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第159話 再編成

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 俺達がクライス地方の統治を開始して三ヶ月程の月日が経過した。

「エリオ殿、ようやく我らの方式が形になって政務が順調に回り始めましたな。頑張った甲斐があったというものです」

「ああ、優秀な配下達が頑張っているので予定よりも早く形になってきたね。本当に配下達の頑張りには感謝の気持ちでいっぱいだよ」

 配下が取り纏めた報告書を読みながら、俺とラモンさんはお互いに心から素直な感想を口にして今までの苦労をお互いに労った。

 今までのザイード家による統治のやり方からガウディ家の統治のやり方に順次移行させるには、通常ならそれなりの時間が必要になる。人に対しては等官制度や俸給制の導入など。あとは税率の変更や他の地域との行政の仕組みの統一などがそうだ。

 細かい部分で地域ごとに独自色があるのは構わないが、治める各地域によって基本となる行政の仕組みの根幹がバラバラだと運営する上で混乱を招きかねないからな。

 その悪い手本として滅ぶ寸前には図体ばかりが大きく、王家による統治が全く体をなしていなかったキルト王国の例を出すが、領主達が自分の治める各領地で好き勝手な方法で統治した事により、地域によって統治の仕方に差が出て土地ごとの住民達の不公平感や格差が大きくなってしまった。

 最終的にそれらに不満を持った連中が武装蜂起した結果、青い布を目印にした青巾賊の乱となって大きなうねりに繋がり、キルト王国内の各地にその勢いは飛び火していったのだ。国の図体の大きさの割に王権がそれほど強くない統治体制。その混乱を利用した大将軍によるクーデターが起こってしまい、あっという間に栄華を極めたキルト王国は崩壊してしまったという笑うに笑えない例がある。

 そういう理由があるからこそ、反発を受けながらも等官俸給制にして各地に独立した権力が分散しないような統治方法にしていくのがガウディ家の方針だ。ここクライス地方でもゴドールやエルンと同じになる組織制度の目処がやっと立ったところだな。

「エリオ様。ラモン長官。ちょっといいですか?」

 一息ついた俺とラモンさんに部屋に入って話しかけてきたのはラモンさんの部下で参謀のロメイだ。こいつにはクライス地方の制度変更の仕事では大きな権限を与えて内政官達と一緒に良く働いてもらった。どうしてもガウディ家の方針に頑強に首を縦に振らない人達などがいらっしゃったので、そういう人達には最初は穏便に接しつつも最後は力ずくで退場してもらったのだがこれもロメイの仕事だったからな。こいつの良いところは俺の為、いや民の為には嫌な仕事も全く厭わないところだ。さすがラモンさんの後継者候補だ。

「どうしたロメイ?」

「軍の再編成についてですよ」

「ああ、頼んでいた軍の再編成案が出来上がったのか?」

「そうです。それで再編成案を二人に確認してもらいたいんですよ」

 ロメイが俺に話してきた軍の再編成案についての報告だが、クライス地方という広大な土地を新たにガウディ家の領土に組み込んだので、ガウディ軍の編成を作り直して再編成する運びになったのだ。

 その再編成案で大きな変更となるのが、俺達と戦ったザイード軍のように軍団制にして数個の軍をまとめて一つの軍団に所属させるというやり方だ。軍団を取り仕切る軍団長の役職を設けて、各軍の将軍や参謀達がその軍団長に従うというものだ。

 ブンツやガンロ、コラウムやトウコウチなど一軍を率いていた経験のある者や、副官や部隊長経験者など戦いの渦中や降伏後に良き人材が大勢手に入ったのでね。ラッセル将軍やバルミロ将軍が南進中に確保した人材もかなり使えそうだ。そして、今もガウディ家の元には様々な人材が続々と仕官を求めて訪問してくる。

 そこで増えた人材を個々の軍としてバラバラに運用していくのは効率を考えると無駄が多いので、軍団という大きな枠を作りそこに適材適所の人材を組み込むという形にしたのだ。

「そうか、その再編成案を見せてくれ」

「ええ、こちらがその再編成案です。エリオ様とラモン長官の二人の分を用意してますからどうぞ」

 俺とラモンさんはロメイから再編成案が書かれた書類を受け取って目を通し始める。

 再編成案の概要はこんな感じだ。

 まず第一軍団だが、軍団長はカウン将軍が昇格してその任に就く。
 そして、第一軍団に所属する軍だが、カウンさん直属のカウン軍、バルミロ軍、ベルマン軍、それに加えて新たに将軍職となったガンロが率いるガンロ軍が第一軍団を構成する布陣になった。

 次に第二軍団。
 軍団長はゴウシ将軍が昇格してその任を務める。
 第二軍団に所属する軍はゴウシさん直属のゴウシ軍、ラッセル軍、新将軍のコラウム軍、同じく新たに将軍を拝命したブンツの副官だったデポが将軍に昇格したデポ軍が第二軍団を構成する軍だ。

 もう一つ、第三軍団も編成した。

 軍団長にはジゲル将軍が就く。
 第三軍団に所属する軍はジゲル直属のジゲル軍、傭兵団長だったトウコウチが新将軍となって率いるトウコウチ軍、元ザイード軍の部隊長だったルコウが将軍になって率いるルコウ軍、それに加えてラッセルさんとバルミロさんがクライス地方北部から南進中に見つけて来た人材で、何年も前にザイード家の方針と合わずに将軍を解任され、自宅で隠遁生活をしていたモデンという人物を新将軍に抜擢して軍を任す事にした。本人と直接面接をしたところ、俺の考えに共感を持ちガウディ家に忠誠を誓ったのでね。

 第一軍団の管轄はゴドール地方とクライス地方の最南部。第二軍団の管轄はクライス地方中央部。第三軍団の管轄はエルン地方とクライス地方最北部。クライス地方は広いので最北部と最南部は管轄地域を切り分けている。

「事前に幹部達で話し合った腹案が多少の変更はあれどほぼ採用されたようだな」

「そうですな。所属する軍に多少の変更が加えられていますが、ロメイに軍の再編成案のほとんどは任せておりますので私からは何も言う事はありません」

「ラモン長官からの信任は何よりも嬉しいですね。あと、エリオ様の要望通りに将軍になったブンツ新将軍と、将軍職に昇進したソルン将軍はどうしますか?」

「ああ、それだけどな。ブンツは俺の直属になりブンツ軍として組み入れるつもりだ。ソルン軍はゴドールのグラベンに置く。あと、近衛軍の名称も変更してロドリゴ軍としてくれ」

「わかりました。話は変わりますが、エリオ様の命では次の戦いに備えて準備を整えよとの仰せですが、そこらへんの下準備は私にお任せください」

「よろしく頼む。そのうち戦いになるのは確実だろうからな。ラモン長官とも相談して万全を期してくれ」

 これでガウディ軍の再編成案は了承という運びになるだろう。皆頑張ってくれよ。
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