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第163話 再びの凱旋

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 ゴドール金山のお膝元の街を通り過ぎ、暫く街道を進んでいた俺達の前方に懐かしいグラベンの街の風景が姿を見せてきた。石壁に囲われたあの街こそ数ヶ月前に俺達が出陣したグラベンの街だ。

 既に先触れの為に配下が先行しており、街の門の前には俺達の帰還を知った出迎えの人達が大勢詰めかけていた。

「義兄さん、グラベンに帰ってきたっすね」

「ああ、ようやく帰ってこれたな」

 俺のすぐ後ろからロドリゴが話しかけてきた。振り返って言葉を返しながらロドリゴの顔を見てみると、グラベンの街が見えて安心したのかほっとした表情を見せている。そういう俺もきっとロドリゴと同じようなほっと一安心の緩んだ表情になってるんだろうな。

 周りを見回してみると、他の連中もグラベンの街がすぐそこに見えて安心したようで和らいだ表情を見せている。久しぶりに見るグラベンの街は俺達を迎え入れる為に出かける時と変わらぬ姿でそこにあった。門付近に集まっている多くの住民達の歓声がここまで聞こえてきている。

「エリオ殿、住民達が我らに向けて大歓声を上げていますぞ」

「ああ、凄い歓声だねラモンさん。エルンを平定して戻って来た時も凄かったが、今回はそれよりも大きいかもね」

 そして俺達はとうとうグラベンの街の門に辿り着いた。門を抜け街の中に入ると中央にある広場まで続く大通りの沿道にはびっしりと住民が押し寄せていて、先頭を進む白い馬に乗り黒い装備で身を固めたひと目見て俺だとわかる姿を見つけると、地の底から湧き上がってくるような大歓声が街中に爆発した。

「うおー、我らのエリオ様の凱旋だ!」
「勝利おめでとうございます!」
「英雄のお帰りだ!」
「皆さんお帰りなさい!」

 街中の住民達が手を大きく振って叫びながら俺達の凱旋を出迎えてくれた。あまりの歓声の凄さに俺の後方に続いている騎馬が驚いて嘶いている。

 そんな中、俺の両脇にいる従魔のコルとマナはしっかりと前方を見据えて堂々とした足取りで住民達の歓喜に満ちた視線を受け止めていた。今更だが、コルとマナは見た目の愛嬌さとは裏腹に何かに臆したり恐れたりするという事がない。相手が武器を持った大勢の屈強そうな兵士でも強い魔獣でも恐れずに立ち向かっていくのだ。本当に頼もしい相棒であり家族でもある。

『コル、マナ。ようやくグラベンの街に帰ってきたな』

『はい、懐かしい匂いがします』
『エリオ様達を出迎える人達が嬉しそうですね』

『そうだな。久しぶりに帰ってきたという感じだよ。それに、俺達が居ない間の数ヶ月でまた新しい建物が増えているようだな。建築中だったあそこの建物は完成して既に人が住んでるようだし』

『本当ですね。僕の知らない新しい建物です』
『あそこにも出発する時にはなかった建築中の建物がありますわ。私達が居ない間にまた街並みが変化してますね』

『後で落ち着いたらおまえ達を連れて視察に行かないとな』

『はい!』

 コルやマナも気づいた通りにグラベンの街は日毎に変化している。勢いのある地域とはこういうものなんだろうな。エルン地方に続いてクライス地方も手中に収めたので住民達にも勢いがあり、少しずつではあるが自分達が住む地元地域に対する誇りも生まれているのだろう。

 住民達のそんな勢いが地域を活性化させ、活性化した地域が新たな人材を呼び込むという好循環が生まれている。過去の歴史を紐解くと、隆盛を極めた国や地域はおそらくこのようなサイクルで発展していったのだろうと推測される。俺もこの勢いを止めることなく継続させていきたいものだ。

「エリオ様、無事にグラベンに帰ってこれましたね」

 斜め後ろから俺の護衛役でもある馬上のルネがそう声を掛けてきた。

「ああ、無事に帰ってこれたな。これも仲間や配下が頑張ってくれたおかげだ。勿論ルネの働きにも感謝してるぞ」

 そういえば、クライス地方に滞在中にリタとミリアムから届いた手紙にはルネに手を出してもいいというお墨付きがあったが、俺は考えた末にクライス地方滞在中はルネに手を出さなかった。もし、手を出すとしたらリタとミリアムに二人目の子供が出来てからにしようと思ったからだ。

 あと、論功行賞でルネに将軍職を用意していたのだが、ルネの希望としてどうしても俺の護衛役を続けたいというのもあり、将軍職待遇に身分を上げて引き続き俺の護衛を継続する事となった。そして、本人が望めば何時いかなる時も俺の直轄軍から遊撃軍を編成して率いる権限も持たせたんだ。

 凱旋して行軍する俺達の前方にグラベンの街の大広場が見えてきた。エルンを平定した時と同じように多くの住民達が詰めかけている。

「ラモンさん、今回も大勢の住民達が大広場に集まってるな」

「当然です。我らの躍進はこの地域に住まう人達の未来への希望ですからな」

 俺達が大広場に辿り着くと、街の入口で受けた以上の大歓声が沸き起こる。

「大勝利おめでとうございます!」
「俺は勝利を信じてたぜ!」
「皆さんお帰りなさい!」

 怒号のような大歓声が俺達を出迎えてくれて俺も正直びっくりだ。今更だけど、大勢の人達が叫ぶ声のパワーって凄いよな。

 馬を降り、主要な配下達と共に人垣を割りながら凱旋した俺達の為に用意された壇上に進んでいくと更に歓声が大きくなる。そして俺達もその歓声に手を振って答えるとボルテージは一気に最高潮となった。

 暫くその歓声を味わいながら皆が静かになるのを待って俺は大きな声で話し始めた。

「大広場に集まった人達よ。無事に勝利という形でこの街に帰ってくる事が出来た。この勝利は俺達の軍だけではなく、食料の準備や装備の生産など皆が俺達を支えてくれたおかげでもある。即ち、皆で勝ち取った勝利だ! 皆で喜びを分かち合おう!」

「「「応!!!」」」

 二回目の大きな戦いを終えて再び無事に帰って来れた感慨を味わいながら俺は住民達に向かって何度も何度も大きく手を振っていた。

 そして、熱狂のまま凱旋のセレモニーも終わり、クライス地方遠征軍を解散させた俺はコルとマナを脇に連れてラモンさんやロドリゴと共に自宅である領主館へと向かっていく。前方に領主感が見えてくると、エルン地方の平定が終わって帰ってきた時が思い出される。

 あの時はゴドール地方の領主になってから、初めての大規模遠征軍を組織して青巾賊の討伐をしたのだった。そういえば、リタとミリアムは妊娠中でまだレオもエマも生まれてなかったな。エルンを平定して戦後処理をして何とか子供が生まれる前にグラベンに帰って来れたんだっけ。

 懐かしい領主館に到着すると、以前の時と同じように配下や使用人が俺達の帰宅を出迎えてくれていた。ハハ、いつか見た光景だな。そして玄関の前には久しぶりに見る顔が四つ並んでいた。リタとミリアム、そして子供のレオとエマだ。

「リタ、ミリアム! レオ、エマ! 俺は約束通り無事に帰ってきたぞ!」

 俺の声を聞き、父親が帰ってきたと気がついた息子のレオと娘のエマが俺に向かって走ってくる。

「とうさま、おかえりなさい!」
「おとうさま、おかえりなさい!」

「おまえ達、元気にしてたか!」

 駆け寄ってきた二人の子供達をしゃがんで抱きしめてあげた俺は、二人の子供の体温を感じながら俺と子供達の姿を笑顔で見つめてこちらに向かってくるリタとミリアムに微笑みながら幸せの余韻に浸っていた。
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