7 / 40
最強カップル・邂逅篇
7話『女神様と二つの選択肢』
しおりを挟む僕は、久しぶりの登校をしていた。
その通学路が何処か懐かしくて、昔のことを思い出しては、感傷に浸っていた。
しかし同時に、学校に行くことへの不安もあった。
それを紛らわす為に『僕なら大丈夫!!』と、確証も無く自分に言い聞かせていた。
そんな通学路で、とある女の子を見つけた。
その女の子は小学生低学年くらいで、赤信号なのに横断歩道を渡っていたのだ。
『赤信号とか分からないのかな?』 と、そんなことを考えていると、その女の子は走りだして転んだ。
転んで擦ったのか、膝から血が出ていた。
それに対して心配していると、眠そうにウトウトしているトラックが、女の子の方へと走って来たのだ。
そんなトラックを見た女の子は漏らし、精一杯の声で泣き叫び、その恐怖を周りに知らせた。
しかし、周り居る人は誰一人として反応せず、自分には関係無いと言った様子だ。
実際、僕も女の子を心配に思いつつ、心の中では何処か他人事だったのだから。
女の子は、怖くて立ち上がれなくなって居た。
トラックの運転手は、女の子に気づいて居ない様子。
徐々に、女の子とトラックの距離が縮まっていった。
僕がどうすれば良いのかたじろいでいると、あと少しで衝突しそうになった瞬間。
女の子が一言、たった一言。
僕の方を真っ直ぐに見て、恐怖で声が掠れながらも、精一杯な声で言ったのだ。
「お兄ちゃん、たすけて……」
その言葉を聞いた僕は、無意識的に荷物を投げ捨て、女の子の元へと全速力で駆け出していた。
「もう大丈夫だよ」
そう言って助けた僕は、急に曲がって来たトラックに吹き飛ばされ、十八という若さで命を散らしたのであった。
◆◆◆
意識が覚醒した。
視界に知らない天井が映る。
身体にはフカフカとした、温かい感触が……。
どうやら僕は今、ベッドに寝ているらしい。
僕は起き上がると、自分の心臓に手を当て呟く。
「……あれ? 生きてる……?」
僕は死んでしまった、その筈だったのだ……。
しかし僕の心臓は今も、鼓動を鳴らしている。
僕は透明じゃない手を、グーパーと動かしてみた。
普通に手が動くし、動かした感触もちゃんとある。
そして一つ。
手を動かしたときに、気づいたことがある。
(なんで、リオンT着てるんだろう?)
そうなのだ、僕は制服を着て登校をしていた筈。
それなのに、リオンのTシャツを着ているのだ。
しかし今は、他に留意するべき点があった。
それは、僕が寝ていたこの部屋のことである。
「そう言えば……ここ、何処だ?」
呆然とした僕は、辺りを見回した。
ここの感じは、まるで、高級ホテルの部屋だ。
ダブルベッドにソファー、大きなテレビがある。
しかし、それだけだ。
他に、これと言った情報が無い。
無いから、考えようが無い。
きっと誰かが、僕のことを助けてくれたのだ。
そうだ、そうに違いない。
ならば、ここが何処か考えるだけ無駄だ。
「…………もう少し寝よう」
毛布を被って、また寝ようとしたとき。
寝ようとして、横になったとき。
寝っ転がっている美しいお姉さんと、目が合った。
そのお姉さんは、美しい白肌の巨乳で、茶髪のお下げに王冠を被り、白の羽織物を身に付けている。
「また寝ちゃうの? 寝る子は育つと言うものね! 元気に育つのよ?」
あぁ……この人の声、すっごく安心する。
それに、なんて気品溢れる、綺麗な人だろう。
女性が苦手な筈なのに、惚れてしまいそうだ。
(………………ん? いや、待てよ。そもそもさ……なんで、僕の横で寝ているんですかね?)
んんんんんんんんん?????????
「………………ぎゃああああああああ!!!!」
知らない人が僕の横で、しかも、同じベッドで寝っ転がっていることの驚愕。
それに脳がオーバーヒートした僕は、叫び声を出しながら、そのベッドから転げ落ちた。
床に転げ落ちたときにぶつけたのか、頭が痛い。
「いてて…………」
頭を軽く摩ってみる。
タンコブは……無さそうだ。
それにしてもビックリした。
知らない所で知らない女性と寝てるとか、どんなシチュエーションだよ……怖いよ、ホラーだよ。
「あらあら……ホラーとは、失礼しちゃうわね?」
「いや、知らない人と寝てたらホラーで、しょ……?」
んんんんんんんんん?????????
