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フィアナ騎士団・入団篇
16話『魂夢』
しおりを挟む私は白い夢を見た。
とっても切ない、女の子の夢。
その女の子は、歪んで誰か分からない顔を見て、ただ独りで泣いていた。
「何で泣いているの?」
私がそう聞くと、女の子はか細い声で答えた。
『私が私の王子様を殺しちゃったの……』
意味が分からなかった。
だって、そうだろう?
こんな小さな女の子に、背の高い男性を殺せる筈が無いのだから。
ポツポツと涙が、白の空間に弾ける。
そんな、泣いている女の子の頭を撫でようと、私が女の子の頭に触れた瞬間。
──私は溺れた。
辺りには、蒼い空間が広がり。
私は、蒼い空間に沈殿していく。
溺れている私には、感触が無く、溺れていると言うのに息が苦しく無い。
ゴボコボゴボ……。
吐いた息が、水泡になって上昇していく。
──本当に、水の中みたいだ。
そう思ったとき、私の視界が暗転し。女の子の記憶の様なものが、主観として脳内再生された。
◆◆◆
視界に光が灯る。
──ここは、何処だろうか?
見た事の無い建物と、顔の無い男性が居る。
その顔の無い男性は、深く礼をし、手紙の様なモノを差し出してきた。
『──のことが好きです!! 付き合ってください!!』
これは、告白と言う奴だろうか?
しかしなぁ……知らない人と婚約するつもりは……。
おや? 視点が左右に揺れる……これはどう言う……。
『ーーーー ・・ ー・・・ー ・ー・ー・ ・ー・ ー・ー・ー ・ー …………』
ん? 私は何て言っているんだ?
『ー・ー ー・ ーー・ー・ ー・ー・ ー・・・ ーーー・ー ・・ ・ーー・ ・・ー・・ ーーー・ー ー・ー・・ ・ー・ ーー・・ー ・・ー・・ ・ー・・ ・・ ・ー ー・ーー・ ・ー・ー・ ・ー・ーー ・・ ーーー・ー 』
いや、ホントになんて言っているんだ!?
しかも、目の前の男性が悲しそうにしてるし……。
『そ、そうですか……ぼ、僕…………応援しています。だからそのぉ……泣かないで、ください………………』
ん? 私は今、泣いているのか?
よく分からないな……。
何だ? また視界が暗転し…………
◆◆◆
視界に光が灯る。
ここは……家、か…………?
『──……まだ、あのことを引き摺っているの? もう良い歳になったんだから、新しい人を見つけなさいな……』
顔にモヤが掛かっててよく見れない……。
私は、誰に諭されているのだろうか……?
・・・おや? 誰か男性がやって来たぞ。
この男性にも、モヤが掛かって見える……。
『まぁまぁ……良いじゃないか。これは、──。この子の人生だよ? 見守って上げようじゃないか』
ほう? 良い事を言うでは無いか。
確かにその通、り……だ…………
『パパは黙ってて!!』
女性に首トンされ、男性が無様に倒れる。
『グハッ!!』
えぇ……(困惑)
この女性恐いな……。
と、また視界が暗転するのか……。
◆◆◆
視界に光が灯る。
ここは……何処だ……?
視界がボヤけて見えない……。
『・ー・・・ ・ー・・ ーー・ーー ー・ー・ー ・ー・ー・ ………………』
ん? 視界に何かの影が……。
あれ? 視界が、晴れた……?
視界が晴れた視界には、たくさんの花と一緒に箱に入っている、──誰かが写った。
その誰かの顔にも、モヤが掛かっている。
しかし何故か私は、この人の顔が優しくて、安らかな表情なのだと、そう思ったのだ。
そう思った私の心は、寂しくなった、切なくなった、そして、──悲しくなった。
それが何故なのかは、見当もつかない。
だが私は、心が締め付けられるような、ある種懐かしさのある感情に、苛まれたのだ。
やがて視界が動くと、黒の服に身を包んだ、沢山の人が静かに私を見ていた。
何故こんなにも懐かしくて、苦しいのだろう……。
そう思った私の視界は、暗転した。
◆◆◆
視界には闇が灯る。
何も見えやしないし、何も感じない。
まるで、「死」。──無である。
そんな無の中で、一つの想いが私に犇めくのだ。
──来世は、あの人と結ばれたい……。
──あの人に、相応しくなりたい……。
──だってあの日のことが、忘れられないから……。
と、儚い胡蝶の夢を叫んで……。
やがて、そんな儚い想いが締め括られると、白い姿の女の子が現れ。──破裂した。
視界が黒から赤に変わった空間。
そんな空間に、女の人の声が響く。
『一人の殿方のことだけを想って、その生涯を純血のままで過ごすなんて……なんて、純愛なのかしら!! まるで私のようだわ!!』
別に私は、誰かのことを想ったことは無いのだが……。
しかもまるで、私が死んだみたいな言い方では無いか。
『だからね! 本当は死んだ人間が、冥界に行かないといけないところを、特別に転生させてあげるわ!!』
死んだ人間……?
