」
「それはそうだね、キミたちも早く食べな?このタコ、めっちゃ美味しいよ!」
「「「「うん!!!」」」」
◆◆◆
ニャル様に勧められると、四人も食べ始めた。
カルパッチョのソースは酸味を仄かに感じ、その酸味をマヨネーズのまろやかさで癖のない風味に仕上げていて美味しい。
ただでさえ単品で美味しいそれをハス様のアドバイスを受けて、シンデレラで喉奥に押し込む。
オレンジの爽やかな風味とパイナップルの甘み、そしてレモンのキリッとした酸味……それらがカルパッチョを味わった後の口内に広がることで、舌鼓を打ち過ぎた樹が昇天仕掛けたりもした。
皆が無事前菜を食べ終えると、ハス様がスープとメインディッシュを運んでくる。
スープの名前は『風の交奏曲 自然風キノコスープ』。
……いや、普通のキノコスープだろ。
四人はそう思ったが、いざ食べてみると……風が肌を掠め舞ってるかの様な感覚に陥る程、爽やかでさっぱりとした美味しいとしか形容出来ないスープだった。
メインディッシュの名前は『黒いハリ湖風タコスミパスタ』。
皿いっぱいに広がる黒いパスタは、まるで山に囲まれた湖の様だった。
味もとても美味で、タコ墨の旨味がパスタと一緒に喉奥に流れ込んでくる。
タコ墨は貴重な食材で四人はもちろん食べたことが無かったのだが、その癖になるタコ墨の風味と小さく切られたタコのプリプリとした身も相まって、今度は樹だけでなく四人全員が危うく黒いハリ湖に逝きかけた。
皆で他愛も無い話をしながらの食事。
食べたことも無いような美味しい料理。
そのどれもが皆にとっての幸福で……洗い物があるハス様を除いた五人は、幸福の余韻に浸りながら最初に居た大広間へと戻って行った。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる