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第一章:神の暇つぶし

外伝ー陽葵の恋③

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 綾華と二人の部屋に入った陽葵は部屋の玄関に靴を脱ぎ捨てると、ベッドに方にダッシュする。

「おりゃーーーっ!!!」

 陽葵が声を上げながらベッドに飛び込むと、ぽふっ……と毛布にうずくまり、自力では抜け出せない程に飲み込まれた。

「あやかぁ……綾華も、ベッドに来なー?凄いフワフワだよー……」

 ぐでぇ……っとしている陽葵に、綾華は獲物を狙う狩人の如く近づき、獲物である陽葵に飛び付く!

「あはははははははは!!!ちょっ、綾華、くすぐった。あははははははは!!!ちょっ、やめ……」

「やめ、何ですってぇ?ベッドに飛び込む悪い子は、こうよ!!」

 ベッドに飛び込む悪い子の陽葵に綾華がお仕置きのこちょこちょをすると、陽葵は少し暴れながら抵抗するが綾華にガッチリ捕まってる為、為す術なく蹂躙され、持続的に押し寄せる感覚に奇声とでも言うべき声を陽葵が上げた。
 それに耐えきれなくなった陽葵は両手を挙げて、狩人である綾華に対して服従の意を示す。

「あはははははははははは!!!ひー!!ご、ごめ、もうしないから、ゆるひてぇ……」

「ふーん……本当かしらね?両手を上げてるのは、もしかして、もっとやって欲しいという意思の現れじゃないのかしらねぇ?」

「ち、ちがっ!あははははははははは!!!」

 わざとらしく、それでいて意地の悪い笑みを浮かべている綾華に陽葵は数分間オモチャにされたが、笑いによって出た涙を流しながら声を震わせて謝ったら許された。

「ゆ、ゆるしてぇ……」

「反省したようね?なら許してあげ……え?ちょっと!何する気なのよ!?」

 獲物に油断し背後見せた狩人は、獲物にベッドに押し倒される。
 この時、狩人と獲物の立場が逆転したのだ。
 ベッドに押し倒されて困惑している綾華に、陽葵は身体を跨らせて逃げられない様に固定し、蹂躙し尽くす意思を見せて構えを取る。

「お返しだああああああああ!!!」

「い、いやああああああああああああ!!!!」

 数分間じゃ生温いと十数分間、陽葵が綾華の身体の至る所をまさぐり弄り続けると、そこには、涙と鼻水で顔を汚しながら身体をヒクヒクと痙攣させ、とろけきった笑顔を浮かべている綾華の姿があった。
 
「あ…………」

「……………………いひひ」

 この時の陽葵は、これのせいで綾華がちょっとしたマゾ気質に目覚めることをまだ知らない。
 あれから綾華は正気に戻るとベッドの横にあるティッシュで鼻をかんだり涙を拭いたりし、綾華のアラレもない姿を見てやり過ぎた事を自覚した陽葵が、その途中ずっと土下座で平謝りをする。

「ゴメンなさい、ゴメンなさいいいいいい!!!!」

「…………何に謝ってるのよ?陽葵、私になんかしたのかしら?」

「あっ、すぅ……ちょっと土下座の練習しただけ」

「無理があるわねっ!?」

 土下座をする陽葵に、こちょこちょのショックで十数分間の記憶を無くした綾華が不思議そうにしていると、陽葵は察したのか何事も無かったかのように振る舞いだすが、流石に無理があり、速攻で綾華にバレたので正直に話すことにした。

「いやぁ……あのぉ……そのぉ……綾華にこちょこちょされたからぁ、あたしもぉ綾華にこちょこちょしたらぁ、少しやり過ぎちった!テヘペロ!」

「許さないが?」

「へぐし!」

「これでおあいこね」

「うんっ!」

 可愛く謝ったつもりの陽葵に、綾華がチョップを一回食らわして握手を求めると、陽葵はすんなりと受けて入れて仲直りした。
 それから二人は部屋で休憩しながら、蒼達とグループラインで写真の共有し、五時四十分になったら一階のエントランスに集合する約束をした。
 
「あやかぁ、楽しみだね、バーベキュー」

「そうね、楽しみだわ」

 それぞれのベッドに寝っ転がって足をバタバタさせる二人は、少し疲労の色を出しながらも今日の夜にあるイベントに心を躍らせていた。

「ねぇ、陽葵……」

「どうしたの?」

「いやさ、私、樹のことが好きなんだけれどね」

「へー…………ん?えええええええ!!!???」

 突然大親友の綾華から告白を受けた陽葵は、その内容に驚きを隠せず、壊れたロボットの様に頭文字を連呼し始める。

「ああああああ綾華が、いいいいいい樹を!?……?」

「なによ、そんなに驚くことかしら?」

「そりゃ驚かないでって方が無理だぜ?!だって、幼なじみの大親友が、同じく幼なじみの大親友が好きって……じゃあじゃあ!綾華は何時から樹のことが好きなの!?なんで樹のことが好きなの!?」

 陽葵は綾華からの告白に対して内心まだ理解が追いついていないが、それはそれとして、四人と恋バナをして見たかった陽葵はグイグイと綾華に詰め寄った。

「グイグイくるわね……まぁ、そうね、私が樹を好きになったのは小学二年生の時かしら?」

「それでそれで!何で好きになったの!?」

「それは、樹が自分のお小遣いで買ってくれた、私へのプレゼントがキッカケね。初めて家族以外から貰った、大切なプレゼントよ……今だって大切にしてるわ」

 表情を和らげ、陽葵が今まで見たこと無いような柔らかな笑顔の綾華が「今だって大切にしてるわ」と言う時に、一瞬、少し切なそうな表情を浮かべた。
 今恋バナをしている同性として、約八年間共に時を過ごして来た幼なじみとして、そして何より、かけがけの無い大親友として、そのプレゼントが何なのか、陽葵は気になってしょうがなかった。
 しかし、一瞬切なそうな表情を浮かべた綾華を見てしまった陽葵は聞いて良いのか迷い、自分の脳内で聞いて良い派と聞いて駄目派に別れてちょっとした論争になるも、結局のところ知りたいという欲に勝てずに恐る恐ると聞く。

「ねぇ……樹から貰ったプレゼントって何なの?」

「それはね、プラネタリウムよ」

「プラネタリウムって、星空を映し出すやつ?」

「そうそれ」

「そっかぁ……結構樹ってロマンチストなんだな」

「ふふふ、そうね。樹はロマンチストで、それでいて、すっごく優しい心の持ち主の、私の王子様よ……」

「ロマンチストは綾華の方だった!?」

「言えてる」

 綾華が樹を好きになったキッカケのプレゼントは、なんとプラネタリウムだったのだ。
 プラネタリウムという星空を満開に咲かせる道具を、綾華という女の子にプレゼントとして上げることに陽葵はロマンチックだなと思いつつ、可愛らしい表情をする綾華を見て内心羨ましく思いながら、綾華の方がロマンチストだと笑い飛ばした。
 話を終えた二人が時計を見ると、良い頃合いだったので話を打ち止めし、スマホだけポケットに閉まって一階エントランスへと向かった。
 エントランスに着くと、先に来て何やら雑談をしている男子二人がいる。

「二人とも早いねぇ」

「そっかあ?何事もゆとりを持って行動だろ?」

「「「は?」」」

「なんだよ三人揃って……」

「いやいやいや。寝坊していつも遅刻寸前の蒼が、それ言うの?」

「……………………」

 いつも早めの行動してます!と分かりやすく顔に出しながら得意気に言う蒼に、一緒に行動した樹ですら否定の意を示した。
 陽葵に図星をつかれた蒼は反論をしようと一瞬するが、自他ともに認める事実に言葉を詰まらせ、あっさりと非を認める。

