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第150話 三人の演説
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次の日の朝が来た。
「矢を放てっ!」
「「「応ッ!」」」
部隊長の号令一下、マルドの街中に向けて塀の外側から一斉に矢が放たれた。物見台の上にいたザイード軍の兵士は、俺達の総攻撃が始まったと思い慌てて木で造られた階段を駆け下りていく。
「次の二矢目は出来るだけ遠くに飛ばしておけよ」
「はっ!」
俺の言葉を受けた部隊長はもう一度号令をかける。
「二矢目は出来るだけ遠くに飛ばせ! 二矢目、放てっ!」
「「「応ッ!」」」
実に良い角度の放物線を描きながら、さっきよりも格段と飛距離を出して矢が街中へ向けて飛んでいく。それでも俺達が囲んでいるマルドの街はかなりの大きさがあるので中心部までは到底届かない。でも、それでもいいのだ。放たれた矢には別の意味があるのだからな。
「どうかなラモンさん」
「すぐには効果は出ないでしょう。でも、徐々に効果が出てきて確実に街全体に広がっていくでしょうな。エリオ殿が目論んだ結果になる確率はこの私が思うにかなりあると思いますぞ」
俺達のやったのは離間工作だ。放たれた矢には文が結び付けられていて、そこにはこう書かれている。
『マルドの街にいる者達よ。我らはゴドールに侵略してきたザイード家を許す事は出来ない。だが、このクライス地方に住む住民達やザイード家に命令されて仕方なく戦おうとしている兵士達には何ら恨みもない。また、マルドの街を戦場にするのは我らの本意ではない。そこで提案がある。この戦乱を招いた元凶であるザイード家の者達をマルドの街の者達自らの手で処罰して欲しいのだ。そして、街がザイード家から開放された暁には住民全員に手当金を配る事をエリオット・ガウディの名において約束するものである。しかし、明後日の昼までに事が行わなければ街ぐるみで我らに敵対するものと見なしてマルドの街へ総攻撃をかける。この文を読んだ諸君達の奮起を願うものなり!』
先程マルドの街中に放たれた全ての矢にはこの文が括り付けられていた。くだけた言い方だと、俺達が憎むのはザイード家だ。街にいる人達はそうではないのでザイード家の連中を自ら倒してくれるなら戦闘で街を破壊しなくて済むし街の人達も巻き添えを受けないよ。でも、敵対するなら容赦はしない。何が言いたいのかわかるよね。後はよろしく頼むよって感じだな。
「義兄さんも上手い事を考えたもんっすね。自分の手を汚さずに街の中にいる住民達や兵士にあわよくばザイード家を倒させようって考えっすからね」
「ああ、ロドリゴの言う通りだ。だけど、実際にこちらの目論見通りに上手くいくかどうかはわからないけどな。こればかりは半分賭けのようなものだ」
「エリオ様。私はこの作戦が上手くいくと思いますよ。住民達からしたら街全体が戦場になるのを回避するにはザイード家を倒しさえすればいいのですから。兵士達だって無駄死にはしたくないと思っているはずです」
「ハハ、ルネにお墨付きを貰えたので何だか上手くいくような気がしてきたよ」
「例え上手くいかなかったとしても、こちらは当初の予定通りに攻めるだけですからな。門を破壊する為の破城槌も用意してありますしたくさんの梯子の用意もあります。エリオ殿の従魔が切り込み役として塀を飛び越えて街に入り、門の付近にいる敵の兵士達を片付けてくれれば邪魔なく悠々と門を破壊出来ます。街になだれ込んでしまえばさすがに多少の被害は出るでしょうがどっちにしても我らの勝利は動かないと思います」
ラモンさんの言うように、コルとマナの並外れた跳躍力でこの塀は乗り越えられるし、従魔達なら苦もなく門付近にいる敵の兵士達を片付けられる。
『主様の指示があればいつでも行けます』
