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第一章:神の暇つぶし
外伝ー陽葵の恋②
しおりを挟むそして当の四人は?と言うと全員同じクラスで、バスの一番後ろの四人席を勝ち取っていた。
「やっぱりこの席取って良かったね」
「そうね。結構話やすくて良いかも」
「ふっふっふ……ジャンケンキングの蒼様に任せろ!」
「はいはい。ありがと」
バスの旅では色々なことがあった。
たわいもない話に花を咲かせたり。
トランプをして蒼が勝ち越したり。
クラスメイトと色んな歌を合唱したり。
クラスメイトとカラオケ対決したり。
バスの中から外の景色を見たり。
景色を見た生徒が吐きかけたり。
そんなこんなで目的地のホテルに着くと、バスの運転手さんに全員で「ありがとうございました!」と感謝の言葉を述べ、荷物を持って無事にバスから降りた。
「うわぁ、でっけぇ……」
「高級ホテルみたい……」
「そうだねぇ……」
「そうね。でも、惚けてないで早く行きましょう」
ぼーっとホテルを見上げてる三人に、先生の号令を聞いた綾華は行動を促し、従業員が立っているホテルの前に整列すると、先生が話を始めた。
「はーい。皆さん集まりましたかー?居ないお友達はいませんかー?」
『はーい!』
「それなら良かったです。そして今、皆さんは二つの荷物があると思います。バスの中にある着替えが入っている荷物と、今皆さんが持っている自主研修等で使う荷物です。ですが、二つの荷物を運ぶ自分達の部屋に運ぶのは大変ですよね?そこでなんと!ホテルの従業員、ホテリエさん達が、私達が観光を満喫している間に運んでくださるそうです!皆でホテリエさん達に感謝しましょう!」
『ありがとうございます!!』
生徒達が感謝を伝え礼をすると、若いホテリエが生徒の前に来て話始める。
「皆様、東京から長い時間をかけ、ここ、栃木県日光市に来てくださりありがとうございます。栃木には様々な良い所がありますので、是非、栃木を満喫してくださいね。そして、皆様は明日、日光東照宮に行かれるとお聞きしました。ですので、今日これからの自主研修で中禅寺湖に行くよっていう生徒の方が多いのではないかと思います。中禅寺湖には日本三大名瀑の華厳滝がございますので、是非見ていってください。長々と失礼しました。皆様の修学旅行が良いものになることを、ホテリエ一同心から祈っております」
若いホテリエが礼をすると、先生と生徒はパチパチと盛大な拍手をした。
その後は自主研修の班ごとに別れつつ、先生からの注意を聞いた生徒達は、心を躍らせながら、それぞれの旅へと駆り出るのであった。
「えぇと確か……何かあったらスマホで先生に連絡、午後五時までにホテル到着、不審者に会ったら防犯ブザーを鳴らして助けを呼ぶ……だったよね?」
「先生に言われたこと?」
「うん」
「ならそれで合ってると思うよ」
四人で中禅寺湖に向かって歩き始めると、樹は忘れないようにと先生に言われた注意を振り返り、他の三人にも確認した。
それに対して蒼が合意を示すと、テンションの高い陽葵が三人に話しかける。
「中禅寺湖、楽しみだよね!」
「うん!写真で見たけど、結構綺麗だったから実際に見るの楽しみ!」
「ふふっ。陽葵と樹は、特に楽しみにしてたものね」
「バスの時も何回か楽しみだって言ってたもんな!」
「うん言った!ところで、蒼は何が楽しみなの?」
「それ気になる!蒼は、これと言って行きたい所言わなかったからね」
「俺はさ、この四人で居られればそれだけで良いんだよ。俺らなら何処だって楽しいさ」
「「「とぅき……」」」
「キモっ!?」
四人で談笑をしながら、一歩、また一歩と中禅寺湖に向かっていると、追い風が吹いてきた。
栃木の街並みに吹く追い風は、進め!進め!と四人の背中を押しているようで、天が小さな旅人の旅を後押ししているかの様であった。
知らない場所、見たことない物、親じゃなくて友達が横にいる旅。
全てが新鮮で、今日という何でもない一日のワンシーンの筈なのに、四人の記憶に色濃く残り続ける色褪せない思い出として記録されることを、今の四人はまだ知らないのであった。
四人で歩いていると、途中から麦わら帽子を被った陽葵が三人に話しかける。
「少し喉乾いたね……」
「ん?水筒の水、もう無いの?」
「うん。そりゃバスの時にだって飲んでたし……」