「ちぃ……どうせ俺は、遅刻寸前のマイペース野郎ですよーだ」

「「「分かってるじゃん」」」

「そこは、そんなことないよ!って否定するところじゃない!?」

「「「「ぷっ……あはははは!」」」」

 蒼は少しいじけた風に非を認めてみるが、誰一人からも擁護の言葉がなく、肯定する三人に涙の全力ツッコミをいれると、四人はおかしくて笑った。
 
「やっぱりさぁ……ずっとこの四人で居るから、ツッコミも何もかもが息合うよねぇ」

「ホントよねぇ、なんでかしら?不思議ねぇ……」

「幼なじみでさ、かれこれ八年間位一緒に居るからじゃない?ほぼ家族みたいもんだよ」

「確かに……俺らワンチャンさ、世界で一番仲良い幼なじみなんじゃね?」

「「「たしかに!」」」

「「「「って、また被ってる!」」」」

 四人が確かな友情を噛み締め合っていると、後ろの方から声が聞こえてくる。

「おーい!お前ら行かないのかー?」

「ちょっとぉ……いきなり走らないでよぉ!」

 声の主が走って此方に来ると、後ろからもう一人出てきた。
 その二人に蒼は挨拶をし、陽葵は微笑ましそうに見ている。
 
「悠真と瑠奈じゃん、やっほー!」

「相変わらず二人は仲が良いね」

「そうだろ?俺たちラブラブだからな!」

「ちょっ、ちょっと!?」

「「「「ニヤニヤ」」」」

「もう!もう!もぉおおおお!!」

 四人に対して誇らしそうにラブラブアピールをする悠真に、瑠奈はもじもじしながらも嬉しそうに照れた。
 そんな二人に四人はニヤニヤとした笑みを零し、それを見た瑠奈がぷりぷりと怒っては、悠真のポコポコと叩く。
 叩かれている悠真の方は満更でも無かったのだが、どんどんとダメージが蓄積されていき、次第に痛くなってきたので「ご、ゴメンて……ホント、許して」と手を挙げ、許しを乞いた。

「もぉー……次やったら絶対許さないんだから!」

「分かった分かった。もうしないよ……それはそうと、早くバーベキューに行こーぜ?遅れちまう」

「あ、そーいえばそーだった……」

「普通に忘れて話してたわ……」

「まぁ……まだ時間には余裕があるから、全然大丈夫ではあるけどね」

「よっしゃ!行くか!」

 六時からホテルの私有地でバーベキューがあり、四人で一緒に行く為に集合の約束をしたのだ。
 その予定通りに集合した四人と、雑談をしてた四人と偶然合流した二人は、バーベキュー会場へと向かう。
 ホテルから六人が出るとそこには、星空に照らされた夜景が広がっていた。

「なぁお前ら!観てみろよ!星空が綺麗だぜ!」

「星空だけじゃなくて夜景も綺麗だよぉ……」

「陽葵!あれ、天ノ川じゃないかしら?」

「わぁ……ホントだぁ……」

「俺が彦星で、瑠奈が織姫かぁ……」

「それじゃあ一年に一回しか逢えなくね?」

「それは、嫌かも……」

「デレたあああああああああ!!!」

「………………っ!?」
 
 六人を宙から爛々と照らす星空には、宙を流れる天ノ川がかかっており、まるで、織姫と彦星が六人の未来を祝ってるかの様だ。
 織姫と彦星を利用しまたもイチャコラする二人を、四人は尻目に見てニヤニヤしつつ、一足先にバーベキュー会場へと向かった。

「バーベキューセットがいっぱいだあ」

「クラスメイト八十人でのバーベキュー、楽しみだね」

「本当にね。八十人でバーベキューなんて、そうそう出来ないわよ」

「お肉代凄いことになりそうだね……」

「あー……それはあれだよ?ここホテルのイベント?キャンペーン?って言ってた」

「マジかよ……すんごい金掛かるよそれ」

「うちの学校が贔屓にしてるのと、丁度このホテルが十周年記念だからじゃない?感謝の出血大サービス!的な?」

「まぁ気にしても仕方ないよ。僕たちはただ、バーベキューを楽しもう」

 悠真と瑠奈は他の所に行き、四人でバーベキューについての話をしていると、マイクを持った先生が生徒に呼びかけをする。

「皆さーん。こっちに集まって整列してくださーい!」

「何すんだろ?お前ら分かる?」

「生徒用パンフレットにはバーベキューとしか……」

「そうね……他に何も書いてないわね」

「普通にバーベキューの注意事項とかじゃないの?」

 先生の呼びかけに、四人は話しながら向かった。
 生徒が先生の元に集まって整列すると先生は生徒の人数を確認し、先生は確認し終えて大丈夫だと判断すると無邪気に微笑みかける。

「ふっふっふ……先生から皆さんにサプラーイズ!!どぅるるるるるるるるるる……じゃじゃん!肝試し大会を開催しまーす!!!」

『…………っ!?うおおおおおおおおおおおおおお!!』

「肝試しだってよ!?肝試し!!やっぱ修学旅行はこうでなくっちゃなぁ!!」

「肝試しは鉄板ネタだからね!どんな仕掛けがあるんだろう?」

「こんにゃくとか……提灯とかかしら?」

「ありそー!陽葵も楽しみだよな!?……陽葵?」

 肝試し大会と聞いて沸く生徒達の中で、蒼は特にテンションが高かった。
 修学旅行の夜と言えば夜更かしと肝試し、そんなイメージがあるからだ。
 そんな肝試しに心を躍らせている三人だが、陽葵だけはとてもじゃないが楽しそうにしている印象を受けないし、表情は恐怖一色で、痩せ我慢をしているのか握った拳とピンと張った足はブルブルと震えていた。

「陽葵大丈夫か?どうした?」

「い、いやぁ?だ、大丈夫だよぉ?」

 裏では先生によってルール説明がされており、綾華と樹は何やら二人で盛り上がっている。
 そんな中で一人だけ、身体だけでなく口も震わす陽葵を心配に思った蒼が他の誰にも聞こえないように陽葵の耳元で呟くと、身体をビクつかせた陽葵は幼なじみの三人なら一瞬で強がりだと分かる反応をした。

「もしかしてさ……怖いの、苦手?」

「……っ!?べ、別にそんなことないよ!怖いのとか全然余裕だし!蒼の方こそビビってるんじゃねぇの?!」

「………………そっか」

「………………うん」

 陽葵の分かりやすい強がりに対して蒼は俺達の仲なのにそんな嘘つくなよ……と悲しくなり、それを察したのか陽葵は申し訳なさそうに弱々しい返事をした。

「肝試しは男女二人組みであの森の奥に見える大きな来まで行き、行きとは違うもう一つの道から帰ってきてもらいます!!そして!!パートナー決めは!?」

『…………ドキドキ』

「男女で別れた……クジで決めてもらいます!!」

『おっしゃああああああああ!!!!』

「クジは四十までの数字が書いてある紙で、分かりやすく男の子が青、女の子が赤の紙です。その書いてある数字が同じ異性とペアになってもらいます!と、いうことなので列の男女別れてクジを引きに来てください!!」

 先生の言葉で、次々とクジを引く生徒達。
 一人、また一人とクジを引いていき、遂に蒼と陽葵がクジを引く番になった。
 クジを引いた蒼はボソッと数字を呟くと、陽葵に何番だったのかを聞く。

「二十七か……陽葵は何番だった?」

「あたし?あたしは十八番だよ?蒼は?」

「……マジ?俺と一緒じゃん!運良いな?!」

「マジで!?すご!!」

「うん!……あ、そー言えば俺、ちょっと用事あるからまた後でな?」

「…………そうなの?じゃ、後でな!」

 陽葵と同じ数字だと嘘をついた蒼。
 そこには、恐怖で身体を震わせていた大切な幼なじみへの思いがあった。
 右手で紙をぎゅっと握りながら、蒼は男子一人一人に声を掛ける。

「なぁ、お前何番だった?」

「俺?俺は二十三だったよ?」

「そっか……ありがと」

 違う。

「なぁ、お前は何番だった?」

「僕?僕は十七だったよ?」

「そっか……ありがと」

 違う。

「なぁ、お前は何番だった?」

「拙者でござるか?某は一番だったでござる!」

「そっか……ありがと」

 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!

