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フィアナ騎士団・入団篇
30話『誇りは運命を食らう牙』
しおりを挟む沸き立つは、数十人の歓声。
それは、この地を揺らした。
みなは手をかち上げ、この勝敗に興奮している。
自分達の団長が、見ず知らずの奴に負けたのに、だ。
そこから思うにこの結果は、余程番狂わせらしい。
いや、それもそうか……。自分だって勝てるとは、微塵も思ってなかったのだ。
ならば、他人がそう思う道理など無い。
そして本来この様な場面では、観衆にファンサをするべきなのだろうが、今はそれよりも、するべき事がある。
それは、筋肉の繊維から細胞まで、全てが動けなくなっているエマの呪いを、今直ぐに解除することだ。
「今、解除しますね。解呪」
転生している最中の暗闇で、僕は魔法も習っていた。
だからこそ僕は、やろうと思えば魔法を、幾つか使うことが出来るのだ。
まぁ……僕の魔力が低過ぎて、指輪無しでは魔法を使うことが出来ないが……。
そのため僕は、指輪を通して解呪の魔法を使ったのだ。
呪いが解除され動きを取り戻したエマは、その反動からか尻餅を着き、可愛らしくあんぐりしている。
「エマさん、立てますか?」
「あ、あぁ……ありがとう」
そう言って僕が手を差し伸べると、エマはその手を取って立ち上がり、そっと微笑む。
「ハルトは魔法だけでなく、剣も強いのだなっ!」
僕は今までの人生で、一回も剣を使ったことが無い。
それはもちろん、魔法とて同じことだ。
それなのにエマは、僕のことを強いと言った。
エマが言う強いが本当なのだとすれば、それはこの指輪の力であり僕の力では無いのだ。
しかし僕はこの世界で生きていくために、ズルだろうが何だろうが、強く無くてはならない。
だからこそ僕はエマに、こう言うのだ。
「うへへ……それなら良かったです!」
と、少しの後ろめたさを残しながら……。
だがそんな僕の後ろめたさなど、他の人にとっては何のこともないのだ。
ならばこそ、絶えぬ興奮を抑えきれない観衆は、被曝の如く勢いで、二人の方へと飛び込んでくる。
『凄いね! 姫Tのお兄ちゃん!』
それは、志学もいかないであろう少年の言葉。
その少年も騎士団の制服に身を包み、僕の身体に飛び付いて来ては、ニコリと微笑んでいる。
こんな小さい子も、騎士団に入って戦うのか……。
そう思うと何だか、心が苦しくなる。
しかし僕の気持ちとは裏腹に、辺りからは楽しげにしているみんなからの、賞賛の言葉が聞こえてくるのだ。
『ホントだぜ! まさか団長に勝っちまうとは!』
『あんちゃんの神器もスゲェな!!』
『よっ! 流石は姫Tの使徒!』
何だか複雑だなぁ……。
僕は自分の頬をポリポリとかいた。
しかしそのとき、アキレウス達に囲まれて居たエマが僕の方に駆け寄り、その手を取って言う。
「ハルト。賞賛と言うのは、勝者だけの権利だ。そしてそれを受け取るのは、勝者の義務でもある。ならばこそ、勝者足り得た自分を誇れ。その誇りは何時か、運命に食らいつく鋭い牙へと、変わるのだから……」
勝者足り得た自分を誇れ……。
誇りは運命に食らいつく、鋭い牙へと変わる……。
ハハッ、エマさんには敵わないなぁ……。
──カッコよ過ぎるだろ。
「はいっ!」
「うむ、いい返事だ!」
僕の返答に満足した様子のエマ。
エマはニコリと微笑むと、握っている僕の手を、勢いよく空に向けて挙げたのだった……。
そうして自分の強さを証明した僕は、エマの推薦も合ってフィアナ騎士団へと入団し。
そして・・・今日の夜に王都で行われる、第五階層突破を祝した宴まで、仲間と交流を深めていたのであった。
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