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貴方の後追い物語
しおりを挟む「──~ーー~~─ーーっ!!!」
地面に放置され、赤い痣を顔に遺している子どもの、悲痛な叫びが辺りを木霊している。
そんな子どもの横で私は、滂沱の涙を流しながら、恐怖と痛みに慟哭していた。
「い"た"い"い"た"い"い"た"い"っ!!」
脚を、腕を、腹を、胸を。
私に馬乗りしている彼は、抉るように刺している。
口からは唾液が、目からは涙が、股間からは尿が、傷口からは血肉が、溢れ出てきた。
返り血を浴びている彼の表情は怖く、私の知っている彼とは違う、別人のようだ。
そんな彼は私のことを刺す度に、内に秘めていた苦痛を吐露している。
「お前がっ、勝手に子どもなんて産むからっ! 僕がっ、どれだけ苦しんだと、思ってるんだ!!」
安物のナイフは皮膚と脂肪を貫通すると、私の弱々しい筋肉を抉り、骨や臓器にまで、その刃が届いた。
「い"た"い"よ"ぉ"!! ゆ"る"し"て"あ"な"た"~──っ!! ──や"め"て"ぇ"ぇ"!!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……………………
「ぁぁ~──~ー──ーーっ!!!」
身体をジタバタさせてみても、叫んでみても、彼は気にせず刺し続ける。
「学校の奴等から虐められたのもっ!! 両親からボコボコに叩かれっ、虐待されたのもっ!! 全部!! お前のせいだ!!」
──お前のせいだ。
そんな言葉が続け様に聞こえ。
その度に、重い痛みが響き渡る。
「…………………………………………」
瞼には雫が溜まり、肺には血と唾が溜まる。
その瞳に光は無く、その肺には空気が無い。
「──~ーー~~─ーーっ!!!」
響き渡るは甲高い声と肉切り音。
女だったモノの視線は、隣で泣き叫んでいる子どもの方へと向いている。
女だったモノの筋肉が痙攣し、その身体がビクンビクンと跳ね上がる。
「お前がっ、生でヤろうなんて誘わなければ! 僕はっ! こんな苦しい想いをっ、しなかったんだっ!! このっ、クソビッチがっ!!!」
抉られる様に刺された傷口から、硬い骨と、傷付き体液を出している腸が露になった。
腸はウネウネとしているソーセージの様で、肌色っぽいそれには、赤い血管が二叉分枝している。
「…………………………………………」
そんな腸の持ち主からは、何の音も聞こえない。
「──~ーー~~─ーーっ!!!」
今もなお、何かを訴えかける音が鳴り響いている。
男は音が鳴り響いている方に、その視線を向けた。
「…………………………………………」
何も言わずに、ただ、そちらの方を見詰めていた。
そんな男はボロボロになったナイフを捨てると、その歩を音の方へと進める。
「お前も、可哀想だよね……こんなところに生まれた落ちちゃってさ……」
男は間断なく泣き叫ぶ音の管に、優しく手を掛ける。
「本当ならさ……もっと普通に過ごして成長して、普通に恋して親になって、普通に生きて死ぬ筈だったのに……」
優しく掛けていた手を、徐々に締め上げていく。
「ぇぅっ、ぇぅっ、ぇぅっ………………」
「僕なんかがパパで、ゴメンなぁ……」
──グキッ。
管の割れる音がした。
長い長い静寂が訪れる。
『………………………………………………』
男の手には生々しい感触が遺り、バタバタと抵抗をしていた音は力を失い、忽然としている。
やがて、長い様で短い静寂を終えた。
男の虚ろな瞳からはポツポツとした雫が滴り落ち、柔い肉へと弾け消えゆく。
「………………………………………………」
男は立ち上がると、先程捨てたボロボロなナイフを手に拾い上げ、咽喉に当てて微笑んだ。
「…………二人は、天国で仲良くしてね」
男は、咽喉に当てたナイフを、横にスライスする。
ボロボロなナイフに切れ味は無く、刃こぼれしたギザギザが肉を抉り取るだけ。
男はこれを、何度も繰り返した。
何度も何度も何度も……繰り返す度に、名状し難い声にならない音を上げる。
やがて首から血飛沫が飛び散ると倒れ際に、彼は優しい瞳でそっと呟いた。
「来世では……こんな男に、捕まらないでね…………○○さようなら…………………………………………」
辺りには赤黒い川が出来ている。
しかしそれは、ポツリ、ポツリと降ってきた雨に、溶けて消えていった。
エンディングは、重々しい程の豪雨が、三人の死体を打ち付けている。
エンドロールは、大きく載って流れる、私と子どもの名前の後を追う様に、彼の名前が小さく載っている。
やがてエンディングを終えると、三人の命が、暗く昏い闇へと飽和していた。
私と貴方の後追い物語ーfinー
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