上 下
29 / 40
フィアナ騎士団・入団篇

29話『模擬試合』

しおりを挟む

 僕の周りには……
 
 ──アキレウスが
「ハルト! 頑張るっすよ!」

 ──プロメテウスが
「全力で応援してるからねー!」

 ──アルテミスさんが
「余に力を魅せてみよ、ハルト」

 ──ヘファイストスさんが
「お主が勝てたら飯を奢ってやるぞー!」

 ──他の騎士団員が
『祭りだあああああ!!うおおおおおおおお!!!』

 祭り気分で騒いで居た。
 
 他の騎士団員は、緑と白がベースの格好の良い制服を身に付けており。
 制服には紫で、剣と盾の刺繍が入っている。

(制服カッコイイなぁ……って! それどころじゃないよ!!)
 
 そうだ、それどころじゃないのだ。
 何故なら僕の目の前には今、木剣を装備し意気揚々と準備体操をしている、エマが居るのだから……。
 
 エマは身体を後ろに反らすとグッと元に戻し、キリッとした表情で僕のことを見る。

「んっ……よい、しょっと! ハルト、手合わせの準備は出来たか?」
 
「えぇ……本当に、やるんですか? エマさん、今ワンピースですよ?」

「なに、大丈夫だ。気にすることは無いさ、ちょっとした実力試しだ。ハルトは木剣と、その神器を使って良いぞ」

 僕の右手には木剣が握られている。
 それはエマのと同じ物で、重みがある。

「分かりました……」

「よしっ! アキレウス、掛け声を頼む!」

 丁度後ろの方に居る、副団長・アキレウス。
 エマはアキレウスのことを見て言うと、任されたアキレウスは頷き、掛け声を上げる。

「了解っす! これより我等が最強の団長と、我等が女神ヘラ様の使徒による、模擬試合を開始するっす!」

 響き渡るは、半径二十メートル弱の人の輪模擬決闘場
 やがて、アキレウスが掛け声を上げると、周りを囲んで居る野次馬が、カウントダウンを開始する。

『スリーッ!』

「すぅ……はぁ……」

 深呼吸をした。
 エマは木剣を八相に構え、ワンピースを揺らす。

『ツーッ!』

「神器解放」

 指輪に魔力を流し、木剣をギュッと握る。

『ワンッ!』

魔術の指輪ヘカテイア

 神器を解放し、グッと足を前に出す。

『スタアアアアアアアット!!!』

「うごk……っ!?」

 スタートの合図が終わった、刹那の一瞬。
 僕とエマの距離は縮み、肉薄して来たエマが、その木剣を振り下ろす。
 
 ──速い。
 
 速過ぎてもはや、スローに見える程だ。
 これがいわゆる、走馬灯と言うやつなのか?
 ・・・いいや、違う。
 例えそうだとしても、僕は勝たなくちゃいけない。
 何故なら僕が、──エマを護るのだから!!

「絶対にっ、勝つ!」
 
 僕は身体を右回転させ木剣を避け、エマの首を目掛けて木剣を横に薙ぎ払う。
 しかし、流石はエマだ。
 エマは間合いを見切り、一歩のバックステップで、剣先一寸のところで攻撃を避けた。
 避けたエマは、勢い任せに振った木剣が、自分の首を過ぎるのを確認すると、土を踏み締めて肉薄して来る。

 肉薄して来たエマは素早く剣を縦に振るが、先程の容量で横に避けつつ、今度は腹目掛けての一撃を……。

「なっ!?」

 僕が回避した途端、エマは刃先を横に変え、逆に僕の腹目掛けて薙ぎ払いをしたのだ。
 それを目で確認し身体で理解した僕は、何とか大きく退くことで、攻撃を回避した。

 回避した僕は、木剣を中段に構える。
 エマは地を踏み締め、八相で肉薄して来る。

 縦から横の連続攻撃を、バックステップで避け。
 反撃として、逆袈裟斬りからの回し蹴り。
 しかしエマは、避ける、避ける。
 そしてエマは大きく後ろに退き、地を踏み込んで勢いを付けた飛び込みのまま、木剣を振るう。

「はあああああああああ!!!」
 
 木剣が顔の真横を過ぎったが、何とか避けた。
 畳み掛けて来るエマの袈裟斬りに対し僕は、しゃがみつつ左回転して右側に回避。
 回転の遠心力に身を任せ、腹に一文字斬りする。
 しかしこれもまた、エマに避けられてしまった。
 
 ──だが、これだけでは終わらない。
 
 何故なら僕は、この攻撃がエマに避けられるのを、本能的に理解して居たからだ。
 だからこそ僕はバックステップしたエマ目掛け、更に半回転加えた突きで、畳み掛けることが出来た。
 
 だがその剣先は、──エマに届かない。
 何故ならエマが、剣を叩き落とすことで、僕の突きに対処したからだ。

「ふっ……やるな」
  
 キリッとした目で、ニヤリと笑ったエマ。
 そんな何処か楽しげなエマは、下の方にある木剣を縦に切り上げ。此方の方へと、一歩踏み込んだ。

「くっ……」

 僕は木剣が離れない様にギュッと握り締めると、地面に勢いよく転がり込み、距離を取ることで回避する。
 間断なく肉薄して来るエマを目視し、剣を握っていない左手で体制を取りつつ、すぐさま両手持ちに変更。
 跪く形にはなっているが、頭に当たるスレスレで、エマの攻撃を防御することが出来た。

「ぐぬぬ……」

 重い、凄く重い……。
 振動が剣を伝って、体の髄まで響く様だ……。
 だけど……これはチャンスだ。
 
 何故なら攻撃が重いと言うことは、それだけエマがこの攻撃に対して、体重を乗せている証拠だからだ。
 で、あるからこそ僕は、鍔迫り合いをする為に剣へと込めていた力を、わざと弱める選択を取ったのだ。

「・・・えっ?」
 
 拮抗していた筈の、力のぶつかり合い。
 そこには一種の、バランスの様なものがあった。
 しかしバランスとは、力が拮抗しているからこそ取れるものなのである。
 だがその拮抗は、僕が力を弱めたことで崩壊した。
 そのため、より強い力を込めていたエマは、それに反発するバランスを失い、──体制を崩したのだ。

 しかし、それでは終われない。
 僕は体制を崩したエマの懐に潜り、何とか踏ん張ろうとしているその足を、回転を入れた脚で薙ぎ払う。
 薙ぎ払った僕は急ぎ早に立ち上がると、受け身を取っているエマの隙を見て、右手の人差し指を向ける。

「動くな」

 これは、魔術の指輪ヘカテイアによって成すことが出来る呪言であり、そして、その力は直接的に働くのだ。
 よって、と呪いを掛けられたエマは動けなくなり、それと同時に、この勝敗が決した。

「僕の勝ちです」

『………………』

 動けない様子のエマにそう言ったとき。

『うおおおおおおおおおお!!!!!』
 
 溢れんばかりの歓声が、湧き上がったのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...