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第一章:神の暇つぶし
51話ー幸福の余韻
しおりを挟む灰から蘇った蒼が五人にツッコミを入れると、にこやかな笑みを浮かべたハス様はコックコートを椅子に掛けてから座った。
蒼、樹、ハス様……その正面に、陽葵、綾華、ニャル様が横並びに座っている。
「はははは!相変わらず面白い人たちっすね!皆が謎解きをしている所とか、ブラックジャックをしている所をこっそりと見てたっすけど……ニャル様が皆を選んだのがよく分かるっすよ!と、長くなったっすね……早速食べましょう!召し上がれ」
「「「「いただきます」」」」
蒼たち幼なじみ四人が手を合わせて感謝を示すと、ナイフとフォークに手を伸ばすが……その手はまるで、時が止まったかの様に静止したのだ。
そんな四人は、キョロキョロとした仕草で神様二人の手元を見た。
神様二人の手にはそれぞれ……右手にナイフが、左手にフォークがある。
自分たちのと比べて神様二人の手元には……一番右にあるスプーンを除いた、両端のナイフとフォークのワンセットがない。
つまり……カルパッチョを食べるのに使うのは、そこにあったナイフとフォークということになる。
その様な答えに至った四人がその位置にある自分のワンセットを取ろうとすると、フォークでタコを切っているニャル様が口を開いた。
「ちなみに、前菜で使うのは一番右にあるスープ用のスプーンを除いた両端のワンセットだよ」
「「「「……………………」」」」
((((何故バレた…………))))
血走った目で「はぁ、はぁ……」と吐息を漏らしながら冷や汗をかく四人はピクリとして黙り込み、そんな四人にハス様がクスリと笑う。
「ははっ!この場は無礼講っすよ?テーブルマナーなんて気にしなくて良いっす!食事は楽しむものっすよ!リフレッシュ、リフレッシュ!」
「「「「ハ、ハス様ぁ…………」」」」
「それはそうだね、キミたちも早く食べな?このタコ、めっちゃ美味しいよ!」
「「「「うん!!!」」」」
◆◆◆
ニャル様に勧められると、四人も食べ始めた。
カルパッチョのソースは酸味を仄かに感じ、その酸味をマヨネーズのまろやかさで癖のない風味に仕上げていて美味しい。
ただでさえ単品で美味しいそれをハス様のアドバイスを受けて、シンデレラで喉奥に押し込む。
オレンジの爽やかな風味とパイナップルの甘み、そしてレモンのキリッとした酸味……それらがカルパッチョを味わった後の口内に広がることで、舌鼓を打ち過ぎた樹が昇天仕掛けたりもした。
皆が無事前菜を食べ終えると、ハス様がスープとメインディッシュを運んでくる。
スープの名前は『風の交奏曲 自然風キノコスープ』。
……いや、普通のキノコスープだろ。
四人はそう思ったが、いざ食べてみると……風が肌を掠め舞ってるかの様な感覚に陥る程、爽やかでさっぱりとした美味しいとしか形容出来ないスープだった。
メインディッシュの名前は『黒いハリ湖風タコスミパスタ』。
皿いっぱいに広がる黒いパスタは、まるで山に囲まれた湖の様だった。
味もとても美味で、タコ墨の旨味がパスタと一緒に喉奥に流れ込んでくる。
タコ墨は貴重な食材で四人はもちろん食べたことが無かったのだが、その癖になるタコ墨の風味と小さく切られたタコのプリプリとした身も相まって、今度は樹だけでなく四人全員が危うく黒いハリ湖に逝きかけた。
皆で他愛も無い話をしながらの食事。
食べたことも無いような美味しい料理。
そのどれもが皆にとっての幸福で……洗い物があるハス様を除いた五人は、幸福の余韻に浸りながら最初に居た大広間へと戻って行った。
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