「私も、もうそろそろ無くなりそうね」
「僕のもそろそろ無くなるかな」
「そっか……じゃあ近くの自販機で何か買うか。陽葵はこれ先に飲んでな」
カバンの中に入っている水筒を出して、カラカラと振って量を確かめる樹と綾華。
四人中三人の水筒の中身が無くなっているので、近くの自販機で何か買うことにしたのだが、喉が渇いたという陽葵に蒼は自分の水筒を渡した。
「マジ?良いの?」
「良いよ?無くなったら買えば良いし。今喉が渇いてる陽葵は飲むべきだよ」
「そっか……ありがと」
赤くした頬をポリポリと掻きながら感謝をした陽葵は、蒼から水筒を受け取るとゴクゴクと飲んだ。
「「……………………」」
「良い飲みっぷりだ……」
「ぷはぁっ!でしょー?!……って、二人して黙ってどうした?」
陽葵が蒼の水筒の水を飲み始めた時から、信じられないと言わんばかりの目線で陽葵を見る二人が気になった陽葵は、どうした?と素直な疑問を投げかけた。
「だってさ!か、か、か、か……関節キスだよ!?」
「それが?」
「相手が蒼とは言え男なのよ?女の子ならそれくらいは気にしましょうよ……」
「えぇ?別にあたしは気にしないけどなぁ……蒼は気になる?」
「んーん、このメンバーなら別に気にしないよ」
「ほらね?」
「「ほらね?じゃないが!?」」
陽葵が蒼と関節キスしたことに驚愕する樹と綾華だが、当の本人である陽葵と蒼は特に気にしていない様子で、樹と綾華は頭を抱えたくなった。
しかし、そんな樹と綾華に、陽葵から爆弾発言が投下される。
「じゃあさ、樹と綾華は二人で関節キス出来ないの?」
「「……………………?????」」
「蒼も言ってたけど、あたしだってこのメンバーなら誰とでも出来るし、別に気にしないよ?何?それとも樹と綾華には、お互い関節キスが出来ない理由でもあんの?」
「べべべべべべべ別に僕はなななななな無いかなー?」
「私だって、べちゅに何もにゃいわね……」
「「……っ!?」」
「「…………………………」」
二人で互いに関節キス出来る理由があるのか?と、問われた綾華と樹は平然を装うとしているのだろうが動揺をこれっぽっちも隠しきれておらず、樹は謎に振動し、綾華は言葉が噛み噛みだった。
そんな隠しきれてない様子の二人を見た蒼と陽葵は、一周回って自分達が異常なのか?と思ったが……いや、それは無いなと一蹴する。
「俺と陽葵が異常なのかと一瞬思ったけど、異常なのは綾華と樹だよな……」
「それ、あたしも同じこと思った……」
「「そんなことない!!」」
「「えぇ……」」
「まぁ良いや、先に進もうぜ」
街のど真ん中で大声を出して話していた四人は、蒼の一言で歩みを再開させた。
それからは、旅の道中で見つけた自販機で蒼と陽葵はオレンジジュースを樹と綾華はお茶を買って飲み物を補充したり、取り留めもない話をしながら目的地へとただ歩いて行った。
そして目的地、中禅寺湖が見える所に出ると、四人はその大きさに思わず感動の言葉を漏らす。
「すげぇ……超大きいじゃん」
「綺麗……」
「空に浮かぶ雲が水面に写ってて幻想的ね……」
「うん……ここまで来たかいがあったよ」
山に囲まれた中禅寺湖は、太陽の光が反射しているからか澄んだ碧色で、その水面には快晴の中で少しある雲が映り住んでいるようだ。
その幻想的とも言える景色に四人で感動していると、蒼が三人に提案をする。
「なぁ、この景色写真に撮ろーぜ?」
「なんなら四人で自撮りしよーぜ」
「いいねそれ!」
「ちょっと待ってね……はいこれ、自撮り棒。これ使って写真撮りましょう」
四人でこの景色をバックに写真を撮ることになり、綾華がカバンの中に仕舞ってある自撮り棒を取り出して蒼に渡した。
蒼が自撮り棒をスマホに付けると左から、陽葵、綾華、樹、蒼の順番で並び、それぞれのポーズを取って掛け声と共に写真を撮る。
「行くよー?はい、チーズ!」
「「「「いぇーい!!」」」」
自撮り棒から取り出したスマホの画面には綺麗な景色の中禅寺湖をバックに、ニコニコの笑顔で二人の手を合わせてハートを作る綾華と陽葵、ニコニコの笑顔で肩を組む樹と蒼が写っていた。
それを見てくすりと四人が笑うと、蒼は「これ、グループに送るね」と四人のグールプラインに写真を送り、受け取った三人は大事そうにアルバムへ保存する。
「アルバム、修学旅行の写真でいっぱいにしよう」
