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第162話 ゴドールへの帰り道

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 クライス地方を我らの領土に組み込み、統治の安定化に目処が立ったので俺は久しぶりにゴドールのグラベンに帰還するべく道中を進んでいる。遠くには円錐状の美しいサドマ山がその威容を見せてきた。

「ゴドール領内に入ったようだな」

「義兄さん、久しぶりにゴドールに帰ってきましたね」

 すると、俺のすぐ脇で黒い馬に乗って轡を並べている義弟のロドリゴが俺の独り言に反応して言葉を返してきた。なぜか俺のお株を奪うような黒い馬に騎乗するロドリゴ。ちなみに覚えている人がいるかもしれないが俺の騎乗する馬は黒馬ではなく白馬だからな。

 コイツは俺が与えた黒い槍を持つようになってからなんとなく黒という色を好むようになったのだ。ロドリゴに対して直接は言っていないが、黒の仲間が増えるのは正直嬉しいぞ。

 ちなみにだが、ロドリゴはこの前からガデルの家名を名乗っている。そう、覚えているかもしれないが、エルン地方を治めていたが青巾賊に滅ぼされてしまった家の家名だ。不幸にも家が絶えてしまったのでその家名を復活させて継ぐ形で新たにロドリゴに名乗らせたのだ。

 以前からエルンの人達に俺の一族の人間でガデル家を復活させてはどうかと要請を受けていたのでね。たまたまエルンにガデル家から枝分かれした分家の血を受け継いでいた独り身の老婦人が存在していたので、エルンに行ってロドリゴは形式的にその人の養子になったのだ。

 リタとロドリゴは元々家名を持っていなかったので、ロドリゴ本人も「これから僕の名前はロドリゴ・ガデルっすか。偉くなったような気がするっす」と言いながらガデルの家名継承を受け入れてくれた。

 さて、辺りを見回すと見覚えがある風景が広がってきた。なぜならば、この周辺はザイード軍がゴドールに攻め寄せて来た時に迎え撃った場所だからよく覚えている。登り坂が続いて左右に山肌が迫り出して来ている場所だ。

 ジゲルさんやベルマンさんがザイード軍をこの場で押し留め、山から騎馬で駆け下りてきたカウンさんやゴウシさんが横っ腹から攻撃を加えて相手を蹴散らした戦いからはかなりの日にちが経ったが、今でもつい最近の事のように思い出せる。タバロ坂の戦いと呼ばれる戦いだ。

 俺の斜め後ろに騎乗しながら付き従うブンツもこの場所を見て思い出したようで俺に声をかけてきた。

「エリオ殿。このタバロ坂の戦いでは当時ザイード軍だった自分は完敗しました。今はエリオ殿の忠実な配下となった私ですが、今にして思えばあの時に殺されずに生け捕りにされて捕虜となったのは運が良かったと思っています」

「ああ、あの時の戦いでは敵であるザイード軍に有能そうな奴がいたら、可能ならば俺の配下にしたいと思っていたからな。とりあえず、おまえ達をロドリゴやルネが捕らえて俺の前に連れて来た時に、ブンツやガンロの面構えを見て正直俺の配下に欲しいと思ったんだよ」

「ハハ、そのおかげで私はこうしてエリオ殿にお仕えする事が出来ました。本来なら殺されるところを助けてもらった御恩に報いる為にも、エリオ殿に心から認められ信頼されるように頑張るつもりです」

「そう言ってもらえると俺もあの時の決断が間違っていなかったと思えるよ」

 この前まで敵であった人物から心から信頼されたいと言われるのは配下達を束ねる領主として素直に嬉しい。昨日の敵は今日の友という言葉があるが、いざお互いに腹を割って打ち解けてしまえば同じ人間なんだと感じる。まあ、性格が合わなくてどうにもならない相手もいるけどな。

「ところでエリオ殿。クライス地方に居た私にもここ最近のゴドール地方は飛ぶ鳥を落とす勢いで発展しているという羨ましい噂を数多く聞いていました。私が以前用事があってゴドールを訪れたのは五年前でしたがまるで賑わっていませんでした。今は以前と違ってグラベンの街も活況を呈しているのでしょうな」

「ああ、俺も五年前のゴドールの事までは知らないが今のグラベンは大いに賑わっているぞ。まず、人の数が倍以上に増えて現在も更に増え続けている。そのおかげで街が手狭になって新しい街区を造成しているところだ。既に何個かの区画は完成していて新市街として住民達を受け入れている」

「ほう、それは凄いですね。私が知るグラベンの街とは大きく様変わりしているのですね。今から街の姿を見るのが楽しみでなりません」

「そうだな、楽しみにしてくれ。ただグラベンの街は狭い平野部分にある街なのでそこが悩みなんだ。開発にも限界があるしな。将来は別の街に拠点を移すのもありかもしれないな」

「なるほど。発展していても悩みがあるのですね」

 グラベンは愛着がある街だが、新区画を造成していても土地の形状的に平野部が限られていて手狭感があるからな。ゴドール地方が発展を続けるからこその嬉しい悩みだ。まあ、理想を言えば交易の利便性的に海があって港のある大きな平野に拠点の街があるのがいいんだけどね。

「とにかく、どこでもそうだが俺達や住民達が笑って幸せに過ごせるような街を作っていきたいと思ってる。ブンツも俺に協力して手を貸してくれ」

「勿論ですエリオ殿。私を登用して良かったと思われるように力を尽くして働く覚悟です。私も住民達の穏やかで幸せな姿が見たいですからね」

 昨日の敵は今日の友じゃないけど、以前は敵だったブンツとも今はお互いの気心が知れるようになり信頼関係も深まってきている。性格的に馬が合う感覚なんだよな。世の中には水と油の存在のようなどうしてもわかりあえない相手も居るし、すぐに打ち解けてしまう相手も居る。本当に不思議なものだ。

 そんなこんなで街道を進みながら行軍を続けていくと、前方の街道沿いに小さい街が見えてきた。ゴドール金山のお膝元であれよあれよという間に発展した街だ。最初は金山で働く工員達の生活必需品などを売る店が進出して、そのすぐ後に飲み屋などの歓楽街が出来ていったのだ。

 金山自体は脇道から山へ入った場所にあるが、山肌を削り街道までの道も滑らかになるように盛り土をしたり削ったりして道が整備された。街道沿いに建てられた集合住宅や宿舎に住む従業員達も多い。そんな従業員相手に商売をする店が多く建ち並び行き来する人も多く賑やかな街となっていた。俺達の帰還を待ち構えていた住民達が街道沿いに繰り出して歓声をあげている。

「エリオ様、お帰りなさい!」
「勝利おめでとうございます」
「我らが英雄達よ!」

 出迎えてくれる人々の表情は笑顔で溢れている。住民達には軍の中に親類や知人もいるのだろう。名前を呼ぶ声がそこかしこで聞こえてくる。

「おお、エリオ殿。ここが噂に聞くゴドール金山のお膝元に出来た街ですか?」

 金山のお膝元にある街と歓迎してくれる住民達を見てブンツが感嘆の声を上げる。

「ああ、そうだよ。この山の中にゴドール金山があって、そこで働く従業員や駐屯する軍の生活を支える街だ。活気があっていい街だろ」

「はい、ゴドールの躍進を支える金山の街ですから賑やかで活気があるのも当然でしょうね」

「俺の従魔達が見つけてくれた金山だからな。こいつらには感謝してもしきれないよ」

「素晴らしい従魔達ですね。強運が授かるように後で撫でさせてください」

「ああ、いいぞ。ブンツもきっとこの毛並みの虜になるだろう」

『コル、マナ。悪いけど後でブンツに撫でさせてやってくれ。頼む』

『わかりました主様。それくらいお安い御用です』
『結果は見えてますけど、また私の毛並みの虜になってしまうのですね』

『ハハ、たぶんブンツもそうなるだろうな』

 ブンツに聞こえないように念話で従魔達と話しながら、俺はそんなブンツの姿を頭に思い浮かべていたのだった。
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