「十八は誰が……」

「おー蒼!お前、色んな人に数字を聴きまくってるらしいじゃん?」

「なんだ悠真か……」

「なんだって酷いな!?まぁそれは良いとしてさ、聞いてくれよ蒼……」

「なに?忙しいんだけど」

「まぁまぁ、そう言うなって……俺さ、瑠奈と一緒に肝試ししたいんだけどさ、番号が違うんだよ……俺が十八で、瑠奈は二十七でさぁ……」

 次の人を当たらないと……そう思ってた蒼に、悠真は何気なく告白した。
 キョロキョロとしていた蒼は悠真の数字を聞くと、悠真の肩をガッチリとホールドして、再確認する。

「おい待て……お前何番って言った?」

「俺が十八で、瑠奈は二十七……」

「とぅき……」

「うわキモ!?」

 自分が探し求めていた物が、自分の持っている手札を探していたのだ。
 その奇跡と、奇跡を自ら運んできてくれた悠真に感謝しながら蒼は悠真に抱きつき、急に抱きつかれた悠真は身震いさせた。
 いきなり男に抱きつく蒼に悠真はドン引きするが、本人は気にしていない様子で、早速とばかり交換を求める。

「なぁ、俺二十七なんだけど、交換しないか?いや、交換しよう。そうしよう」

「おうおう、有難いが食い気味だな……はいよ」

「サンキュー!心の友よ!お前も肝試し楽しめよー!」

「おう!こっちこそサンキューな心の友よ!お前こそ肝試し楽しめよ!」

 蒼は握りしめてグチャグチャな二十七番と悠真の持っていた十八番を交換すると、感謝の言葉を言いながら悠真に手を振り、陽葵の元へと走り出した。
 そんな蒼に返事した悠真は、蒼から受け取ったグチャグチャな紙を見て微笑む。

「……ったく、世話のやける心の友だぜ。頑張れよ、蒼」

「ゆうまー!悠真は結局、何番だったのー?!」

「俺も二十七番だよ」

「一緒だね!嬉しい!!にひひ」

「か、可愛いなおい!!」

 悠真と瑠奈はイチャコラしているが、一目散に陽葵の所へ走り出した蒼は知らない。
 ただ走って、走って、走って……蒼は、綾華と樹と話している陽葵を見つけた。

「蒼来たか!なぁ、用事ってなんだったんだよー?」

「んー……秘密?」

「ちぇー……余計気になる」

 気が狂ったとしても陽葵の為に走ったなんて言いたくない蒼は秘密と濁してみるも、秘密と言われて余計に気になった陽葵にジトーとした目で見られた。
 あははー……と頭をポリポリ掻く蒼に、樹は嬉しそうな笑みで話しかける。

「そういえば蒼ってさ、陽葵と同じなんでしょー?」

「まぁね?そういう樹は誰と肝試しまわるの?」

「「ふっふっふ……」」

 蒼が樹に誰とまわるのかを聞くと、待ってましたと言わんばかりのテンションで綾華と樹は同じ数字の紙を見せつけてきた。

「私と樹もペアになったのよ。これで四人全員が、それぞれペアになったわね」

「四人全員が四人の中でペアになるのって凄いよね!」

「確かに……そう言われてみると凄いな」

「これがあたし達の絆ってやつかな!?」

「「「間違いない!」」」

「「「「あはははははは!!」」」」

 この時の陽葵はさっまでと違い、怖がってるようにしている訳でも手足が震えている訳でもなく、ペアになった奇跡とも言える事実をただ喜んで笑っていた。
 そんな陽葵に蒼はホッと安心したが、この時の蒼は陽葵が心配させまいと上手に恐怖心を隠しているのに気がつけなかったのだ。
 やがて肝試しが始まると、遂に蒼と陽葵の番になる。

「次は十八番の……蒼と陽葵!肝試し楽しんで来てね!はいこれ、懐中電灯」

「ありがとうございます。陽葵、着いてきて」

「う、うん……」

 先生から懐中電灯を蒼が受け取ると、先が見えない程に暗く不気味な森へと入って行った。
 スタスタ……スタスタ……スタスタ……スタスタ……。
 蒼が懐中電灯を持って前を歩き、その後ろを痩せ我慢というメッキが剥がれ落ちている陽葵が怯えながらも着いていく。
 ヒューッ……ヒューッ……ガサガサ……ガサガサ……。
 夜の風が後ろの方から二人を急かすように吹いたかと思えば、次は木の葉を揺さぶって見えない何かを彷彿とさせてもきた。
 そんな懐中電灯の光のみが頼りの静寂とした闇に、もの言えぬ声のようなものが聞こえてきた陽葵は、限界一歩手前という状態だ。