「すうううううう…………なんで、僕の思考が分かったんですかね?」
「神様だから?」
あー、なるほど……神様か。
「そうよ?」
それなら納得……って! な訳あるか!!
いやいやいや、可笑しいから!
知らない人と知らない所で寝てるのも大概だけど、人の心を読む自称神様も可笑しいから!!
「……えっ!? なんで?!」
頭を抑えながら、受け入れ難い現実に、健気にもツッコミを入れていた。
それはもう、盛大な脳内ツッコミだ。
しかし、それを繰り返した今、僕は、とある重大な事実に気づいてしまった。
(ん? そう言えばこの人、僕の心と会話してない?)
「してるわね?」
「なんで僕の思考と会話してるんですかね!?」
「神様だから?」
「あー、なるほど……神様か。それなら納得……って! これさっきもしたよ!! 天丼だよ!!」
「あらあら。これは、一杯取られたわね……天丼だけに!」
「やかましいわ!! いや……でも、それ美味いな……天丼だけに……」
「返してくれるなんて……まさに、丼でん返しな展開ね!」
「「わーはっはっはっはっ!」」
一連の親父ギャグを交わした、僕と女神様。
そんな、理解不能で名状不能な現実に、僕は頭を抱えた。
「死んだと思ったら、僕。なんで、女神様と寒いギャグ連発してるんだろう……」
膝からガクッと崩れ落ちる僕。
そんな僕を見ている女神様はベッドに腰を掛けており、右頬に右手を添え、微笑んでいる。
「まぁまぁ……そーゆー日もあるわよ? ね?」
「はぁ……? あ、そー言えば何ですが……どうして僕を女神様が、ココに呼んだんですか?」
そう言えばそうだ……。
色々なことが合って忘れていたが、どうして僕は、女神様の元に居るのだろうか?
薄らとだが……自分が死んだことは、覚えている。
そして今、僕の目の前に居る、女神様と言う存在だ。
それらの要素から推測するに、本当に今更だが、ココは死後の世界だろう。
次いでに言えば、仏教だと、死んだ後は閻魔大王様の所に行って、死後の裁判をするのだとか……。
つまり僕は、本当に恐らくだが……天国行きか地獄行きかを決める、そんな、重要な局面に居るのかも知れない。
で、あるならば、不敬の無いようにしなければ……どんな所か詳しくは分からないが、地獄には落ちたくない。
「死後の裁判とか……そーゆーの、なんですか?」
「あらあら。私ったら……つい楽しくて、本題を忘れていたわね……」
本題を忘れていた……?
つまり、死後の裁判では無いのか?
「ほ、本題とは、なんでしょうか……?」
僕が恐る恐る聞くと、女神様は穏やかな笑みを浮かべ、トンデモナイことを言い放つ。
「グレースって言う箱庭世界に転生して、とある女の子と世界を救って貰おうかなー……って?」
(グレース? 異世界? とある女の子と世界を救う? いやいやいや……は?)
「じょ、冗談……ですよね?」
ニコーッ!!
女神様の微笑む攻撃!
僕には、(恐怖で)効果は抜群だ!!
