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木崎洋明、28歳、男。
しおりを挟む異世界トリップというものを聞いたことがある。
異世界へ飛ばされると何でもない高校生や大学生が世界を救う勇者になれたり、民衆を助ける神子と呼ばれる尊い存在になったり出来るらしい。
が、当然何者にもなれないパターンもある。
「キサキ!そっち終わったら二番レーンの補助を頼む!」
「……うっす」
平べったい鉄板を更に薄く削り、それを箱に入れまた別のレーンへ流す。これがこの世界での俺の仕事。俺は自ら削り出したこの薄い鉄のプレートが最終的に何に使われるかもよくわかっていない。が、特に考えることもしない。とにかくこれを決められた時間までに決められた数作成して、余裕があれば別のパーツの作成の補助に付いたりもする。
そもそも俺は高校生でも大学生でもない。
木崎洋明。年齢28歳、男。地球では自動車製造の工場に勤めていた。
そんで三ヶ月程前に気付いたら地球ではないこの世界に飛ばされていた。
「……腹減った」
一日のノルマをこなし、序でに一時間の残業。
帰宅して自炊する気などさらさら無いので、帰り道に鶏っぽい生き物の串焼き五本と香草炒飯を買って家路につく。
こっちの酒はかなり度数が高いので休みの前しか飲めない。残念ながら明日も朝から仕事なので赤草の茶を注いで我慢する。
串焼きは既に冷めていて味気なく二本食べたところで食べる気が失せた。
ガラリと窓を開ければ生温い風が頬を撫でて微妙に不快だった。もしかしたら雨が降るのかもしれない。
作業着の胸ポケットに入れっぱなしになっていた煙草を取り出し火を付ける。揺れる紫煙の動きもどことなく重い気がする。
どれくらいそうしていたのか灰皿に吸殻が4本溜まる頃、けたたましい音をたてながら玄関が開かれて思わず舌打ち。家主が帰ってきた様だ。
「あ゛~~ダリィな、どいつもこいつも俺を苛立たせやがる」
服を脱ぎ散らかしながら上半身裸で部屋に入って来たこの家の主。こいつが帰って来ただけで部屋の温度が数度上がった気がする。
鍛え上げられた鋼のような肉体はまるで灼熱の溶岩石のようだ。ギラギラとした琥珀色の瞳に鬣のようなグレーアッシュの髪。伸びて来た太い手が俺が残していた串焼きを奪い取り齧り付く。その瞬間見えた犬歯の鋭さにちょっと引く。
「お前ンな質素な飯で身体保つのかよ。外食い行くぞ」
「いや、焼飯も食ったしもう腹一杯。疲れたし寝る」
「疲れたって一日鉄削ってるだけだろうが。どこに体力つかってんだ」
「獣人と人間じゃ体力が違えんだよ。どけ、シャワー浴びる」
変なスイッチが入る前に押し退けようとして失敗した。そのまま腕を掴まれて気付けば天井を見上げていた。
「やめろ!せめて風呂、」
「だからいいんだろうが。お前の匂い嗅がせろよ」
「痛ッ…いやだって!」
作業着のジッパーを下ろされてデカイ手が無遠慮に素肌を撫で回す。いつの間に手にしたのかローションを纏った指が性急に体内に侵入して来ようとして喉の奥から声にならない声が出た。
「おま、ふざけんな、明日も仕事なんだぞ」
「あー?先っぽだけ、先っぽだけ」
「それでも十分デカイから無理だっつの!」
「オイオイ煽ってんのか?」
分厚い舌に首筋を舐め回され、謎の緊張感がある。先程見た鋭利な犬歯、こいつが気紛れに噛み付くだけで俺は容易く絶命する。
「やめ、んン…っ……!」
「下の口のが素直だな。俺の指にキュゥーっと吸い付いてんの自分で解るか?」
「ッ、押し出そうとしてんだよ!」
「もう一本増やすぞ。ちゃんと息しろよ」
「ひぐッ」
すっかり開発された身体は男の言う通り嬉しそうに太い指にしゃぶりつく。俺より俺の身体を知り尽くした指は尻の奥の弱いところを的確に捏ね回し、俺はガクガクと体を震わせながらイッていた。
「相っ変わらずエロい身体だな、お前職場でマワされたりしてねェだろうな?」
「ァ、は……っ、ンん……」
「挿れンぞ」
「ーーーーーッッ!!!」
眼前に星が散る。
嗚呼、何でこんなことになったんだったか。
全ては俺がこの男の上に落・ち・てしまったことが運の尽き。
そもそも俺の方には落ちたという認識も記憶もない。漫画や映画でよくあるトンネルをくぐったらとか塀を飛び越えたらとかああいうの。
あの日は普通に仕事から帰って、シャワー浴びて、缶ビールを一本だけ空けて普通に就寝した。そんで、起きたらこの男の身体の上に寝そべっていたのだ。
夢かと思った。女ならまだしも、自分より遥かにガタイのいい国籍不明の男のベッドにいるなど。治安が悪く偏差値の低い高校出身の俺は学生時代それなりに喧嘩もしたがこの男はそういうレベルではない。ワンパンで殺られる。というか、どういう状況なんだこれは。俺は缶ビール一本で記憶をなくすほど酔ったとでもいうのか?
そうこうしていたら男が起き、俺たちは暫く無言で見つめ合った。目を逸らしたら殺されると思った。野生動物と対峙したらこんな感じだろうか、現実逃避。
先に動いたのは男だった。
「テメーどっから入って来た?……まあどうでもいい。据え膳食わぬは男の恥。テメェがどこの誰かは後からゆっくり聞いてやるよ」
デカイ手に尻を鷲掴まれて着ていたスウェットを脱がされそうになる。男にそういう対象として見られたのは初めてのことだった。いや、初めてでもねェか。じゃなくて。
「ま、待て!お前の家に勝手に入ったことは悪かった!でも俺も俺がなんでここにいるかわからねェんだよ!」
俺は必死だった。何故なら男の手は既にスウェットどころかボクサーパンツまで脱がし直接尻を揉んでいたからだ。
「覚えてない、だァ?」
「ッ、本当に覚えてない、ちょ、どこ触ってんだよ」
「……そういやお前匂い薄いな。まさかニンゲンか?」
「は、当たり前ッ……だから触るなって!」
前の彼女と別れて二年、仕事も忙しくそう言えば随分とご無沙汰だった。男の乱暴な愛撫で兆し始めた己のモノに絶望していたら、ものすごい力で抱えられ視界が反転した。
「へ、」
気付けば布団に肘を付き、腰だけを高く上げるような態勢を取らされていて顔を蒼褪めさせる。こ、このままじゃ掘られる……。
「無理だ!オイ!頼む話を聞いてくれ!」
「……いくら俺でも処女のケツにいきなり挿れたりしねェよ。太腿締めろ」
「ひ、」
足と足の間にヌルりと男のモノが入って、そしてまた出て行く。熱、てかデカ、太……じゃなくて、何で俺は初めて会った男に素股させられてんだ?
「あ、ぁ、ァ、」
男のモノと俺のが擦れて、正直、よかった。
結局そのままイカされて、布団を汚した事で何故か俺が怒られて、下半身裸のままここが地球ではなく、所謂異世界だということを教えられた。
最初はこの男薬でもキメてんのかと疑ったが、何と男には人間の耳がなかった。かわりに男の頭頂部に生えていたのはフサフサとした灰色の毛の生えた犬のような耳。薬キメてんのは男じゃなくて俺の方か?と己を疑ったが、日が昇り街の様子を目の当たりにしてここが日本ではないと信じざるを得なかった。
石畳で舗装された道に煉瓦造りの建物が並ぶ。車なんてものはなく、街を行き交う連中の誰も彼もに何かしらの耳やら尻尾、はたまた背中に羽なんかが付いている。
俺はこういうファンタジーな世界とは縁遠い生活を送ってきたからイマイチピンと来なかった。
「ニンゲンがこっちに迷い込んで来んのは珍しいことじゃねぇけど、寝込みを襲う何てのは初めて聞いたぜ」
「……襲われたのは俺の方だ」
「めんどくせぇがニンゲンが落ちて来たら大体第一発見者が一時保護と役所での手続きまで済ませるもんなんだけどよ。……めんどくせぇ。めんどくさ過ぎる」
「……その役所?って場所教えてくれたら自分で行く。家に不法侵入したのは悪かった」
「そう言うわけにゃいかねェんだよ。まあいい、俺の名前はアトラス。種族は狼、職種は自警団。お前は」
「……俺は木崎洋明。人間。仕事は、製造業……」
「そいやニンゲンは手先器用ってよく聞くな。どーせ帰る方法なんてねェんだ。仕事の斡旋まで済ましてやるよ」
「は?」
「だから仕事の紹介までやってやるってんだよ。あんまり親切で涙が出るだろ」
「そこじゃねェ。帰れないって、マジか?」
「あ?当たり前だろ。それともお前の国では異世界に行ってましたが何とか帰って来ることが出来ました!なんて失踪者が普通なのかよ」
「……マジか」
こうして唐突に始まった俺の異世界トリップ生活。
アトラスはめんどくせぇと言いながらも役所で俺に関する全ての手続きを済ませ、本当に仕事の斡旋までしてくれたのだ。が、これには大いに問題があった。
後から聞いた話だが落ちてきた人間は申請すれば国が提供する住居に暮らすことが出来るらしい。だが、何を思ったのかアトラスは俺の居住先に自らの住所を登録したのである。それどころか家族登録までして、俺は正式にアトラスの保護下というより家族ということになってしまっていた。
一体どう言うことなんだとアトラスに問いただせば「俺ァ、俺が拾ったモンが他人の手に渡るのが我慢ならねェんだよ」と吠えられた。意味がわからねェ。
意味はわからんがアトラスはこの世界で中々の高給取りらしく、生活に文句はなかった。なにしろ生活費から食費まで兎に角俺に掛かる全ての費用はアトラス持ちである。なんなら有難いとも言えるが当然無償で提供されるわけではない。
「あ、あ、待ッ…イきそ……ッ」
「後ろだけでイってみろ。見ててやるから」
「嫌だ、ァ、あぁッ……!!」
暮らし始めて一日目で尻に指突っ込まれ一ヶ月かけゆっくり尻の穴を拡張され、三ヶ月経った今では何とケツだけでイける様になってしまった。学生時代、抱いてくれと男に迫られたことはあったがまさか自分が抱かれる側になろうとは。
「ッ堪んねェなお前」
「そ、こで喋んなァ…ッ」
アトラスはニンゲンの耳に随分とご執心らしい。セックスの度にふやけるほど舐めしゃぶり歯を立て、穴の中まで舌を突っ込んでくる。いつか本当に食われそうだ。最早俺の身体でアトラスに舐められてない場所は存在しない。
獣人という生き物は随分と性欲を持て余してるのか、アトラスは暇さえあれば俺を押し倒し至る所を舐め回し身体を繋げたがる。俺自身は淡白な方だったのだがアトラスのせいですっかり身体を造り変えられてしまった。
アトラスにちょっと触られただけで息が上がり下着を濡らし挿れて欲しいと尻を疼かせる。
爛れた生活だ。が、困ったことに俺はそれが嫌ではない。寧ろ……いや、考えるのはやめよう。
アトラスがこの身体に飽きて捨てられたら、俺はこの体の熱をどう処理して生きていくのだろうか。最近よくそんなことを考えている。
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