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第145話 クレの街へ

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 今、俺の目の前にいるのはマルドの街の周辺調査を担当していた部隊長だ。

「エリオ様。マルドの街周辺を調査してまいりました」

「それでどうだった?」

「はい、マルドの街へと入る手段は北と南にある二つの門なのですが、人の通行に厳しく制限を加えていて兵士が門を守備をしておりました」

「第一軍団の行方は掴めたか?」

「それなのですが。防衛の為にマルドの街に向かったのは掴んでいますが、どうやら軍を離脱した者が大量に出ているらしく軍団としての人数は激減しているようです。二人いる将軍の内の一人は、仲間割れをして自分の治める街に帰ってしまったようです」

「ほう、ザイード軍はかなり弱体化しているようだな」

「その通りです」

 力攻めをしてもいいが、出来るだけ味方の損害は少なくしたい。優秀な人材や兵士達がどこからかすぐに生えてくる訳ではないからな。誰が言ったか知らないが、戦わないで勝てるならばそれが一番良いという言葉が古くから戦いの真髄として伝わっているくらいだ。

「ザイード軍から離脱したという将軍を懐柔出来ないものですかな?」

 ラモンさんが懐柔の提案をしてきたのはさっき報告にあった自分の街へと帰ってしまった将軍か。どんな人物なんだろうか確かに気になる。

「ちょっとよろしいですか。私に発言をお許しください」

「ブンツか、発言を許す」

「偵察部隊の隊長に聞くが、離脱した将軍の名前はコラウムという者ではないか?」

「そうです、そのコラウムという名前の将軍がクレという街へ戻ったのです」

「やはりそうか。コラウムは以前からザイード家への反感を持っていた。おそらく、我々第二軍団がエリオ殿達に完膚なきほどに叩き潰されたとの知らせを聞き、ザイード家に仕えていた私やガンロ達がエリオ殿に寝返ったのを知ったのだろう。たぶん、今のあいつならエリオ殿と私が説得すればこちらの陣営に加わってくれると思います」

 ふむ、ブンツが言ってるのが本当ならコラウムという名の者はこちらに寝返る可能性があるのだろうな。ザイード家とコラウムとやらの関係はブンツの言葉を信じるしかないが、戦わずに将クラスの人材が手に入るならダメ元でコラウムに調略を試みる価値がありそうだ。

「ブンツ。クレという街をおまえは知っているか?」

「はい、クレには何度か訪れているので知っています」

「よし、決めた。そのコラウムという奴の調略を試みてみよう。俺自らが赴くからブンツも一緒について来い。第一軍と近衛軍、そして親衛隊も連れて行くとするか。カウンさん、ロドリゴ、ルネ。悪いがクレという街まで俺の護衛を頼む。話し合いに応じずに向こうがこちらへ軍として攻めかかってきたら倒して構わない。ラモンさんも一緒に来てくれ」

「はっ! 兄者よ、それがしに何でも申し付けてくれ」
「僕の出番っすね。任せてくださいっす」
「エリオ様の警護なら親衛隊長の私にお任せあれ」
「そういう事ならすぐに行きましょう」

 俺達は手早く準備を整え、クレという街に向けてアルマの街を出発した。アルマにはベルマンさんの軍が残り、ゴウシさんやジゲルの軍は引き続きクライス地方の掌握に向けてマルドの街攻略の下地を作っていく作業だ。

 もし、クレの街にいるというコラウムという者を味方に引き込めれば俺達にとってザイード家の本拠地マルドの攻略が超有利になるだけでなく、ブンツやガンロと同じように貴重な将の経験がある人材を手に入れられる。まさに一石二鳥という訳だ。

 さて、これから向かうクレという街。この街はザイード家の拠点であるマルドの街からは方角的に東に位置していている。このクレの街とコラウムという人物が手に入れば、俺達に恭順の意思を示したアルマの街から見て西にあるカルノ村と同様に、戦略的に意味のある場所を押さえる事が出来る。つまりあとは北を押さえれば包囲状態となり、マルドの街は俺達を倒さない限り陥落という運命が待ち受けている。

「ちょっとロメイに聞きたい事がある。こっちへ来い」

 たまたまラモンさんの元へ情報交換の為に訪れていた第一軍の参謀であるロメイを見つけたので呼んでみる。

「エリオ様。もしかして私をお呼びですか?」

「そうだ。ロメイにちょっと聞きたい事があってな」

「私の女の好みですか?」

「アホか! そんなんじゃない!」

 全く、こいつは冗談ではなく本気でこういう返答をしてくるからな。

「おまえに聞きたいのはそんなのではない。クレの街を取れたらマルド攻略も楽になると思うか?」

「そっちでしたか。クレの街が取れて北方面も片付けば楽になるどころかマルドは落ちたも同然ですね。私がザイード家の立場なら頭を抱えて震えているところですよ」

 こういう返答が返ってくるのは予想していたが、たまにはロメイとも話しておきたかったのでな。

「わかった。戻っていいぞ」

「はい、それじゃ失礼しまーす」

 ふと横を見るとラモンさんが笑っている。

「エリオ殿、あいつはちょっと変わってますからな」

「ハハ、あいつと話すとついツッコミたくなるんだよ」

 そんな話をしながら街道を進んでいると、前方にそれらしき街が見えてきた。たぶんあれがクレの街で間違いないだろう。眼の前に見える街を確認して俺の近くに近寄ってきたブンツが話しかけてきた。

「エリオ殿、あれがクレの街です。クレの街には私の顔を知っている者がいるはずです。コラウムとの面会を願い出てみましょう」

「そうだな。最初の交渉役はブンツに任せてみるか。ただ、向こうが俺達にどうしても会いたくないと言ってきた場合は交渉決裂と見て攻めかかると釘を刺しておけよ」

「はい、コラウムもそこまで馬鹿ではないと思いますが伝えてみます」

 俺の命令でクレの街のコラウムとの交渉役と指名されたブンツが、街の南門に向けて武器を置いて無腰のまま歩いていく。ブンツも俺の信用を勝ち取る為に積極的に俺の役に立とうとしてるのが伝わってくる。とにかく今はブンツに任せよう。
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