『エリオ様。私と弟のコルにかかればあっという間に終わりますよ』
『そうだな、俺の目論見が上手くいかなかったらおまえ達の出番だ。その時になったらよろしく頼むぞ』
『はい! 任せてください』
『エリオ様、その時が来たらサクッと皆殺しにしてきますね』
フフ、俺の従魔達の頼もしいことよ。でも、マナはちょっと怖いぞ。
「さて、後は二日後を待つだけだ。だが、皆は警戒は怠らないように。ないとは思うが、向こうも窮鼠猫を噛むじゃないけど追い詰められたら何をするかわからないからな。いつ攻撃されても迎え撃てるように気を緩めずに万全の備えをするように各軍に伝令を送っておいてくれ」
「エリオ殿、畏まりました」
そして、俺達は臨戦態勢を整えながらマルドの街の包囲を続けていった。夕方の刻限になったがまだ何事も起こらず、街の中はまだ反乱が起きていないとみえる。さすがに矢文を放ってからすぐに行動を起こすとは思えないからな。今頃は俺達が放った矢文を拾って見た連中が集まってこの先どうするか相談してるのかもしれない。
今日の最後の締めと言ったら何だが、街の中の人達に俺達に寝返っても何も心配ない事を伝えておこう。俺はこちら側に寝返って俺とガウディ家に忠誠を誓った元ザイード軍の将軍達を呼び寄せた。
「ブンツ、ガンロ、コラウム。街の中まで聞こえるように大きな声で頼む」
「「「はっ!」」」
三人はマルドの街を取り囲む石壁の近くに俺達が用意した結構な高さのある偵察台の上に昇った。高さ的に街中からは三人の姿が確認出来るはずだ。そして、ブンツから順番に街の中へ向けて大音声で演説を開始した。
「マルドの街の者共よ、よく聞け! 私はつい先日までザイード軍の将軍だったブンツだ。私はザイード家に命令されガウディ家のエリオ殿が治めるゴドール地方を侵略しようとしたが、ゴドールの兵に返り討ちに遭いあっさり捕らえられた。だが、ガウデイ家のエリオ殿は捕らえた私を殺すどころか、寛大な処置と温情を持って自らの配下に取り立ててくれたのだ。マルドの街の者共よ。今こそザイード家を倒し、私と同じようにエリオ殿の傘下に入ろうではないか!」
次はガンロの番だ。
「マルドの街の者達よ、俺もブンツと同じく先日までザイード軍の将軍を務めていたガンロだ! ブンツと同じくガウディ家が治めるゴドール地方を侵略したが俺も捕らえられてしまったのだ。その後、エリオ殿の面前に引き出されて死を覚悟したが、エリオ殿は生きて俺の配下になれと言われた。そして、エリオ殿の器の大きさを感じた俺はエリオ殿の忠実な配下となる決心をしたのだ。マルドの街の者達も俺と同じくエリオ殿の傘下に加わろうぞ!」
二人共、なかなかの名演説だな。褒められて悪い気はしないけどちょっと恥ずかしいぞ。さて、残るはコラウムか。
「マルドの街の皆の衆よ、俺は先日までこのマルドの東にあるクレの街を治めていたコラウムだ! ザイード家とガウディ家との間で戦端が開かれた後、俺なりに考えがあったので中立を宣言してクレの街で様子を見ていた。すると、そこに現れたのが今の俺の主であるエリオット・ガウディ様だ。俺は無謀にもエリオ様に試合を挑み、赤子の手をひねるように簡単にあしらわれて敗北した。強さを己の信条とする俺にとってエリオ様の規格外の強さはまさに武の王様とも呼べるものだ。男が男に惚れるなんて人生でそうあるものではないが、エリオ様は俺が惚れる価値があると思った初めての人物だ。マルドの街の皆の衆よ、俺と一緒にエリオ様の力になろうではないか!」
おお、コラウムもなかなかの演説だ。俺の強さを武の王様なんて例え方をしていたけど、なにげに核心をついてるじゃないか。少しだけドキッとしたぞ。
「三人ともご苦労だった。皆の演説なかなかのものだったぞ。これで街の人達の心が俺達に傾いてもらえば言うことなしだな」
「「「はっ! ありがとうございます」」」