「流石は樹、分かってる!」
「それほどでも……あるかも!」
「「「あるんかい!」」」
「「「「あははははは!!」」」」
樹の言葉で修学旅行の目的が一つ増えた四人は、中禅寺湖にある華厳滝へと歩みを進める。
「中禅寺湖が見えたから、華厳滝もあと少しだよね」
「うん。あともう少し!」
「確かさ華厳滝には有料エレベーターがあって、お金を払えば良い景色が見えるんだよね?」
「そうね、そしてそれに私達は乗るのよね」
「そうだな。そして見終わったら、昼ご飯を食べる」
「お腹減ったねぇ……」
「樹お腹減ったの?」
「まぁ、ちょっとね」
四人でこれからの予定を確認しながら歩いていると、樹がお腹が減ったというので、綾華はカバンからキャンディーを取り出す。
「それじゃあ、皆でこれでも食べながら行きましょう」
綾華がリンゴ味のキャンディーを三人に渡すと、それぞれがキャンディーの包み紙をポケットに仕舞い、四人で一斉にキャンディーを舐めた。
「リンゴ味うま……」
「シュワシュワだね」
「綾華、ありがとうね」
「良いわよ、これくらい」
中禅寺湖の水分を多く含んだ風に吹かれながら、四人は歩く。
辺りには店が色々あり、神社や大きなホテル、レストランに博物館、どれも四人の目を引くものばかりだ。
しかし、四人には目的があり、四人は目的を決めたならどんな遠回りをしてでもクリアする、そんな意志を秘めている為、話題にすれど立ち寄ることは無い。
中宮祠の国道百二十号を歩き続けていると赤い鳥居のある華厳神社を見つけ、そこから少し進むと明治天皇が華厳滝を御観覧された際の石碑があり、またそこから少し進むと華厳滝が見えた。
「あれが華厳滝かぁ……すっげぇ迫力だな」
「自然に囲まれてて、めっちゃ綺麗だね」
「そうだねぇ、でもここからじゃ滝壺が見えないから、早く観瀑台から直に見たいね」
「そうね、早くエレベーターに行きましょう」
落下防止用の柵の向こうに華厳滝が見え、かなり遠くにある筈なのに大量の水が流れ落ちる迫力がひしひしと伝わって来た。
しかし滝壺までは見えず、本格的に見るためにエレベーターへの移動を急いだ。
すこし歩くと、エレベーター乗場と書かれた自然感溢れる木の看板を見つけ、その先には暖かみのある和風建築の建物がある。
無事、目的地に到着した四人は盛大にジャンプして、嬉しそうに歓声をあげる。
「「「「着いたあああああああ!!」」」」
「いやぁ……やっとだね」
「ホントにね」
「ねね、無事着いた事だしさ、この看板と建物をバックに写真を撮らない?」
「「「いいね!!」」」
陽葵の言葉で木の看板と建物をバックに四人で写真を撮ると、受付で一人四百円のエレベーター乗車料を払い、二基ある有料エレベーターの片方に乗り込む。
エレベーターが下に降下し始めると、百とあったメーターが十メートル、また十メートルと減っていき、乗ってから一分位経った頃にメーターがBへと変化すると、エレベーターの扉が開き観瀑台へと続く地下通路に出た。
地下通路は白のアーチっぽい壁、天井には電気があって地下なのに明るく、床はタイルが敷き詰められており、通路の丁度真ん中に通路を分ける柵があった。
それらに関心を向けながら四人は進むと、天井にぶら下げられている左側通行の看板が目に入り、その先、右側に階段を見つける。
「ここにも左側通行の看板があるね」
「まぁ、それだけルールを守って欲しいのよ、きっと」
「これ結構長いのかな?」
「どうだろう?途中カーブして先が見えないから何とも言えないと思う」
壁と階段の真ん中にある柵に手を乗せ、四人はゆっくりと階段を降りる。
四人が階段を降りると、少しした所、階段の降りて一番目にある左側通行の看板、その直ぐ右側の壁にある像を発見した。
「なんだろう、これ」
「横に説明文らしきものがあるぞ?」
「僕、ここからじゃちょっと見えないから、誰か読んでくれない?」
「いいわよ。華嚴の岩頭に露と散った後、多の霊に対し心から冥福を祈って此処にこの像を捧ぐ。昭和四十一年、九月……」
「これ像って、もしかして慰霊像?」
「もしかしなくてもそうだと思う」
「そっかぁ……観光地として有名なここで、そんなことがあったのか」
「皆で合掌して下に行こうぜ」
四人は蒼の提案で黒い縁の中にある慰霊像、そして亡くなってしまった方々に合掌した。
「それじゃあ行こうか」
