10 / 40
フィアナ騎士団・入団篇
10話『自己紹介』
しおりを挟む僕はその言葉に頷き、他の三人が居る方へと向かうヘファイストスさんに着いて行った。
三人の方に僕が近づくと、今なお寝ている彼女以外の二人が立ち上がり、その警戒心を剥き出しにする。
け、警戒を解かなければ……。
「こ、こんにちは~…………」
うっ……何とも言えない視線が突き刺さる。
手を振っても、誰一人として返してくれない。
ヘファイストスさんは胡座をかいて、自分の足に眠っている美人を寝かせてるし……。
(こりゃ駄目だ。オワタ)
と、そんなことを思ったときだ。
たじろんでいる僕に、生暖かい目線を向けるヘファイストスさんから、救いの手が差し伸べられたのだ。
「そう警戒しなくても良い。さっき回復したじゃろ? あれはコヤツの超治癒魔法じゃよ」
「そ、そうなんですか……? さっきから気になっては居たんですが、良かったぁ……敵では無さそうですね」
ホッ、と胸を撫で下ろす不死鳥系女の子。
にしてもこの娘、凄くボーイッシュな感じだ。
「そうです! 僕は敵じゃなくて、貴方達の味方です! なので、そんなに睨み付けないでください……」
そうなのだ。
たった一人だけ、金髪碧眼のイケメンが、未だ警戒心を顕にしているのだ。
「確かにアクスレピオスは、仲間と思ってる者に対する治癒魔法っすけど。初対面で仲間って、洗脳でそう思ってるだけとかじゃないんすか? そもそも……ここまでどうやって来て、ここにどうやって入ったんすか?」
洗脳、か……ふむ。
それに関してはよく分からないが、他のことは色々含めて話す必要があるだろう。
「大丈夫です。今から全部話します」
僕はこのとき、ヘラ様との話を思い出した。
一つ。──ヘラ様は僕に、四年後までにダンジョンを攻略して、この世界を救って欲しいこと。
そのダンジョンと言うのが、今僕が居る、あのバケモノが居たこの場所なのだろう。
二つ。──ヘラ様は僕に、とある女の子と、この世界を救って欲しいと言ったこと。
その女の子と言うのが、今ダンジョンを攻略していた彼女のことなのだろう。
三つ。──ヘラ様は僕に、沢山の仲間が出来ますよ、と言ったこと。
その仲間と言うのが、彼女を団長と慕って取り巻く、この四人のことなのだろう。
僕は今……
何故、ダンジョンに直接転生したのかも。
──わからない。
何故、彼女がピンチのタイミングで、僕が丁度よく転生して現れたのかも。
──わからない。
それが、ヘラ様の仕組んだことなのかも。
──わからない。
わからない尽くしな、こんな今の僕だけど。
一つだけ、たった一つだけ分かることがある。
(この世界で生き抜く為に、この人達の信頼が必要だ)
人が信頼を得るときに必要なのは、大きく分けて二パターン存在する。
一つ。──契約。
人は取引をするとき、相互的に契約を結ぶことで、取引内容に応じた見返りを保証させる。
そして、その契約と言う形が、「この人と取引をしても大丈夫」と言う、一種の信頼関係になるのだ。
二つ。──自分を知って貰うこと。
人は得体の知れないモノに恐怖し、恐怖したモノに対して排他的になる。
だからこそ人は、互いにコミュニケーションを取ることで相手を知っていき。そして、友達と言う名の、一種の信頼関係になるのだ。
要は相手に……
自分と言う存在を、恐怖の対象では無く。
逆の、安心出来る対象として見て貰えれば良い。
で、あるならばこそ……
僕がやるべきことは一つ。
──自己紹介だ。
そう思い立った僕は、女神様の威光を借りるべく、アニメで見た騎士風の跪くポーズをした。
僕のことを見ている三人の目を、真っ直ぐに見て言う。
「僕の名前は高橋陽翔」
出来る限り凛々しく。
「この度は女神様の意向により、アナタ方と共にダンジョンを攻略する為、異なる世界より馳せ参じました」
やがて、その言葉が終わる。
「この使命を契約の礎に、アナタ方の仲間にして頂きたい」
20
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中


のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる