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フィアナ騎士団・入団篇

22話『ずっと一緒に居て』

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 用意して貰った部屋への道すがら。
 僕はエマと、二人きりで他愛も無い話をした。

「そー言えばさ。エマのお父さん、凄く優しい人だね」

「あぁ……父上は本当に優しい人だよ。父としても……王としても……」

 そう言ったエマの表情は柔く。
 本当に優しい人なんだなって、そう思った。
 そしてエマは、その言葉を続ける。

「私は小さい頃によく『たまたま人より力を持って生まれたからと、傲慢になってはいけないよ。』と、そう父上から言われていた」

「力って武力のこと?」

「あぁ……それもあるが、一重にそれだけでは無い。王族としての権力も、私が生まれ持った力の一つだ」

 人命の価値とは、平等で合って公平じゃない。
 何故なら人は、平等に命を貰うが、そのが公平じゃないからだ。
 
 それを例えるなら、親ガチャであろうか。
 親が毒親であれば、子の育つ環境が悪く、何かに挑戦する機会すらも得られないのだ。
 そんな毒親の元に生まれてしまった人は、何の価値も得られぬまま大人になり、生きていくのにすら必死になる。
 逆に良い親に生まれれば、例え金が無くとも、良い環境で健全に心身が育ち、何かに挑戦させて貰えるのだ。
 
 要はこの、『育つ環境』と『得られる機会』の差が、人は生まれながらにして不公平であり。
 そしてエマは、それら全てがある王族に、生まれただけなのである。
 であるからこそ、エマはこの様な思考をする。

「力とは他人を陥れる為にあるのではなく、大切な誰かを護る為に合る。だからこそ私は……」

 ──現在いま、力を持って生まれたのだ。

「そっか……エマさんは、強いんだね」

「そうだな……そうでなくては困る。私達は、背負ってるものが大き過ぎるからな……」

 アハハと、誤魔化す様に笑うエマ。
 そんな、エマの痛々しい笑みは見て居られ無くて、柄でも無いことを僕は、言ってしまった。

「大丈夫っ! エマさんが辛くなったときは、僕がその背中を支えるから! だってきっとそれが、僕がヘラ様の使徒になった理由だから!!」

 ふんすっ!
 そう堂々としている僕と、真っ赤な顔のエマ。
 そんな照れてる様子のエマは、唇を尖らせながら、モジモジとして言う。

「ハ、ハルトは……誰にでもその様なことを言うのか?」

 僕のことを上目遣いで、チラチラと見るエマが愛おしくて堪らないが、それはどーゆー意味だろうか?

「ん? 別に誰にでもは言わないけど?」

「ふっ、ふーん……そ、そうか……ふーん……」

 何だろうかこの反応。
 親にリオンT見せたときのあの、
「ふっ、ふーん……陽翔は、そーゆーのが好きなのね……ふーん……」
 みたいな感じがする!!
 いやっ、よく分からないけど!!

「う、うん……」

 そんな、何処か気まずい雰囲気になったとき。僕達はその目的地へと、着いていた。

「着いたな。此処がハルトの部屋だ。好きに使って貰って構わない」

「うんっ、ありがとう!」

「あぁ。部屋の中に呼び鈴があるから、何か合ったらそれを使うと良い。私が直ぐに対応しよう」

「はーい!」

「それじゃあゆっくり休んでくれ」

「またね!」

 ──ガチャリ。
 僕は手を振り、部屋の中に入った。

◆◆◆
  
 部屋の中には、幾つかの家具がある。
 ソファーにテーブル。フカフカベッドに、照明と呼び鈴と思わしき鈴。

「あ、トイレもある……異世界にもトイレあるんだ……」

 いや、オタクが居てトイレが無い訳ないか……。
 それだけ文明が進んでいるのだから、トイレくらい合って当然とも言える。

「にしても、今日は色々なことが合って疲れた……」

 疲れが身体に出てきた僕が、フカフカベッドに飛び込もうとした、そのときだった。

 ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク…………
 
 心臓の鼓動が急激に高鳴り、まるで、脳と心臓が引き千切られている様な痛みが、この身に襲ったのだ。

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"~─ーー~~──っっ!! イ"タ"イ"イ"タ"イ"イ"タ"イ"イ"タ"イ"イ"タ"イ"」

 頭と胸を抑えながら身悶える、そんな僕の目と耳から血が吹き出し、その血が服と部屋中に染みていく。
 身体がテーブルに、ソファーに、フカフカベッドにぶつかっていった。

 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい…………

「~~ーー───~─ーー~~ーーーっ!!!!」

 苦しみを叫ぶ、痛々しい声。
 
 そんな声の裏側には……
 痛み。苦しみ。悲しみ。憂い。切なさ。
 そして……『寂しさ』が合った。

 な思い出が蘇ってくる。
 ──と初めて逢った思い出。
 ──を初めて抱き抱えた思い出。
 ──と初めて話した思い出。
 ──を初めて可愛いと思った思い出。

 エマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマエマ…………

 ──エマと、会いたい。

「はぁっはぁっ、あ"あ"あ"あ"あ"~~──ー!!!」

 立ち上がった。立ち上がって狂乱した。
 身体のあちこちが、壁に殴り打たれる。
 いや……正確には自分から、壁にぶつかったのだ。
 何故ならその痛みが、体内から感じる痛みを、少しだけ紛らわせてくれるから……。
 
 痛みで痛みを中和する。
 そんな地獄で僕は、『エマに会いたい』と、それだけを心の中で願いながら、また床に倒れていた。
 自分が自分で居ることが出来ず、僕が血走った目で悲痛を喘いでいると、一筋の声が聞こえたのだ。

「ハルトッ!?」

 それは僕が求めて止まなかった、エマの声だった。
 僕の叫喚を聞いて、引き返して来たであろうエマ。
 そんなエマは、僕の凄惨たる光景を見て、此方へと歩み寄って来てくれたのだ。
 僕の為にわざわざ戻って来てくれて、しかも、僕に同情して悲しんでくれている。
 僕にはそれが、心底嬉しかった。

「大丈夫かハルト!!」

 倒れている僕の頭を、エマが抱き抱えたそのとき。
 僕の心身を犯していた悲痛が、全て引いていった。

「もう大丈夫だっ! 私が今、楽にして…………」

 エマの手をぎゅっと握った僕は、
 心とも無く、哀願の言葉を言っていた。

「エマ…………ずっと、一緒に居て………………」

 そう言って涙を流した僕は、
 安らかな眠りへと、ついていたのだった。
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