「ね、ねぇ……さっきから声みたいな音が聞こえない?」

「声?風の音じゃね?それよりも、俺から離れるなよ?」

「う、うん…………きゃああああああっ!!!」

 離れるなよ?と言われた陽葵が蒼の手を握ろうと蒼に近づくと、ビューッッッ!という強めな風の音が二人を過ぎったのだ。
 陽葵は蒼と手を繋ごうとしたときに力強い風が急に来たものだからパニック状態に陥り、限界寸前だった陽葵の心はボロボロに砕け散ってしまった。
 蒼は地べたに座り込みながら泣く陽葵に手を差し伸べるが、そこで蒼は陽葵が泣いているのは怖いからだけではないことに気づく。

「陽葵、大丈夫か?立てそうか?」

「ぐすん……ぐすん……あ、蒼ぉ……助けてぇ……」

「ど、どうし…………っ!?」

 座り込みながら蒼に助けを求める陽葵から、じわじわと液体が溢れ出ているのだ。
 その事に気づいた蒼は混乱するが自分の頬をパチン!と叩くと、何も言わず陽葵の手を取って何も言わずに歩く。
 スタスタ……スタスタ……スタスタ……スタスタ……。
 蒼の懐中電灯の光だけを頼りに、一歩、また一歩と二人で手を繋ぎながら前に進んでいく。
 ビューッ……ビューッ……ガサガサ……ガサガサ……。
 風が吹き木の葉が揺れるが、陽葵には聞こえない。
 陽葵はただ蒼に手を引かれるだけでそこに一切の会話はなくただ黙ってゴールを目指すが、ことがことの為に今の陽葵は恐怖ではなく羞恥で泣きそうだった。
 泣きそうな陽葵が目を赤く充血させながら嗚咽を漏らすが蒼は何も言わず、離すまいと手をぎゅっと握るだけ。
 手を握り合いながら二人で歩いていると、次第に陽葵は蒼の背中が逞しく見えてきた。
 いつもは男とか女とか性別に関係なく大親友として四人は一緒にいるが、何も言わずにただ手を差し伸べてリードしてくれている蒼のことを、陽葵は内心でカッコイイなと思いつつ、そして何より、二人で手を握り合っているこの状況に安心を覚えたのだ。
 それからの陽葵はただ蒼のことだけを見て、蒼のことだけを考えた。
 そんな時間の終わりが見えてくると蒼は立ち止まり、陽葵の方に向くと握っていた手を離して肩に載せ、真面目な目で陽葵の目を見て話しかける。

「俺が先生にトイレ行ったって言っておくから、陽葵は先に帰って着替えなね。一人で怖くない?」

 肝試しのゴール手前。
 先にゴールした生徒達のわちゃわちゃした声が響き、蛍光灯の光が差し込んでくる。
 しかし、そんな情報が脳に入って来ないほど蒼のことだけを考えていた陽葵の目に映っているのは、蛍光灯の朧気な光に包まれながら本気で自分のことを心配している蒼の姿だった。
 陽葵は自分のことを本気で心配してくれてる蒼に抱き着くと、暖かな涙をポロリと流して微笑む。

「うんっ!もう大丈夫!蒼、ありがとね!!」

「そっか……なら良かった」

 抱き着きながら涙を流して微笑む陽葵に蒼ははにかみ笑うと、陽葵の頭に手をポンと載せて撫でる。

「じゃあ、着替えてくるね!蒼!」

 涙をワンピースの袖で拭い笑顔で手を振る陽葵に、手を振り返して見送った蒼は自分の手を見て呟く。

「俺、何で陽葵の頭を撫でたんだろ……まぁ、いっか」

 走ってホテルの自室に向かった陽葵は部屋の鍵を開けて入ると、自室のドアを閉め自分の胸を抑えながら床に座り込む。

「めっちゃドキドキしてる……」

 ドクンドクンドクンドクン……鳴り止まない鼓動だけが聞こえてくる。

「はぁ……はぁ……あたし、どうしちゃったんだろう……」
 
 ドクンドクンドクンドクン……鳴り止まない鼓動が、陽葵に教えてくれる。

「もしかして……あたし、蒼のことが……」

 ドクンドクンドクンドクン……鳴り止まない鼓動は、蒼への気持ちを表していた。

「好きになっちゃったんだ……」

 ドクンドクンドクンドクン……鼓動はまだ収まらない。
 それはまるで、治ることのない病に犯されている様だ。
 一人でニヤニヤと笑いながら服を新しいワンピースに着替えた陽葵は自室から出て鍵を閉めると、肝試しのことを思い出しながらバーベキュー会場へと走る。