合掌を終えた四人は樹の言葉で、再度、階段を降り始めた。
少し階段を降りると、自然の光が四人の目に飛び込んで来た。
そこをそのまま真っ直ぐ行くと上への階段があり、右の方に下への階段がある。
四人がその下への階段を降りると、凄みのある岩肌の柱状節理が観瀑台を囲み、そして、これでもかという木々に囲まれながら堂々たる存在感を解き放つ華厳滝が、そこにはあったのだ。
九十七メートルという物凄い高さから水が落ちた時の水飛沫は、霧雨を発生させて辺りを包み込み、そして何より綺麗な虹を発生させていた。
自然溢れるその景色は上から見たものとは比べ物にならない程に幻想的で、四人は『……すげぇ』そんな言葉しか言えない程に、ただただ圧倒されている。
その景色を写真に撮ろうと、陽葵がスマホを構えてシャッターボタンを押すと、スマホの画面に写っていたのは滝ではなくて、酷い顔をして呆然としている四人の顔であった。
「「「「…………なんじゃこりゃあああ!!??」」」」
「何この顔!ってか陽葵も酷い顔してるじゃん!」
「何よ!蒼だって間抜けた酷い顔じゃない!」
「綾華のこんな顔見たの、僕初めてだよ」
「私もよ……って、それは皆じゃないかしら?」
「「「「言えてる!」」」」
それを見た四人は、それぞれ他人に見せられないような酷い顔をして自分に驚き、次第に笑いが込み上げて来て、腹を抱えながら皆で爆笑した。
そんな四人の笑い声は、滝の音とマイナスイオン溢れる自然に溶けて消える。
そして笑いが収まると、四人は落下防止の柵の方に近づいて下の方を覗いた。
「そう言えばさ、あの滝から落ちた水が大谷川になって日光を流れるんだったよね」
「下の方に流れてる奴でしょ?」
「そそ」
「そういえばさ、さっき此処に来る時に上への階段あったよね?」
「あったね」
「上にも登らね?多分そっちのが良い写真撮れそう」
「そうだね。それに上なら滝壺も見えるかも?」
「じゃあ行くか」
蒼の提案で四人が上への階段を上がると、先程よりも滝全体を眺めることが出来た。
「お?こっちなら、若干だけど滝壺が見える!」
「良かったじゃん!」
「うん!」
「てかさ、こっちのが滝の全体が見えて良いね」
「そうだね!じゃあこっちで写真撮ろう!」
「「「「おー!」」」」
四人はパワースポットである、華厳滝をバックに写真を撮る。
並びは蒼、陽葵、綾華、樹の順で、ポーズはそれぞれ蒼と陽葵、綾華と樹が指をくっ付けてのダブルピースであった。
その写真を満足そうに四人は見るが、四人の記憶からはあることが抜けているのだ。
それは、華厳滝のパワースポットの御利益が、心の安定と仕事運や出世運に財運、そして……恋愛運アップなことに。
そのことを知るのは後の話になる。
満足した四人は白雲滝を見ながら階段を降り、そのまま地上へと向かった。
その間の四人は、当分収まることの無い感動を話ながら歩く。
エレベーターを出てお腹が減っている四人は、近くの店で『すいとんに』と『岩魚の塩焼き』、『けごん団子』、デザートに『ソフトクリーム』をそれぞれ買うと、口を付けてない状態の写真をまず撮り、四人それぞれが頬張っている写真に、男女二人でそれぞれ食べあってる写真と撮り思い出に残した。
その後は、お土産屋さんで『恋するいちご』や『石田屋甚五郎煎餅』などのお土産を買いつつ、甘いものは別腹なのだと言わんばかりに『水の毬わらび餅』を写真に撮ってから食べると、お腹をたぷんたぷんにしながらロープウェイに四人で乗って、四人で歩き、四人で見た中禅寺湖と華厳滝を一望する。
「ロープウェイから見る景色良いね」
「ねぇ……ちょっと高くて怖いけど、綺麗ねぇ」
「なぁ陽葵!あれが中禅寺湖だよな?」
「なぁ蒼!あれ華厳滝じゃない?」
緑が溢れる山に囲まれた辺り一面の光景、奥の方に見える物凄く広大な中禅寺湖や、観瀑台で直に観た時より小さく見える華厳滝。
そんな景色をそれぞれ綾華と樹、陽葵と蒼は空からの景色を見たり写真を撮ったり楽しんだ。
ロープウェイから降りた四人がクタクタになりながらホテルへの帰路に就くと、大体五時前にホテルに着いた。
ホテルに着いた四人は、ホテルの入口にいる先生に帰って来たことを報告すると、鍵を二つ受け取り、男女に別れてそれぞれの部屋へと入る。
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