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第160話 ロドリゴのアイデア

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 ガウディ家がクライス地方を統治する事になり、この地方の総代官として内政官からソラシンという人物を任命した。この人物はゴドール金山の運営管理責任者を経て、その後は高等内政官として他の高等内政官と共に内政全体の運営に関わっていた人物だ。

 ガウディ家が治める地域では基本的に内政と軍事は分け隔てている。内政は内政官が担当して中央では全体の統括。地方では地方官としての役割で代官として任命された地域全体や街を運営。税率を変える権限や徴税権は持たしていない。基本的に各地方の税率は同じだ。

 将軍達は立場的に軍事専門という位置付けになってるんだ。ほら、一人の人物にその地域の内政や軍事の権限を全て渡して運営を任せちゃうと独立勢力みたいになっちゃうからね。不測の事態以外の軍の編成や募集、行動計画は中央の会議を通さないと基本的に変更出来ない。キルト王国の崩壊の原因に教訓を得て、俺達は組織運営にちょっとした工夫を凝らしてみたんだ。

 地方領主がその土地ごとに各々徴税権や兵権を有し、独自の権限で思い思いの方法でその土地を治めると地域差や格差も出てきてしまう。だって、その土地によって資源量や産業の振興度には地域差があるし、食料の最大生産量も違うので治めるのに有利不利な土地があるのが現実だからね。地域差が平均化するように不利な地域には支援を厚くしていかないといけない。

「義兄さん、何だか難しい事を考えてるでしょ?」

「おっ、ロドリゴか。つい、色々と考えていてな。いざ皆が幸せになるようにと考えると現実は結構難しくてさ。なかなか理想通りにはいかないもんだ」

「たぶん、内政と軍事との兼ね合いや統治のあり方でも考えていたんじゃないっすか?」

 コイツ、相変わらず鋭いな。ズバッと核心を突いてきたぞ。本当に人の心が読めるんじゃないのか? 我が義弟ながら驚きの能力だ。

「ああ、色々とな。こんな俺でも広大な領土を有して統治している代表者だからな。実際の運営は優秀な内政官達や信頼出来る将軍達のおかげで俺の出る幕は多くはないけど、俺を慕う人達には幸せになってもらいたいので多少なりとも役に立てるように考えてるのさ」

「そういえば、義兄さん。このクライス地方にも早速養成所を作ってはみ出し者や落ちこぼれが出ないようにしてるっすもんね」

「希望する者が職の技能や知識を学べる養成所だろ。やる気や隠れた資質があっても学ぶ場所やそれを活かせるだけの場がなくて浮かび上がれない落ちこぼれの人達が結構いるからね。そういう人に技術を教えて手に職を持ってもらったり、知識を学ぶ場を作って将来の仕事に活かしてもらえばそれが街の発展にも繋がるんだ。俺はそういう人達を手助けしたい」

「さすが義兄さん、考えが深いっすね」

 ハハ、ロドリゴはそう言うが、俺も小さい頃に親父に色々な事を教わったからな。それの受け売りみたいなものだ。

「おまえも何かアイデアみたいなものはないか? 何でもいいから思いついた事を言ってみな」

「アイデアっすか……義兄さんにいきなりそう言われてもなぁ。あっ、そうだ!」

「何かあるのか?」

「前に市場へ買い物に行った時に、街の奥さん連中の世間話が耳に入ってきたんすよ。家に小さい子供がいて世話をしなくちゃいけないから外で働きたくても働けないって愚痴をこぼしてたんすよね。内職の仕事もあるけど外の仕事ほどお金が貰えない。どこかで子供を預かってくれるところはないかしらっていう話をしてたっす。僕もそれを聞いていて、働いてる間に子供を預かってくれる場所があったら奥さん達もその間の時間に家の外で働けるし便利かなって思ったんすよ」

「ロドリゴ。それ、いいアイデアだな」

 確かにそうだ。小さな子供がいる家庭は、どうしても子供の世話が優先されるので奥さん達は自分が外で働きたくてもなかなか働けない。そういう人達に子供を預かる場所を提供してあげれば、奥さん達の働く機会や働ける時間が増えるもんな。

 その家庭にとっては奥さんが子供を預けてその時間を有効に働く事で家計の足しにもなるし、街にとっても労働力が提供されて物の生産量が上がればその分活気づくのは間違いない。

 こちらから無理強いはしないが、小さい子供がいる家庭で少しの時間でも外で割の良い仕事で働きたいと思っている奥さん達は潜在的に多いはずだ。前向きで意欲的な人がいるならば応援してあげたいしね。

「ロドリゴ。ちょっと俺に付き合え。今から内政官達のところへ行くぞ」

「今からっすか?」

「当たり前だろ。さっきおまえの話した提案はなにげに素晴らしいものだぞ。今までは孤児を預かる施設はあったが、出来れば働きたいと思う奥さん達の為に子供を公的な場所で預かる施設はなかったからな。生活に余裕がなくお金の蓄えがない人でも無償で子供を預かってくれる施設があればきっと大勢の人が利用してくれるはずだ」

「言われてみればそんな気がしてくるっすね」

「ハハ、おまえは提案者として立派な功績を残せるぞ」

「僕なんかが人の役に立てるみたいで嬉しいっすよ」

 いや、ロドリゴはこう言って謙遜してるけど、元々コイツは人の心理を読み解く能力が高く、多少性格と喋り方は変わっているが相手の気持ちを相手の立場になって理解出来る優しい男だ。街中の住民の何気ない会話を聞いて無意識に自分に何が出来るのだろうかと考えていたのだろう。俺の縁者だという理由で贔屓されているように見られがちだが、統率力もしっかりと持っているし頼もしい男なのだ。

 俺はそんな義弟を微笑ましく思いながら、このアイデアを内政官達に俺の義弟のロドリゴのアイデアだと胸を張って報告出来るのが楽しみで仕方なかった。
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