魂が抜けそうだ……。
いや……もう死んでるから、魂が抜けるも何も無いか。
「は、はは……は…………みっ」
僕が幽体離脱していると、女神様は困り眉をして、右頬に右手を添える。
「あらあら。仕方ないわね……そんなに嫌なのなら、特別に選択肢を上げましょう!」
この言葉を聞いた僕の魂は、口から体内へと戻り、意識を覚醒させた。
「ほ、本当ですか!? 引き篭っていたものの、最期に善行を行えてて、よ"か"っ"た"ぁ"……」
僕が前世の善行に安堵していると、女神様は二つの大きな看板を、どこからとも無く取り出す。
「そ、それで。選択肢と、言うのは……? ゴクリ……」
僕の言葉にコクリと頷いた女神様が、二つの内、一つ目の看板を前に出すと、絵と文字が浮かび上がった。
「一つ目の選択肢はグレース! チート付きの転生よ!」
看板には「四年後までにダンジョンを十二階層踏破して世界を救う!期限切れで世界滅ぶよ!」、と書いてあり。
絵の方は、白髪赤目の女の子と僕が手を繋いでおり、その周りに四人の人物が描いてある。
そんな、何処か楽しそうな印象を受ける看板だ。
「な、なるほど……? チート付き転生、ですか……。それはそうと女神様。チート付き転生なんて、何処でそんな言葉を覚えたんですか?」
「ふっふっふっ! 神様は暇なのよね、だから色々と人間の文化を学んだのよ! ふんすっ!」
えぇ……(困惑)
チート付き転生とか言う女神様、嫌だなぁ……。
ライトノベルの中だけで合って欲しかった……。
「な、なるほど……それは勉強熱心ですね?」
「でしょー? それじゃあ次の選択肢を出すわね」
可愛らしいドヤり顔の女神様が、二つ目の看板を前に出すと、先程同様に、絵と文字が浮かび上がった。
「じゃじゃーん! レベル一、全裸、遺灰無し、召喚無し、霊薬無し、大ルーン無し、パリィ無し、バク無し、チート無し! エ〇デンリング世界に転生!!」
看板には「次いでに武器縛りで、全ボス討伐! 死んだら死ぬよ!!」、と書かれてあり。
絵の方は、ツ〇ーガードに僕が虐殺されている、グロテスクな風景が描いてある。
ふーん、なるほどね。
レベル一、全裸、遺灰無し、召喚無し、霊薬無し、大ルーン無し、パリィ無し、バク無し、チート無し、蘇生無し、武器縛り全ボス討伐、エ〇デンリングか……ふっ。
「喜んでグレースに行かさせて貰います! 舐めた口きいてすみませんでした!!」
日本人(特に社会人)のお家芸、The土下座。
床に頭を擦り付ける姿は、滑稽でありながらも、何処か美しさすらもあり……。
自分の中に流れる、純粋な日本人の血が、色んな意味で滾っているのを感じた。
マジで無理、絶対無理、死ぬ、百万回死ぬ。
死にゲーに転生して復活無しとか、余裕で来世にお願い自殺するレベル。
ーーー
【世界観ちょい足しコーナー】
○陽翔がリオンTシャツなのは、それが、陽翔の魂に一番根付いている衣服だからです。
エ〇デンリングは簡単に言うと、死にながらストーリーを攻略する言わば死にゲーです。「普通」に攻略しても、死ぬ人は全クリまでに数百回と死にます。そんなゲームで縛りプレイをすんのは、もはや変態と言う名の神です。人間やめてます。そんな世界に転生したい人は、いな……いないよな…………?
〇以下茶番
『死にゲー博士』
読者のみんな。ここに三つの選択肢がおるじゃろ?この三つの選択肢の中から好きな転生先を一つ選ぶんじゃぞ?
と、言いたいところなんじゃが、一つはもう選ばれてしまってのぉ……この二つで我慢して欲しいのじゃー
①無理ゲー転生:エ〇デンリング
【特徴】レベル一、全裸、遺灰無し、召喚無し、霊薬無し、大ルーン無し、パリィ無し、バク無し、チート無し、蘇生無し、武器縛り全ボス討伐。
②最凶ゲー転生:S〇KIRO
【特徴】忍具禁止、回生禁止、アイテム禁止、生命力&攻め力初期値縛り、バク無し、チート無し、蘇生無し、全ボス討伐。
『死にゲー博士』
ワシのオススメは②じゃよー
※その後の人生は保障しないものとする
13
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中

冒険者学園の落ちこぼれ、異世界人に憑依されて無双する
BIRD
ファンタジー
クラスメイトからいじめられる日々を送る少年アルキオネ。
いじめっ子たちはダンジョン研修の際に、アルキオネに謎の魔法陣の上に立つことを強要する。
それはランダムで変な呪いを付与する魔法陣として知られるものだった。
嫌がるアルキオネがいじめっ子たちに突き飛ばされて魔法陣の上に倒れたとき、魔法陣は輝き、何かが体内に入り込んだ。
『え? ここ何処? まさか異世界転生か?!』
知らない何者かの声が脳内に響く。
同時に、知らない世界の記憶が流れ込んできた。
アルキオネに憑依したのは星野昴流という異世界人で、トラックに轢かれて転生したらしい。
昴流が入り込んで以来、アルキオネは身体の支配権を奪われ、自分の意思とは無関係に行動し、思ってもいないことを喋り、いじめっ子たちを返り討ちにするほど飛び抜けた身体能力や魔法の才能を得ていく。
異世界転生で知らない人の身体に入っちゃった転生者と、それを見守る本来の身体の持ち主。
ダブル視点でお送りします。
※第5回次世代ファンタジーカップにエントリー予定です。
2025.3.1 登場人物紹介とPROLOGUEを公開

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる