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でも、ずっと一緒じゃけぇの
しおりを挟む無気力な私は、建物の残骸を無造作に退けていった。
それが通路の邪魔になろうと、知った所では無い。
私とのりちゃんだけが生きていれば、それで良い。
他人が死のうが、私にはどうでも良かったのだ。
だから私は、建物の残骸を退けては適当に投げ捨てた。
のりちゃんの體が全部出ると、私は経験したことのないような激しい吐き気に襲われた。
「うっ、う"ぉ"え"ぇ"ぇ"……けほっごほっ……はぁあああああ…………う"ぉ"え"ぇ"ぇ"」
のりちゃんは、私の知ってる姿をしていなかった。
──頭は潰れ、可愛かった顔面が変形していた。
──骨が折れ、青紫の腕が真反対に曲がっていた。
──腹は割れ、體から潰れた臓器が出てきた。
この時、私は初めて友達の死を実感したのだ。
──私の目からは涙が出てきた。
──私の口からは嗚咽が漏れてきた。
──私の心からは後悔が溢れてきた。
この時、私は初めて運命を呪いながら泣き叫んだ。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!のりちゃんはうちが殺したんじゃあ"あ"あ"あ"!!!!!!」
木霊するは友達の死への悲しみと、私がのりちゃんを殺したことへの自責の念だった。
この時私は、涙と共にのりちゃんとの思い出までもが溢れ落ちるのではないかと思った。
そのくらいの喪失感。
のりちゃんとの思い出は作れなくなって、その上、のりちゃんとの思い出が無くなる。
そんなことを考えた私の脳裏に、小さい頃の二人のワンシーンが過ぎった。
それは太平洋戦争が始まる一日前。
「ずっと……一緒じゃけぇの…………」
その時の言葉を呟いた私が口を震わせながらのりちゃんを抱き締めると、微かな声でそっと呟いた。
「でも、ずっと一緒じゃけぇの…………」
のりちゃんは、この日死んだ。
──胸がズキズキと痛んで。
──喉がカラカラと乾いて。
身体が焼けるように痛かった。
でも安子の心の中にうちが居る……そう思うとなんだか、すっと軽くなった。
私達はこれからも、ずっと一緒だ。
―――
それからの事はあまり覚えていない。
だから私が語れるのはここまでだ。
これは安子による、うちの物語。
そして……安子による、うちへの自戒の物語だ。
題名:たった一人の友達
著者:典子(本名:安子)
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