「へへへ……あたし、蒼のこと好きなんだぁ。あのときの蒼、王子様みたいでかっこよかったなぁ……てか、蒼もあたしのこと好きなんじゃない?…………って、それはないか。あたしみたいな可愛くないの、蒼が好きな訳ないよね……恥ずかしい所だって見られちゃったし……あれ?おかしいなぁ……何で泣いてるんだろ、あたし……」

 ホテルを出て、あと少しでバーベキュー会場という所で陽葵は立ち尽くした。
 最初は蒼のことが好きになった直後なのに、蒼のことを想えば想うほど、肝試しの時の失態を考えば考えるほど、蒼は自分のことを好きな訳ないと……そう思ってしまい、真逆な想いと思いに冷たい涙が零れてしまう。
 そんな陽葵がバーベキュー会場を背に、手で顔を抑えて泣いていると後ろの方から声が聞こえてきた。

「何であたし、好きになって直ぐに悲しい思いしてるんだろう……蒼に向ける顔ないよぉ……もう、いや……」

「陽葵ー!遅いぞー!」

「蒼……?」

「大親友の顔を忘れたなんて言わせな……いぞ……なんで泣いてるんだ?」

「別に……泣いてない」

「俺らの仲だろ?嘘つくなよ……」

「ごめん……」

「大丈夫、気にすんな。バーベキューに行こうぜ」

 陽葵が蒼の方に振り向くと、陽葵が泣いていることに気づいた蒼は心配と困惑の色を浮かばせたが、そんな蒼に何故泣いているのかが言えない陽葵は嘘をつくが直ぐにバレてしまい、何処か切ない表情を浮かべる蒼に声を震わせながら謝ると、何事も無かったかのような笑顔で微笑んだ。

「うん、行く……」

「よし!二人も待ってるから早く行こうぜ。肉が無くなっちまう」

 手をこまねく蒼の前まで歩いて止まると、陽葵はか細い声で頷いた。
 蒼はそんな陽葵の手を取って少し歩くと急に立ち止まって振り返り、赤くさせた頬をポリポリと掻きながら照れ臭そうに言う。

「陽葵……今度からはさ、俺らにだけは嘘つくなよな。怖くなったら三人で一緒に居てやるし、辛くなったら三人で一緒に支えてやるからさ」

「分かった……」

「それとさ……えぇと、ワンピース似合ってるよ……」

 恥ずかしさで顔を赤く沸騰させた蒼が逃げるように前を向いて歩き始めると、陽葵は蒼の背中から抱き着き笑う。

「大好き」

 そこには蒼にも聞こえないような声でボソッと呟いた陽葵と、また急に抱き着かれて緊張している蒼の二人しかおらず、蛍光灯と星空の明かりだけが道標のこの世界で陽葵は新たな道標を見つけた。
 それは昔からずっと一緒に居て、昔からずっと一緒に歩んで来た大親友。
 そんな二人の未来への門出を祝うかのように、天ノ川の爛々とした光が二人を包み込むと、二人は、もっと明るくて、もっと楽しい方へと向かって、一歩、また一歩と、何度でも歩き出す。
 皆となら怖いものなど何も無いと言わんばかりの、闇夜も照らせるような明るい笑顔で。

―――

【簡単な後書き】

 その後はバーベキューを食べ、男女別れて温泉に入り、持ってきたアレ(ゲーム)で遊び、徹夜して、二日目へと突入し日光東照宮を観光して、帰りのバスの中で四人はくっつくようにして眠りについた。
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茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。 化想操術師という仕事がある。 一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。 化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。 クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。 社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。 社員は自身を含めて四名。 九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。 常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。 他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。 その洋館に、新たな住人が加わった。 記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。 だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。 たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。 壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。 化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。 野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。

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