冥界……?
転生……?
よく分からないな……。
どういうことだろうか?
『しかもね!! 貴方の大好きな、お……う……くぁw背drftgyふじこlp;@:「」』
っ!? ど、どうしたのだ?!
声が声で無く、音に変わったとき。
大地が、この空間が、──揺れた。
揺れの反動は凄まじく、視点がグラグラ揺れる。
空間の端側から崩壊が始まり、地割れが起きた。
やがてその地割れは、動くことの出来ない私のところまで到達し、私のことを深くへと飲み込む。
落下している筈なのに……。
何処か、宙を舞っている様だ。
上向きで落ちる私の目には、一筋の光が映り。
宙を舞う私は、──その意識を手放していた。
◆◆◆
音が聞こえる。
それはもう五月蝿い音だ。
しかし、そんな五月蝿いだけの音は、やがて、五月蝿い声へと変換されていった。
耳がピクリと動く感覚。
その感覚と共に、瞳に光が宿った。
重たい瞼を何とか開け、ボヤけた意識の中で、辺りを見回しながら誰かに情報を求める。
「んっ……ここは……?」
私の身体は謎の浮遊感があり、ボヤけた視界の奥に、優しい顔の男性が写った。
その男性は、私を見下ろす様に微笑み掛ける。
「おはようございます、エマさん。ここはダンジョンの外ですよ」
エマ……さん?
何故私の名前を知っているのだろうか?
何処かで見た様な気がするのだが……ダメだ、何も思い出せない。
しかしこれは、私の視界がボヤけているから、認識出来ていないだけなのだ。
そう思った私は、手で目を擦りながら、取り敢えず挨拶への返答をした。
「そ、そうか……おはよう」
陽の光で眩しく、私が目を細めて言うと、その男性は真顔で私のことを見詰める。
ど、どうしたのだろうか……?
そう不思議に思ったとき、ボヤけていた視界が、鮮明に映りだした。
この男性は、私のことを助けてくれた人……か?
それに、この温もりが何だか優しくて。匂いが、何処か懐かしくて。心が、──安心する。
本能に任せ、彼の服に顔を埋めると。
そこには、私の顔が在ったのだ……。
私の、顔……?
いや、何故に私の顔?
と、私と見詰め合っていたときだ。
隣から、ヘファイストスさんとアルテミスさんの、何時ものじゃれ合いが聞こえてきた。
──よよよ、余にお姫様抱っこなど……っ! 不敬であるぞヘファイストス!!
──ふぉっふぉっふぉっ。それは、すまぬことをしたのお
──余を離すのじゃ戯け!!
──仕方無いのお……?
──でもまぁ、なんだ……。ここまで運んでくれたことは感謝するぞ、ヘファイストス……。
──アルテミスは律義じゃのお……。
そんなセリフと共に、歓声が聞こえてくる。
そのことに、心底微笑ましく思っていると、私自身がとある事実に気づいたのだ。
(・・・あれ? もしかしてこれ、私もお姫様抱っこされて居るのでは無いだろうか?)
そう思った瞬間、様々な情報が脳を巡った。
私の身体の、謎の浮遊感に。包まれている様な、そんな温もりに。
そして、──私と彼の身体が密着している現実。
私は今、名前も知らない男性に抱き抱えられ。
あまつさえ私は、そんな男性の匂いを嗅いで、安心していたと言うのか……?
恥じらい故に、身体が火照り。
私の顔を、熱で赤く染め上げた。
そんな顔を真っ赤にした私は、彼の服をぎゅっと握って知らせ。彼の目を見て言う。
「すまない……そのぉ……下ろして貰えないだろうか」
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