俺は台から降りてきた三人を肩をポンポンと叩いてやりながら労ってやった。
「矢を放てっ!」
「「「応ッ!」」」
部隊長の号令一下、マルドの街中に向けて塀の外側から一斉に矢が放たれた。物見台の上にいたザイード軍の兵士は、俺達の総攻撃が始まったと思い慌てて木で造られた階段を駆け下りていく。
「次の二矢目は出来るだけ遠くに飛ばしておけよ」
「はっ!」
俺の言葉を受けた部隊長はもう一度号令をかける。
「二矢目は出来るだけ遠くに飛ばせ! 二矢目、放てっ!」
「「「応ッ!」」」
実に良い角度の放物線を描きながら、さっきよりも格段と飛距離を出して矢が街中へ向けて飛んでいく。それでも俺達が囲んでいるマルドの街はかなりの大きさがあるので中心部までは到底届かない。でも、それでもいいのだ。放たれた矢には別の意味があるのだからな。
「どうかなラモンさん」
「すぐには効果は出ないでしょう。でも、徐々に効果が出てきて確実に街全体に広がっていくでしょうな。エリオ殿が目論んだ結果になる確率はこの私が思うにかなりあると思いますぞ」
俺達のやったのは離間工作だ。放たれた矢には文が結び付けられていて、そこにはこう書かれている。
『マルドの街にいる者達よ。我らはゴドールに侵略してきたザイード家を許す事は出来ない。だが、このクライス地方に住む住民達やザイード家に命令されて仕方なく戦おうとしている兵士達には何ら恨みもない。また、マルドの街を戦場にするのは我らの本意ではない。そこで提案がある。この戦乱を招いた元凶であるザイード家の者達をマルドの街の者達自らの手で処罰して欲しいのだ。そして、街がザイード家から開放された暁には住民全員に手当金を配る事をエリオット・ガウディの名において約束するものである。しかし、明後日の昼までに事が行わなければ街ぐるみで我らに敵対するものと見なしてマルドの街へ総攻撃をかける。この文を読んだ諸君達の奮起を願うものなり!』
先程マルドの街中に放たれた全ての矢にはこの文が括り付けられていた。くだけた言い方だと、俺達が憎むのはザイード家だ。街にいる人達はそうではないのでザイード家の連中を自ら倒してくれるなら戦闘で街を破壊しなくて済むし街の人達も巻き添えを受けないよ。でも、敵対するなら容赦はしない。何が言いたいのかわかるよね。後はよろしく頼むよって感じだな。
「義兄さんも上手い事を考えたもんっすね。自分の手を汚さずに街の中にいる住民達や兵士にあわよくばザイード家を倒させようって考えっすからね」
「ああ、ロドリゴの言う通りだ。だけど、実際にこちらの目論見通りに上手くいくかどうかはわからないけどな。こればかりは半分賭けのようなものだ」
「エリオ様。私はこの作戦が上手くいくと思いますよ。住民達からしたら街全体が戦場になるのを回避するにはザイード家を倒しさえすればいいのですから。兵士達だって無駄死にはしたくないと思っているはずです」
「ハハ、ルネにお墨付きを貰えたので何だか上手くいくような気がしてきたよ」
「例え上手くいかなかったとしても、こちらは当初の予定通りに攻めるだけですからな。門を破壊する為の破城槌も用意してありますしたくさんの梯子の用意もあります。エリオ殿の従魔が切り込み役として塀を飛び越えて街に入り、門の付近にいる敵の兵士達を片付けてくれれば邪魔なく悠々と門を破壊出来ます。街になだれ込んでしまえばさすがに多少の被害は出るでしょうがどっちにしても我らの勝利は動かないと思います」
ラモンさんの言うように、コルとマナの並外れた跳躍力でこの塀は乗り越えられるし、従魔達なら苦もなく門付近にいる敵の兵士達を片付けられる。
『主様の指示があればいつでも行けます』
『エリオ様。私と弟のコルにかかればあっという間に終わりますよ』
『そうだな、俺の目論見が上手くいかなかったらおまえ達の出番だ。その時になったらよろしく頼むぞ』
『はい! 任せてください』
『エリオ様、その時が来たらサクッと皆殺しにしてきますね』
フフ、俺の従魔達の頼もしいことよ。でも、マナはちょっと怖いぞ。
「さて、後は二日後を待つだけだ。だが、皆は警戒は怠らないように。ないとは思うが、向こうも窮鼠猫を噛むじゃないけど追い詰められたら何をするかわからないからな。いつ攻撃されても迎え撃てるように気を緩めずに万全の備えをするように各軍に伝令を送っておいてくれ」
「エリオ殿、畏まりました」
そして、俺達は臨戦態勢を整えながらマルドの街の包囲を続けていった。夕方の刻限になったがまだ何事も起こらず、街の中はまだ反乱が起きていないとみえる。さすがに矢文を放ってからすぐに行動を起こすとは思えないからな。今頃は俺達が放った矢文を拾って見た連中が集まってこの先どうするか相談してるのかもしれない。
今日の最後の締めと言ったら何だが、街の中の人達に俺達に寝返っても何も心配ない事を伝えておこう。俺はこちら側に寝返って俺とガウディ家に忠誠を誓った元ザイード軍の将軍達を呼び寄せた。
「ブンツ、ガンロ、コラウム。街の中まで聞こえるように大きな声で頼む」
「「「はっ!」」」
三人はマルドの街を取り囲む石壁の近くに俺達が用意した結構な高さのある偵察台の上に昇った。高さ的に街中からは三人の姿が確認出来るはずだ。そして、ブンツから順番に街の中へ向けて大音声で演説を開始した。
「マルドの街の者共よ、よく聞け! 私はつい先日までザイード軍の将軍だったブンツだ。私はザイード家に命令されガウディ家のエリオ殿が治めるゴドール地方を侵略しようとしたが、ゴドールの兵に返り討ちに遭いあっさり捕らえられた。だが、ガウデイ家のエリオ殿は捕らえた私を殺すどころか、寛大な処置と温情を持って自らの配下に取り立ててくれたのだ。マルドの街の者共よ。今こそザイード家を倒し、私と同じようにエリオ殿の傘下に入ろうではないか!」
次はガンロの番だ。
「マルドの街の者達よ、俺もブンツと同じく先日までザイード軍の将軍を務めていたガンロだ! ブンツと同じくガウディ家が治めるゴドール地方を侵略したが俺も捕らえられてしまったのだ。その後、エリオ殿の面前に引き出されて死を覚悟したが、エリオ殿は生きて俺の配下になれと言われた。そして、エリオ殿の器の大きさを感じた俺はエリオ殿の忠実な配下となる決心をしたのだ。マルドの街の者達も俺と同じくエリオ殿の傘下に加わろうぞ!」
二人共、なかなかの名演説だな。褒められて悪い気はしないけどちょっと恥ずかしいぞ。さて、残るはコラウムか。
「マルドの街の皆の衆よ、俺は先日までこのマルドの東にあるクレの街を治めていたコラウムだ! ザイード家とガウディ家との間で戦端が開かれた後、俺なりに考えがあったので中立を宣言してクレの街で様子を見ていた。すると、そこに現れたのが今の俺の主であるエリオット・ガウディ様だ。俺は無謀にもエリオ様に試合を挑み、赤子の手をひねるように簡単にあしらわれて敗北した。強さを己の信条とする俺にとってエリオ様の規格外の強さはまさに武の王様とも呼べるものだ。男が男に惚れるなんて人生でそうあるものではないが、エリオ様は俺が惚れる価値があると思った初めての人物だ。マルドの街の皆の衆よ、俺と一緒にエリオ様の力になろうではないか!」
おお、コラウムもなかなかの演説だ。俺の強さを武の王様なんて例え方をしていたけど、なにげに核心をついてるじゃないか。少しだけドキッとしたぞ。
「三人ともご苦労だった。皆の演説なかなかのものだったぞ。これで街の人達の心が俺達に傾いてもらえば言うことなしだな」
「「「はっ! ありがとうございます」」」
俺は台から降りてきた三人を肩をポンポンと叩いてやりながら労ってやった。
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